テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
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えれめんたる
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ピコン
その通知音は、いつもの退屈な着信音とは違った。
どこか硬質で、聴覚の奥を冷たく刺すような電子音。
スマホの画面をタップすると
見覚えのないアイコンが一つだけ、ホーム画面のど真ん中に鎮座していた。
『ルートQ』
こんなアプリなんて入れた覚えはない。
不思議に思いながらアイコンを触れると
画面いっぱいに白い背景が広がり、無機質な黒文字が浮かび上がった。
『目的地まで、最も「幸福な結末」に辿り着くルートを案内します』
なんだ、これ。
流行りの占いやライフハックアプリだろうか。
俺は鼻で笑い、削除ボタンを探そうとした。
だが、その前に画面が勝手に切り替わり
現在地から三ブロック先にあるコンビニまでの地図が表示された。
『現在地より、3分以内に最寄りのコンビニでブラックコーヒーを買いなさい。それが、あなたの幸福への第一歩です』
「……馬鹿げてる」
誰がこんな怪しいアプリの指示に従うか。
そう思いつつ、俺は立ち止まった。
なぜなら、ちょうどそこはコンビニへ向かう角を曲がるポイントだったからだ。
なんとなく、本当にたまたま、俺はアプリの指示に従って角を曲がり、コンビニへ足を向けた。
店内に入り、言われるがままにコーヒーコーナーへ向かう。
俺が棚からコーヒーを取り出し、レジへ向かおうとした時、隣にいた客が缶コーヒーを落とした。
缶は転がり、俺の足元で止まる。
「あ、すみません……」
慌てて拾い上げたのは、派手なブランドバッグを持った、モデルのような美女だった。
「いえ、大丈夫です」
俺が苦笑いして缶を差し出すと、彼女は俺の顔をまじまじと見つめ、驚いたように目を見開いた。
「……ねえ、もしかして、あの時の?」
そこからの会話は、信じられないほどスムーズだった。
彼女は俺の高校時代のクラスメイトで、ずっと憧れていナズナだった。
話が弾み、別れ際に「よかったら、今度飲みに行かない?」と、彼女の方から連絡先を教えてくれた。
スマホがポケットで小さく振動した。
確認すると、そこには『ルートQ』の通知が。
『幸福度、上昇。次の目的地を検索しますか?』
画面の中の「はい」というボタンが、まるで獲物を待つ獣の口のように、妖しく輝いて見えた。
俺は迷うことなく、そのボタンをタップした。
自分の意志で選んだつもりだった。
───それが、地獄への入り口だとは知らずに。