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ある日突然モンスターが村に現れた。たまたま村に居合わせた勇者が剣をふるい、村は難を逃れ救われた。それを目の当たりにしたわたしは感動にうち震え、勇者を目指すようになった。
「とてもかっこよかったんです。わたしも誰かを助ける存在になりたい。村のみんなの笑顔を守りたい。そう思ったから、勇者になろうと決めたんです」
あの時のことを思い出すと胸が震える。まだ六歳と小さかったけれど、よく覚えている。村の皆の安堵した表情は忘れられない。
わたしは首にかけているネックレスのチャーム部分を胸から出す。光の反射によって虹色にも見えるそれは、楕円形でまるでうろこのような形をしていてとても綺麗だけれど、無数にヒビが入って今にも割れそうになっている。
「これ、そのときの勇者にもらったんです。泣いていたわたしに、お守りだよって」
「ふうん、その割にアンタ弱そうね」
せっかく思い出に浸っていたのに、ママは興味なさそうに食器を下げながら手厳しいことを言う。まさに図星なので言い返すことができず、わたしはぐぬぬと唇を噛んだ。
「ま、まだ修行中なんです。これから頑張るんです」
「何言ってんのよ。うちの店の前で死にかけてたくせに」
「うっ」
「修行中とか言うけど、誰かに弟子入りしてるわけでもなさそうだし、全然ダメでしょ」
「うっ」
「だいたいなあに、そのお守り。ヒビが入りまくりじゃないの。何度アンタの身代わりになってくれてるのよ」
「ううっ」
「それにその剣。アンタにはでかすぎるのよ」
「うううっ」
厳しいっ。厳しすぎるよママ。
わたしちょっと泣きそうなんですけど。
「アンタちょっとこれ持ってみなさい」
ママに手招きされてよくわからないまま素直にカウンターへ入る。
「……包丁?」
「その包丁でこれ切ってみなさい」
「何ですか、これ」
目の前には緑色で細長い物体が置かれている。
「きゅうりっていう野菜よ。異世界の食べ物」
「異世界? あの、ママって一体何者……?」
「アンタからしたらアタシは異世界人。アタシからしたらアンタが異世界人。そんなことはどうでもいいのよ。早く切りなさいってば」
「え、ええっ? こうですか?」
戸惑いながらも、わたしはきゅうりをトントンと切った。包丁が木のまな板に当たって小気味よい音がする。
「剣を使いたいなら包丁を使いなさい。魔法が使いたかったらこの粉を使いなさい」
言われるがまま、きゅうりによくわからない粉をふって手でモミモミと混ぜ合わせた。
「あの、これのどこが勇者でどこが魔法使いなんですか?」
ただ料理をしているだけだ。いや、料理というよりも作業に近い。こんなことをして何になるというのだ。
わたしは首を傾げながらママを見る。
ママはふふんと鼻を鳴らした。