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〈異常な魔力量を検知。警戒を厳に。最大出力の魔法障壁を展開します〉
魔導戦艦に備えた自動音声は、戦艦そのものが状況の変化を的確に読み取り、艦長であるレモンドの指示よりも先に行動した事を伝えた。
「空が……布をひっぺがすみてぇに……」
レモンドだけではなく、それは艦橋に居たクルー全員が目にし、そして同じように驚愕して思考が止まっていた。
自動音声に促されるように計器類を見たが、その情報もすぐには頭に入ってこない。
〈左舷王軍の降伏を確認。魔王はロスト中〉
その言葉の意味するものは、この戦闘を継続すべきなのかどうか、専用の軍事訓練を行ったわけではないレモンド達には、瞬時に理解できなかった。
そこに、艦橋窓を貫く何かが、レモンドはじめ、クルー全員が目にした。
真横から一閃、黒い光がひと筋だけ、一秒ほどの時間をかけて。
まるで黒いレーザーだった。
一瞬の出来事に、誰にも、何が起きたのか分からずに、ただそれを見送った。
〈障壁を貫通されました! 艦橋窓破損! クルーに負傷者無し!〉
落ち着いた音声だったはずが、これにはけたたましく注意喚起している様子だった。
お陰で、皆は緊張を取り戻した。が、同時に動揺を生んだ。
「ま、魔王か!」
レモンドがようやく状況を理解し、それが魔王によってもたらされた結果であると思考した。
「ま……前に魔王です!」
クルーの誰かが叫んだ。
数十メートルという高さにある艦橋の、その前に魔王の姿があると。
「お、おおおおお!」
この巨大戦艦において、ここまで懐に入られた時の対処など無い。
様々な攻撃兵器の仕様を制限している、とはいえ、防御に関しては最大限使っている。
にも拘らず、魔王に懐まで入り込まれてしまったのだ。
「ぐ……一体、どうやってここまで……」
レモンドは、搭載している装備全てを脳内シュミレーションしても、対処可能なものがひとつも無い事に悔しさを滲ませた。
「この勝負、俺の勝ちでいいな?」
そしてその声は、レモンドの隣から聞こえた。
先程まで艦橋の外に居たはずの魔王が、転移で中に入り込んだのだ。
「お、おおおぉ……」
完全に敗北だった。
単に、隙をついて転移だけしてきたのではない。
魔王の魔法攻撃に耐え得る設計であると、そのはずの障壁を容易く貫通された上で、艦橋の中に入り込まれたのだ。
「なかなか面白いものを造るんだな。俺も欲しくなった」
魔王はニヤリと笑んだように見えた。
しかしそう言い残すと、また姿を消した。