テラーノベル
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皆が人形について頭を悩ませていると、部屋の奥からひよりが戻ってきた。
その手には、人数分の紅茶とクッキーが載せられている。
「お待たせみんな」
ひよりはテーブルに紅茶とクッキーを並べながら、にこやかに微笑んだ。
「よかったら食べてね」
「ありがとうございます」
信愛が礼を言うと、宗太郎が立ち上がろうとする。
「俺がやるから、ゆっくりしてろよ」
「いいわよ」
ひよりは軽く手で制した。
「宗太郎は生徒さん達に勉強教えなきゃでしょ?
これくらい大丈夫よ気にしないで」
「そ、そうか?」
二人の自然なやり取りを見ていた茜が、感心したように口を開く。
「宗くん優しいじゃん」
「え?そ、宗くん!?」
ひよりは目を丸くし、宗太郎と茜を交互に見た。
「宗太郎?」
そして、少し疑うような目を夫へ向ける。
「まさかとは思うけど、生徒に手なんか──」
「だぁぁ!違う!違う!
何バカなこと言ってんだよ!」
宗太郎は慌てて声を上げた。
「お前のせいだバカ」
焔垂が呆れたように茜の頭を軽く叩く。
「いったぁ!叩かなくていいじゃんさ〜」
「お前が高館先生を宗くんなんて呼ぶから
奥さんに変な勘違いさせたんだろーが!
少しは考えて言葉選べっつーんだよ」
「確かに!今のは茜が悪いね!」
「うん!うん!うん!」
信愛とさくらまで揃って頷く。
「今の呼び方は変な関係を勘ぐりますよね」
朝陽も冷静に追い打ちをかけた。
「うぅ〜・・みんなして〜・・・」
茜がしゅんと肩を落とすと、事情が飲み込めないひよりが困惑した表情を浮かべた。
「ど、どういう事?」
「あはは、すいません」
信愛が苦笑しながら説明する。
「茜は親しみを込めて、高館先生の
事を宗くんって呼んでるだけで」
「あ!なんだぁ・・そうだったんだ」
ひよりはようやく納得し、安心したように笑った。
「私ったらてっきり、宗太郎が
生徒さんに手を出したのかと」
「そんなバカな真似
する訳ないだろ〜何言ってんだよ」
宗太郎も呆れながら笑う。
「あはは、そうよね。ごめんごめん」
「ごめんなさい」
騒ぎの原因となった茜も、申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいのいいの」
ひよりは笑顔でそう返すと、改めて夫へ目を向けた。
「でも宗太郎、生徒さんから人気ね」
「あはは、ま、まぁな」
宗太郎は照れくさそうに頭を掻いた。
そんな和やかな空気の中、信愛はふと、先ほどから気になっていたことを思い出す。
「そ、そういえば奥さん?」
「ひよりでいいわよ」
「あ、は、はい」
少し戸惑いながら、信愛は言い直した。
「ひよりさん?」
「なぁに?」
信愛は一瞬だけ言葉を選ぶように間を置いてから、ひよりへ尋ねた。
信愛は、先ほどから気になっていた日本人形へ視線を向けた。
「その子が有栖ちゃんですか?」
そう尋ねると、信愛は日本人形を指差す。
「ちょ、信愛?」
さくらが慌てて声をかけるが、信愛は人形から目を離さなかった。
「いいから・・・」
普段とは違う真剣な声に、さくらも何かを察する。
「わ、わかった・・・」
その様子を見ていた焔垂と茜は、小声で言葉を交わした。
「何か考えがあんのかな?」
「まぁ信愛の事だから、多分
考えがあるんだと思うよ」
そんな二人のやり取りには気づかず、ひよりは嬉しそうに人形へ顔を向けた。
「有栖〜♬みんなに挨拶しましょ〜ね〜♬」
ショーケースから日本人形を取り出すと、まるで本当の我が子を扱うかのように、両腕で優しく抱き上げる。
「可愛い娘さんですね♬」
信愛がそう言うと、茜もそれに合わせて笑顔で頷いた。
「ひよりさんに似て可愛い♬」
「ほんと?」
ひよりは嬉しそうに人形を見つめる。
「よかったね有栖〜♬可愛いだってよ〜♬」
そう言って、愛おしそうに人形の頭を撫でた。
その光景を見つめていた信愛は、少しだけ躊躇したあと口を開く。
「あの・・・抱いてみてもいいですか?」
「いいわよ♬ぜひ抱いてあげて♬」
ひよりは快く頷き、腕の中の有栖を信愛へ差し出した。
