コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
これは、娘を妊娠したつ時の不思議な体験です。
元旦那と結婚した時、私は義実家で元義母と元旦那と暮らしていました。元旦那は当時私より一回り上で、ギャンブル癖/女癖が酷い 典型的で重度なモラ夫でした。元義母もギャンブル癖が酷過ぎる事に嘆いていましたが、家族の言うことなど全く聞かない自己中心的な元旦那を止めることも出来ず、金銭苦生活苦を送っていました。
あまりにも酷い生活に耐えかねて、私は一度だけ自殺未遂を行った事があります。
強度を高めた業務用のリボンを代用してロープのように編み込み、眠剤を大量に飲んで寝ている間に首が締まって死ねるよう、自分で簡単に出来る自殺装置のようなものまで用意して、今日で人生最後にしようと試みました。その日は元旦那はパチスロ朝から私の給料を奪い取りパチスロに、元義母は知り合いの家に行っていたので、私は家に1人でした。首に自作のロープを巻き眠剤を飲み込めば、だんだん意識が薄れていきます。悔いはありませんでした。ただ一刻も早くこの生活 この人生から抜け出せればそれで良かったのです。そんな事を考えながら、次第にすぅっと意識がなくなりーーー……
ーーーしばらくして私は心地良い風を感じて目が覚めました。目を開けようにもあまりにも眩しくて、周りが見るまでにしばし時間がかかりました。よく分かりませんが、雲ひとつない晴天の空の下、川の横にある堤防で目覚めました。大きな川が隣にあるようで、轟々と流れる音だけが響いています。夢なのか何なのか全く分からず、ぼんやりと堤防を道なりに歩いて行けば左側に街並みが見えました。凄く変わった異国風の街並みで、建物が酷く歪んでいます。よく晴れた空とは何だか不似合いで、言い表しにくい違和感がありました。石畳の地面が建物の間に続き、建物の外には植木鉢と綺麗な花が並んでいます。ずらりと並んだマンションのような歪んだ建物の中に、ひとつだけ淡いピンクの小さなマンションがあり、私はそこで足を止めました。何故か直感で、ここに入らないといけない、そんな事を思ったのです。今思えば呼ばれていたのかもしれません。誰がいるのかも分からないマンションに立ち入り、1階のドアの前でインターホンを鳴らしました。いくら鳴らしても誰も出ませんが、中に人の気配だけはありました。ドアノブを回せば、鍵などなかったようであっさりとドアが開き、私は恐る恐る中へとお邪魔してみることにしたのです。「こんにちは、お邪魔します」と声を掛けても返事はなく、室内は線香の匂いに包まれていました。
洋風な外装のアパートにそぐわず、室内は意外にも和風でした。昔ながらの古風な一軒家ような内装で、玄関を入ってすぐ右手には御手洗、左手奥には角度の急な階段がありました。目の前には茶の間に繋がるであろうドアがあり、私はそっちに向かうことにしました。茶の間の内装も古風な感じで、灯りはなく薄暗い部屋でした。左奥には畳の仏間があり右奥には台所が、さらに右側には脱衣場があります。どこもドアは開けっ放しで、仄暗いお風呂場には異様に背の高い女性がこちらを睨み付け、さらに台所の床には女性の生首が転がっています。生首を見つけてしまい固まる私に、背後から声がかかりました。「……あら。あんた、なんでこんな所に……」怪訝そうな声に振り向けば、凄く小柄なお婆さんが1人、いつの間にやら茶の間のテレビの前に座ってこちらを見つめていました。染めたのか少し紫がかった白い短髪と、とても細い腕にある3つの痣が特徴的なお婆さんでした。もちろん私の知り合いではありません。お婆さんは上から下まで私の姿をじっくり見た後「……あんたなら大丈夫そうだね」と一言呟いたかと思えばふいに立ち上がり、古びた茶箪笥の前に立つと、茶箪笥の上から3段目の引き出しを開けました。徐(おもむろ)に引き出しから箱のような物を取り出すと、私に差し出し握らせました。手の中のその箱をよく見て、私は悲鳴を上げました。
