テラーノベル
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四年振りに聴く恩師の音色は、変わらず朗々として響き、演奏姿は長めの髪のせいか、ワイルドでカッコいいと、瑠衣は顔を綻ばせそうになってしまう。
(ヤバい……やっぱ響野先生…………ラッパ吹いてる姿は素敵……!)
ピストンを押す筋張った指先が妙に色香を漂わせていて、つい見入ってしまう。
(せっかく吹いてもらってるのに……変な気持ちになっちゃうのはダメでしょ……)
吹いている時に時折見せる、眉間に皺を寄せた表情に、瑠衣は不覚にもキュンとしてしまう。
そんな想いをよそに、侑は主題部分を吹き終わると、ゆっくりと楽器を下ろした。
「えぇ〜? 『鬼パン』の部分だけで終わりですかぁ〜?」
彼女は態とらしくガッカリしたように項垂れると、侑はまたも横目で軽く睨む。
「…………お前なぁ、『鬼パン』って言うの止めろ」
「だって、幼稚園で『鬼のパンツ』歌ったし、私の中で、あのメロディは『フニクリ・フニクラ』よりも『鬼のパンツ』ですし」
瑠衣は懐かしく思ったのか、無意識に『♪強いぞ〜、強いぞ〜♪』と口ずさみ、その様子を見た侑は長い前髪をクシャっと掴んで掻き上げると、呆れ返ったようにフウッと息を吐き出した。
「…………まぁいい。お前がこの曲を吹いてみたいのなら、スコアは本棚に入ってるから見てみるといい」
「やった! 先生、ありがとうございましたっ」
笑みを浮かべながら礼を述べる瑠衣。
「…………やれやれ……」
(コイツは大学卒業してから…………いや、あの娼館へ行ってから性格が変わったのか? 大学時代は、もっと無口だったように思うが……。あるいは、これがコイツの……本来の性格なのか……)
そんな事を考えながら侑は後頭部を軽く掻きつつ、ここに来てから少しずつ笑顔を覗かせるようになってきた瑠衣に、どこか安堵感も抱いていた。
夕食も入浴も済み、ソファーでくつろぎながら瑠衣はレッスンを受け始めてから思っていたことを口にした。
「そういえば私…………無一文の状態で、先生のレッスン受けてるんですよね……」
彼は顎に手を添えながら、視線を前に向けたまま。
ずっと無言のまま思考の海を漂っていると思われる侑に、彼女は彼の顔を覗き込んだ。
「…………先生?」
瑠衣の問い掛けに、侑は面差しを向けると腰に腕を回して抱き寄せた。
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