修の指示通り中細挽きまで挽くと、生徒達はカウンターに用意された適温のお湯が入ったドリップケトルを取りに行く。
萌香が座ったままなのを見て、雪子は声をかけた。
「あちらに用意されているお湯を取りに行きましょう」
「あ、はい、ありがとうございます」
萌香は雪子の後をついてカウンターへ向かった。
雪子がカウンターへ行くと、俊が笑顔で声をかける。
「美味しく淹れられそう? 入れたら味見をさせてもらおうかなぁ…」
「プロの人の基準は厳しいから絶対嫌です!」
雪子がムキになって言うと、俊はハハッと笑ってから雪子を励ました。
「頑張れ!」
そんな二人の事を、後ろから来た萌香がじっと見つめている。
雪子がケトルを手にして席へ戻ると、受講生の佐藤が雪子に聞いた。
「浅井さんのお知り合いなのですか? 超カッコイイ人ですね!」
「ほんと、あの俳優のなんとかっていう人に似てません?」
「豊村悦司ですよね? 僕、先月映画で観て来たばかりですよ。本当によく似てるなぁ…」
塩崎と滝田までが話に入って来た。
そんな三人に対し雪子が答える。
「最近お友達になったばかりなんです」
すると三人は「いいわねー」と羨ましそうに言った。
その時萌香はカウンターにいる俊に声をかけていた。
「一緒に受講されないんですか?」
「はい、私は受講生ではないので」
俊は先程優子が持って来てくれたモーニングセットを食べながら答える。
「そうでしたか。このお近くにお住まいなのですか?」
「ええ、まあ…….」
そこでまた萌香がまた話しかけようとした時、奥から優子が出て来て俊に話しかけている萌香に気付く。
「えっと山根さんでしたよね? もう皆さんドリップを始めていますのでお席の方へどうぞ」
優子はニッコリ微笑んで萌香に言った。
「あっ、はい…….ではまた…….」
萌香はバツが悪そうな顔をした後、慌てて席へ戻って行った。
萌香がいなくなると、優子が俊に言った。
「一ノ瀬さん、モテモテですね」
「いや、そんな事はないですよ」
「ううん、今の様子だと完全にロックオンされてますよ」
「ハハッ、撃ち殺されたらたまらないなぁ」
俊の言葉に優子が笑う。
それから優子は真面目な顔をして言った。
「15年くらい前に、修が一ノ瀬さんに女性を紹介しようとした事があったでしょう? 覚えてます?」
「ああ、なんかそんな事があったような? でも結局は忙しくてそのままでしたね」
「はい。でもね、あの時のお相手っていうのが実は雪子だったんです」
「えっ?」
俊は驚く。
「あの頃はね、雪子も離婚した直後だったしデパートの方も派遣から正社員へ変わったばかりだったので、忙しくてタイミング
が悪かったんでしょうね。でも、偶然二人が顔見知りになっていたと知ってびっくりしました。やっぱり二人はご縁があったの
かも」
優子がしみじみと言った。
「あの時は私も忙しくて、修にいい人を紹介すると言われていたのについそのままでした。今思えば、あの頃は誰かと真剣にお
付き合いする余裕なんてなかったかもしれません。でもまさかあの時のお相手が雪子さんだったとはびっくりですね」
俊はそう言って笑った。
すると優子も穏やかに微笑んでこう言った。
「雪子は本当にすっごくいい子なんです。それは幼馴染の私が証明します。今まで離婚や子育て、そして親の介護等色々あった
んですが、あの子は一人で頑張って乗り越えて来たの。凄く頑張り屋さんなんです。でも頑張り過ぎて時々折れそうになるんで
すよ。だから、俊さんが雪子の良い友達になってくれたらなーって。雪子の事、よろしくお願いします」
優子は俊に向かってぺこりとお辞儀をする。
優子のあまりにも真剣な眼差しに、二人が本当に仲が良い事がわかる。
それを踏まえた上で俊はこう返した。
「縁あって友達になれたのですから、これから大事に育んでいきます。優子さんの大切な幼馴染を傷付けるような真似は決して
しませんので安心して下さい」
俊は優しく微笑んだ。
その穏やかな笑みを見た優子は、ホッとしている様子だった。
それから二人で奥のテーブルを見ると、雪子が真剣な顔をしてコーヒーをドリップしているのが見えた。
それを見た二人は顔を見合わせてフフッと笑った。
コメント
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優子さんも俊さんだから雪子さんの過去の話したんだろうな。 雪子さんの気持ちの変化を感じとったからだと思う。 ゆっくり大事に育んでいって欲しい な(*ᴗˬᴗ)
優子さんが優しくて和むわ〜🥰俊さんは大切な雪子さんをしっかり守ってくれそうだけど、伝えるとこを伝えて本気度もチェック☑️してくれる‼︎ 過去は過去,今が大切でたくさんの女性と関わってた俊さんだから萌子さんのことは気にもならなさそうだし安心😮💨