それは、かなり古びた木箱でした。それもただの木箱ではなく、沢山の血が滴る、血生臭い物でした。驚いて揺らせば中からカラカラと乾いた音がします。放り投げようとした私に、お婆さんがすかさず言います。「大切にしなさい。中身はここを出てからゆっくり見なさいよ。あまり時間がない。早くお行き!」叱咤されるような口調に、私は反射的に急いで茶の間を出ました。玄関には、私が元々本家にいた頃に飼っていたミニチュアダックスにそっくりな犬が3匹(茶、黒、ベージュ)いて、私の足元に擦り寄って来ました。私が靴を履き終えると、お婆さんがお見送りに来ていました。ふと今まで険しかったお婆さんの表情が緩みました。「大変な事も沢山あるだろうね。でも、もう二度とこんな所には来てはいけないよ。逃がせるのは今回だけだからね」そう言ってお婆さんは2回ほど、私の頭をポンポンと軽く叩きました。が、穏やかな表情は一瞬で切り替わり、「その子達についてお行き。急ぐんだよ!」と鋭い声と共に私はお婆さんに背中を強く押され、外に追い出されました。最後にドアが閉まる途中に小さく優しい声音で「……あの子を、○○○を、よろしくね」と聞こえ、「何!?聞こえない!あの子って!?」と振り向けば、今出てきたはずのドアが消え失せていました。
外は目が眩むほどに異様な眩しさが広がっており、犬達は私が目覚めた土手の方に向かって一直線に駆けて行きます。何だか長居してはいけない、そんな予感がして私も全力で犬達を追い掛けます。走りながら視線を感じでそちらを見れば、来る時は和やかに会釈をしながら道を歩いていた通行人達が、無表情で明らかに悪意のある視線を飛ばしてこちらを睨み付けていました。そのただならぬ雰囲気に気圧されてその辺に止まっていた自転車に飛び乗り、急いで犬達を追い掛けました。堤防に上がり道なりに進めば、真っ白な光でその先が見えない場所がありました。犬達はまっしぐらにそこへ向かって行きます。白い光の中に飛び込む手前で一瞬振り向いた私の目に飛び込んだのは、鋭い刃物のような物を持ちこちらに向かって走り寄ってくる通行人達の姿でした。皆、目が抉られているのか血だらけで、大きく口を開けて何かを叫ぶような顔でこちらに突進してきます。ぎょっとして立ち止まる私のデニムの裾を、黒い犬が咥えて引っ張り、はっと我に返って黒い犬を追い掛け光の中へと飛び込みました。
光の中には追っ手は入って来れないのか、犬達がゴロゴロと居心地の良さそうな顔で転がっています。真っ白な空間を漂っていると、何処からか「……き……ちゃ……」と微かに声が聞こえてきました。耳を澄ましていると、だんだんと聞き覚えのある声が今度ははっきりと聞こえてきます。「……きちゃん……ゆ……ちゃ……雪ちゃん、雪ちゃん!!!」はっとして目を開ければ、元義母が半泣きで私を揺すっていました。「あぁ~良かった、生きてる、生きてるねぇ」と私の頭を撫で回し、ぼーっとしている私をひとしきり抱き締めた後、「死のうなんてしたらダメだからね!!」と説教モードに入りました。イマイチ頭が回らない私はBGMの如く元義母の説教を聞き流し、床に投げ捨てられていた自作のロープを見て、自殺が失敗したのだと悟りました。はぁ、と溜息混じりに俯けば、デニムのポケットが異様に膨らんでいるのに気付きました。箱のようなシルエットだと認識した瞬間、私は一気に目が覚めた気がしました。ポケットに突っ込んだ手にヌルッとした感触を感じてゾッとしながら引っ張り出せば、やはりお婆さんに手渡された血塗れの木箱が。それを見た説教モードの元義母は唐突に黙り込み、呆気に取られたような表情になりました。「それ……何処で……」興味と恐怖でいっぱいな私は元義母の言葉に応える余裕もなく、恐る恐る木箱を開けてしまいました。
ーーー中に入っていたのは、干からびた『へその緒』でした。
