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「え、なんで古佐くんもバスに?」
バスに乗ると既に乗っていた畑葉さんにそんなことを言われる。
「さっきも言ったじゃん」
「何が?」
えぇ…
こんな短時間で忘れることある?
「一人は寂しいでしょって」
「私別に寂しくないもん…」
「僕が寂しかったの!」
そう強引に言い、畑葉さんの隣の席に座る。
「足、大丈夫?」
「うん…」
「骨折じゃなくて良かったね」
「うん…」
「…お菓子食べる?」
「うん…」
何を言っても同じ答えしか返ってこない。
しかもあの畑葉さんがお菓子で釣れないなんて…
本当にどうしたんだろうか。
そう思いながら隣を見るとなぜか畑葉さんは大粒の涙をぼろぼろと零していた。
「え、」
びっくりしてそんな声しか出ない。
「ごめん…」
なんで謝るんだろうか。
泣くのは悪いことじゃないのに。
それにこんな顔、見たくないのに…
そう思った僕は
「…おいで?」
と言いながら腕を広げる。
ほぼ無意識だった。
僕が腕を広げたと同時に畑葉さんが胸に飛び込んでくる。
しばらくすると畑葉さんは眠りに落ちてしまった。
僕を抱きしめながら。
というか、こんなことをしてる僕らはまだ恋人関係じゃないって信じ難い。
畑葉さんの恋人許容ラインってどこなんだろうか。
僕の恋人許容ラインなんてとっくに超えている。
「ねぇ、畑葉さん」
「ん〜…?」
「僕たちまだ恋人じゃないの?」
寝ている人に話しかけると寝言で返ってくることがあるとどこかで聞いたことがある。
でも寝言と会話するのはダメなんだったけ?
だが僕はそれが違法とされていても答えを知りたかった。
「まだ…」
『まだ恋人じゃない』という意味を答える畑葉さん。
「じゃあどうすれば恋人になれるの?」
1番気になっていたことを聞くも、
「古佐くんはもう無理だよ…」
なんて答えが返ってくるだけだった。
僕はもう無理?
どういうこと?
他の人なら恋人になれるってこと?
「それも無理だよ…」
じゃあ誰なら、
どんな人ならなれるのだろうか。
って、え?
あれ?
今、僕声に出して喋ってたっけ?
『他の人なら恋人になれるのだろうか』なんて言葉は心で呟いたはず。
なのに畑葉さんは今、その答えを返して…
まぁ、いっか。
「じゃあ僕のことは好き?」
少ししてからまた質問を再開する。
が、畑葉さんは先程とは違って無言を貫くのみだった。
そう思っていると
「…寝てる人に寝言でそんなこと聞こうだなんてサイテー」
と言いながら起き上がる。
もしかして『僕のこと好き?』だけの質問を聞いていたのだろうか。
それだけは嘘だと言って欲しい…
「あ、そういえば…」
「今週末僕とスケート行かない?」
「近所でやってるらしいし」
そう僕が提案するとなぜか畑葉さんは少し不機嫌そうな雰囲気を漂わせた。
「スケートも同じだよ…?」
「何が?」
「スケートも今日みたいに下手だって言ってるの!!」
「古佐くんは私が失敗してるとこ見たいんでしょ?!」
そんなこと一切言ってないんだけど…
何か勘違いでもしてる気が…
「そういうことじゃなくて…」
「それに僕もスケート初めてだし」
「でもきっとスキーも上手かったしスケートも上手に決まってるもん…」
少し涙目でそんなことを言う。
ここで畑葉さんが泣いてしまったら確実に僕のせい。
「やってみなきゃ分かんないでしょ」
そう僕が言うと『そうかなぁ…』なんて言い、少し落ち着く。
「あ、前々から気になってたことがあるんだけど…」
「なに?」
「畑葉さんの誕生日っていつなの?」
「私の誕生日?3月20日だよ!」
あれ?
その日って確か春分の日じゃなかったっけ?
なんだか畑葉さんって至る面で春って感じする。
桜が好きなところとか花言葉が好きなとことか。
しかも誕生日は春分の日で。
てか花言葉は関係無いか…
「古佐くんは?」
「僕?僕は11月28日だよ?」
「えぇ?!来週じゃん!!」
確かに…
言われてみればもうそろそろ僕の誕生日が近づいてきてる。
「古佐くん古佐くん!!何か欲しいものは?行きたい場所とか…!!」
慌てたように聞いてくる。
でも今は
「特に欲しいものは無いかな〜…」
畑葉さんと居られるだけで充分だし。
「えぇ…」
「もっと欲しがってよ!!」
『特にいらない』と答えたら答えたで何故か怒られる。
正直に答えただけなのに…
静けさに包まれたバスの中。
スキー場から学校に帰るバスに乗る人達のほとんどが夢の中。
そんな僕も夢の中…
には居なかった。
なぜだか目が冴えて眠れなかった。
多分、畑葉さん…
いや、好きな人が隣に居るせい。
先程から僕のことをニヤニヤと見てきた先生もいびきをかいて寝ているばかり。
多分、起きてるのはこのバスを運転している運転手と僕だけ。
見える限りの周りの人達は皆、
目を瞑っていた。
もしかしたらただ目を瞑っているだけの人とかも居るかもしれない。
空寝とか。
いや、そんな人は居ないか。
多分…
「ん〜…」
畑葉さんは時たま寝言やら零してる。
さっき寝たばかりだというのにまだ眠り足りないのだろうか。
そんなことを考えながらぼーっと外の景色を眺める。