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「立てない…」

産まれたての子鹿のような畑葉さん。

滑れないとは予想していたが、

まさかの立てないとは…

完全に予想外だ。

「手貸して」

そう言い、

畑葉さんの腕を引っ張るも、

べしゃりと顔から転ぶのみ。

「自分でも立とうとしてよ…」

「違うの!立とうと思って足に力入れたら転んじゃうの!!」

ずっとこんな感じで、

もう既に1時間ほどもここに留まったままの僕たち。

というか顔、大丈夫だろうか…

さっき思いっきりぶつけてたけど…

「どうする?帰る?」

僕は別にどっちでもいいけど…

だって嫌なことを無理にやらせるのもなんだかいい気がしないし。

「…まだ帰らない」

「もうちょっと挑戦する?」

「…する」

スキーをした時とは違って諦めない畑葉さん。

よっぽど悔しかったのだろうか。

てか…

「畑葉さんさ、スキー授業ってあと1回残ってるからね?」

「え?」

「この前ので終わりじゃないの!?」

「1月中旬にもう1回あるよ」

「そんなぁ…」

そう言いながらがくりと肩を落とす。

僕もさっき思い出した。

そんな僕も同じ気持ちだ。

やるんだったら1月に1回でいいし…

と。


「どう?どう?!」

そう興奮する畑葉さん。

その理由はあの畑葉さんが氷の上をスケートで滑っている…

というよりかは歩けているのだから。

滑れはしなくても立てなかった人が歩けるようになるのはとても凄い。

「凄いよ畑葉さん!!」

「次は…滑る練習だね……」

歩くより滑る方が断然難しい。

ということは歩けるまでかかった時間よりも長い時間が必要だということ。

「古佐くんは滑れるようになったの?」

「うん、ちょっと移動するくらいなら」

「あ、いいこと思いついた!!」

ふと、そう声を上げる。

どうせ僕に引っ張れと言うのは目に見えている。

そんなことを思っていると案の定、

畑葉さんは

「古佐くんが私のこと引っ張って滑って!!」

なんて言う。

でもこの方法、

転んだら互いに怪我をしてしまいそうで怖い。

そう伝えようと思ったが、

目をキラキラと輝かせている畑葉さんに勝つことは出来なかった。



「どう?楽しい?」

「うん!!」

楽しそうなら良かった。

けど、僕の心の中は転ばないことを祈るばかり。

だって楽しむなんて油断だらけになってしまうじゃないか。

「あ、『タンバリン』じゃん!!」

急に後ろからそんな声が聞こえた。

タンバリン…?

そう思いながら振り返ると僕の知らない3人が畑葉さんを指差して笑っている姿があった。

「畑葉 凛はタンバリン!!」

そうバカにする。

畑葉さんは目に少し涙が浮かんでいた。

あ、思い出した。

会ったばかりの頃にあだ名の話をした際のこと。

『畑葉 凛だからタンバリンって呼ばれてた』って自虐的に笑いながら言った畑葉さんの言葉を。

「てかそいつ誰〜?彼氏?」

次の矛先は僕だった。

このまま僕に矛先が向いたままだったらいいのに。

そう思っていてもその3人はすぐ畑葉さんに矛先を戻す。

「友達出来てる〜?居ないに決まってるよね」

「だって “ タンバリン ” だし!!」

わざと強調して言う。

僕にも聞こえるようにだろうか。

「ねぇ『アレ』またやってあげよ〜よ!!」

「え、彼氏の前で?」

「いいじゃんいいじゃん!!逆に面白そ──」

「畑葉さん、行こ」

これ以上聞いていたら手を出しかねない。

そう思った僕は畑葉さんの手を引いてその場から離れた。

律儀にスケート靴を返して。






「あの…古佐くん、ごめんね…?」

「私のせいで…」

「古佐くんのことも傷つけちゃって…」

「スケートも台無しで…」

畑葉さんはそんなことを言っていたが僕は返事しなかった。

ここで口を開いたら畑葉さんに八つ当たりしてしまいそうで怖かったから。

それに何も言えなかった僕に腹が立ったから。助けることくらいは出来ただろうに。

「古佐くんも私が居なかったら楽しかっただろうし…」

ぽつりとそんな呟き声が聞こえた。

「違う!!」

そう言いながら畑葉さんの方を見るも、

ぼろぼろと大粒の涙を流している畑葉さんが目に映った。

「ごめん、声大きすぎた──」

「私が全部…全部悪いから……」

そう言って畑葉さんはしゃがみ込む。

傍から見たら僕が虐めてるみたいだ。

「畑葉さん、畑葉さんは悪くないよ」

同じ目線になりながらそう声をかける。

「悪いのは畑葉さんの名前を馬鹿にしてきた人達だから」

「自分を責めないで」

「でも、今日台無しにしちゃったよ?」

台無し?

そんなことない。

だって僕は畑葉さんに会えただけでも嬉しくなっちゃう単純な奴なんだから。

「それはさっきだけでしょ?」

「逆に聞くけど畑葉さんは今日、楽しいって1回も思わなかった?」

「そんなことは無いけど…」

「じゃあ台無しじゃないじゃん」

「楽しかったんでしょ?」

「うん…」

「僕も楽しかったよ?」

「だから暗い話はここまでにして…」

「気晴らしに駄菓子屋さんに琥珀糖買いに行こっか!!」

手をパチンと鳴らしながらそんなことを言う。

「うん!!」

畑葉さんは嬉しそうに笑い言った。

元気が出たなら良かった。

そんな畑葉さんを見て、むしゃくしゃしていた僕の心もすーっと綺麗になった気がした。

僕が狐になった日は、君の命日だった。

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コメント

1

ユーザー

ほんとに書くの上手いですね!

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