ぎょっとして木箱を放り投げれば、中のへその緒は私のお腹の上にぽとりと落ち、木箱は床へと転がりました。しばし元義母と顔を見合わせ、深呼吸して木箱を拾い直そうとして、更に驚きました。放り投げて転がったのは、当時私の愛用していたアクセサリーケースだったのです。しかし中に入っていたはずのピアスはなく、お腹の上に落ちたはずのへその緒も見当たりません。確かに感触はあったのに、物の見事に消え失せていました。元義母はしばらく放心したように黙っていましたが、やがて「……あの木箱は、誰から?」と念を押すように訊(き)きました。「腕に3つ痣がある、小柄なお婆さんです」と答えれば、義母は何とも言えない表情で「ちょっとこっちに来なさい」と私を仏間へと連れて行きました。仏間にはあの空間にあったのに凄く似た茶箪笥があり、偶然にも3段目の引き出しから元義母が取り出したのは、古いアルバムでした。何ページか捲れば、まだ若い元旦那と一緒に写ったお婆さんがいました。その容姿は、少し紫がかった白い短髪に、3つの痣が腕にある……。
「私ね、夫を早くに亡くして女手1つで育てるのは大変だったから、近所に住んでいて親しかった『姉さん』によく息子達を預けていたの。血の繋がりはないけど、本当に良くしてくれた人でね、その人も旦那さんを早くに病気で亡くしていたから親近感があったのかもね。あと、姉さんは子供が産めない体質の人だったから……」アルバムを見て、ぽつりぽつりと元義母が語り始めました。「金持ちだった姉さんはねぇ、うちの長男(私の元旦那)を溺愛していてね、本っ当に長男にたかられるとお金ばっかり数万単位でポンポン渡しちゃう人だったから、金銭感覚が小さい頃から狂っちゃったのよ……私は仕事三昧で全然息子達の相手が出来なくてね……良い人だったけど、育児的には最悪だったのよね」と、苦笑いしながらページを捲る手を止めました。「過去に1回だけ、姉さんも妊娠した事があるんだけど、流産しちゃったのよね」なんとそのページには、先程私が投げ捨てたあの木箱が写っていたのです。「姉さん、死ぬまでこの木箱をずっと大事にしていたの。大事な我が子との唯一の繋がりだからねぇ」そう語る元義母は懐かしそうに、そして何処か寂しそうな顔をしていました。
元義母は、元々私より遥かに霊感が強かった為、木箱も見えてしまったのかもしれません。ひとしきり語った後、元義母は私の腹をしばらく眺めて言いました。「……明日、産婦人科に行ってみようか。私も一緒に行くからね」「えっ?」「ふふっ、今に意味が分かるよ」面食らう私をからかうように笑って、元義母は夕飯の支度を始めたのでした。
翌日元義母に連れられ半ば強制的に行った産婦人科で、私は自分の妊娠を知る事になりました。まだ妊娠2週目だったそうです。「よく気付いたねぇ」と産婦人科の先生に言われたくらい、まだ悪阻も初期症状と呼べるものが何もありませんでした。でも私は正直、今の金銭苦で子供など産んでも生活が出来ないと思い、堕胎をお願いしました。隣にいた元義母はかなりショックだったようで先生に猛反対を押し切ろうとして、結果的にあと1週間考える猶予を受けて帰宅しました。元義母には散々お金はどうにかするからと産むように説得され、元旦那に告げれば「へー、産む産まないはどっちでもいい。でもパチスロの邪魔だから育児はしねぇぞ」と言われ、途方に暮れてあの時死ねなかった事に酷く後悔したのと、純粋に元旦那への殺意が湧きました。当時のメンタルはかなり撃沈していたので、私はあと1日寝たら今度こそ自殺しようと決意して眠りにつきました。
ーーー夢の中で私は、何処かの小さなワンルームで2歳くらいの女の子とパズルをしていました。ひとつひとつピースを交互に当てはめて遊んでいます。「ねえ、死にたいの?」2歳にしては妙に大人びたはっきりとした口調で、女の子は私に訊きます。「どうして死にたいの?」単刀直入な問に私は苦笑いしました。大人って大変なんだよ、などと言葉を濁していると、女の子は首を傾げて言います。「そっかぁ、お母さんは死にたいのかぁ……」そんな事を呟き、ぱっと顔を上げて私を真っ直ぐ見据えました。「でもね、わたしは生きたい」私の手からパズルが落ちました。「ごめんね、苦しい思いさせてごめんね。でも、わたしはどうしても生まれたいの」はっとすると同時に、私は目が覚めました。
ーーーあの子、私を『お母さん』って言わなかった???