信愛は両手を伸ばし、壊れ物を扱うように慎重に人形を受け取る。
「はじめまして、有栖ちゃん。信愛です」
腕の中に収まった人形へ、信愛は優しく語りかけた。
そして、その小さな頭をそっと撫でる。
もちろん、人形が答えることはない。
それでも信愛は、何かを確かめるようにじっとその顔を見つめていた。
その瞳が、わずかに細められる。
何かを感じる。
茜はそんな信愛の様子を、不思議そうに見つめていた。
「信愛?」
やがて信愛は何事もなかったように顔を上げ、人形をひよりへ返した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
ひよりは再び有栖を大切そうに抱きかかえる。
「やっぱ子供って可愛いですね♬」
信愛の言葉に、ひよりは満面の笑みを浮かべた。
「でしょ?私たちの大切な愛娘なのね?宗太郎?」
突然話を振られた宗太郎は、少し複雑そうな表情を浮かべながら答える。
「あ、ああ・・・」
その反応を気に留める様子もなく、ひよりは皆を見回した。
「あ、そうだみんな?お昼ってもう食べちゃった?」
「え?お昼ですか?いや、まだですけど」
「ならちょうど良かった。私がご馳走するわ」
「え?いいんですか?」
「うんもちろん♬ちょっと待ってて」
そう言い残すと、ひよりは軽い足取りでキッチンへと駆けていった。
その背中を見送りながら、信愛はもう一度、ショーケースへ戻された有栖へ視線を向ける。
先ほど腕に抱いたときに感じた、言葉では説明できない微かな違和感。
信愛の表情から、先ほどまでの柔らかな笑みが静かに消えていた。
それからひよりはキッチンへ入ると、冷蔵庫の扉を開けた。
「何かあったかな〜・・・」
中を覗き込みながら、皆に出せそうな食材を探していく。
「うー・・・ん」
しかし、人数分の料理を作るには、どうにも心許ない。
「ああ〜・・・材料足りないな〜・・」
そのとき、背後から遠慮がちな声が聞こえた。
「あ、あの・・・」
振り返ると、そこには信愛が立っていた。
「あ、ごめんね。ちょっと材料が
足りないみたいだから、買い出し行ってくるね」
「あ、いや、何もそこまで」
信愛は申し訳なさそうに手を振る。
「ううん、いいのいいの。どうせ
夕飯分の買い出しにも行かなきゃだから」
「なら私たちも──」
「いいのよ!みんなには勉強があるでしょ?」
ひよりは明るくそう言って、信愛の申し出を遮った。
「すぐそこのスーパーだから
ちょっと行ってくるね」
「あ、ありがとうございます」
信愛が頭を下げると、ひよりはふと思い出したようにリビングへ顔を向けた。
「宗太郎?」
「ん?どうした?」
「ちょっと買い出しに行ってくるから
有栖の事お願いね?」
「いや、それくらい俺が──」
宗太郎が立ち上がろうとする。
だが、ひよりは呆れたように笑った。
「バカね(笑)宗太郎が行っちゃったら
誰が生徒さんたちに勉強教えるのよ(笑)
私は大丈夫だから、ね」
宗太郎は少し迷ったものの、やがて諦めたように頷いた。
「わ、分かった、でも気をつけてな?」
「うん、なら行ってくるね」
そう言うと、ひよりはエコバッグを手に取り、玄関へと向かう。
やがて扉の閉まる音が響き、家の中からひよりの気配が消えた。
コメント
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お疲れ、×××さん! 第218話読んだわ。 今回の日常シーン、いい雰囲気だったね。宗太郎とひよりの夫婦のやり取りが自然で、思わずニヤニヤしちゃったよ。それにしても、信愛が有栖を抱いたときの“何かを感じる”っていう描写…あそこ、めっちゃ気になる。あの笑顔が消えた瞬間、空気が変わったよね。ひよりがあれだけ愛着持ってるのと、信愛の違和感が対照的で、今後の展開がますます楽しみになったわ🔥
#普通
野々さくら
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ありあ
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