何故か妙に女の子と2人でワンルームにいたのが記憶に残り、なんだか急に私は頭が回るようになりました。なんでわざわざ金銭苦の中子供を産んで、傲慢で精神的/経済的モラハラの酷い元旦那の事を尊重して生きていかないといけないのかと急に疑問が湧き、その日を境に私は今までと思考が真逆に変わり、離婚についてや母子家庭の支援などを徹底的に調べ始め、妊婦でも働きやすい職場に転職して我が子と私の今後の為のお金の確保など基盤を固める事になりました。今まで私の稼いだ分は通帳ごと元旦那に持っていかれ、その日のうちにパチスロで散財されていた為 貯蓄もゼロだったので、基盤を固めるまでに約1年半ほどかかってしまいましたが、母子家庭になっても申し分はないくらいには用意が出来ました。産むと決心した私に元義母は大喜びしていた為、結果的に色々義実家とは大揉めしましたが無事離婚して穏やかに我が子と暮らす事が出来たのでした。
ちなみに我が子はやはり女の子で、今現在の声とあの夢の中で聞いた声はそっくりでした。あれはただの夢ではなかったのでしょう。言うならば私の精神世界的な場所だったのかもしれません。そして偶然にも、我が子が生まれた病院にて退院する際に支払いの窓口にて、今の夫とのファーストコンタクトがありました。たまたま隣に座った彼は、私の抱いた娘を見て「女の子ですか?」とにこやかに声を掛けてくれて「可愛いですね。子育て大変だろうけど、頑張って下さい!」と世間話と共に励ましてくれたのでした。その後彼はしばらく会うことはなく、しかし縁があったようで再会したのはそれから4年後の事。今でも私にとって娘は、不思議な縁を手繰り寄せる存在なのです。
ここからは後日談ですが、母子家庭になって新居を見つけて娘と暮らし始めた時、深夜に急に金縛りに遭った私が恐る恐る目を開けると、あの時の『姉さん』と呼ばれたお婆さんが私の首を締めて言いました。「……『あの子』の事、よくも裏切ってくれたな……!!」と憎しみ満載の声で言われて、私はあの時お婆さんに託されたお願いの意味をようやく悟りました。あれは娘を託されたわけではなく、元旦那の事を託さていたのだ、と。てっきりへその緒の下りで、自分が産めなかった赤ちゃんを代わりに産んで幸せに育てて欲しいというメッセージだと思っていた私にとって、とんだ茶番に付き合わされた気分でした。そして思い出した「あんたなら大丈夫そうだね」という言葉。偶然が重なり過ぎただけで、娘があのお婆さんとあまり関係なく、ただあの空間で一緒にいただけで、お婆さんとはただの話し相手的な存在だったとしたら……。そこまで考えているうちに息が出来なくなり、私は意識が薄れました。最後に落ちる寸前で、何処からか狐の雄叫びのような声が頭の中に響きました。お婆さんにも聞こえたのか、ぎゃっ!!っと叫んでお婆さんは姿を消しました。金縛りが解けてから気付いたのですが、鋭い泣き声は娘のものでした。赤子ながらに何かを感じ取って助けてくれたのかもしれません。
あれ以来、元義実家との関わりも断ち、お婆さんとも霊体で遭遇する事はなく、お婆さんのいた空間に行く事もないので真相は分かりませんが、以上が娘を妊娠出産するまでの不思議な体験でした。夢占いでは『木箱』は『子宮』を暗示するという意味もあるそうです。もしそういう意味で手渡して来たとしたら、冷静に考えればかなり狂気の沙汰ですね。