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◆ 王城・城門前広場
ズズゥゥゥン……!!
王城の正面ゲート前。
巨大な黒竜・辰夫が地響きを立てて着陸し、私はその背中から石畳へと飛び降りた。
「よし、着陸! 辰夫、お疲れ!」
私はパンパンと服の埃を払い、目の前にそびえ立つ王城を見上げた。
振り返れば、眼下の王都では我が魔王軍が絶賛・侵略行為(という名の福祉活動)を繰り広げている。
オークが落ち葉を掃き、悪魔が迷子をあやし、アンデッドが交通整理をしている。
完璧な地獄絵図(ピースフル)だ。
「……完璧ね」
「お姉ちゃん……みんな楽しそうだけど……これって征服なの?」
エスト様が、後ろを指さしながら呆れたようにツッコミを入れてくる。
「ふふん。子供にはまだ分からないか。まぁ予定通りよ。
……さーて。外の制圧は終わったし?
私たちはサクッと王城(本丸)に乗り込みますか!」
私はバキバキと指の関節を鳴らした。
「王様の首根っこ掴んで、3215万リフルの請求書を丸めて口に突っ込んで、
裁判(物理)を終わらせるわよ!」
「……サクラ殿。城の門兵たちが、武器を下ろして困惑しておりますぞ……」
人型に戻った辰夫が、門の前に立つ兵士たちに視線を向けた。
確かに兵士たちは、「え? 魔王軍? 侵略? でもあっちでお年寄りをおんぶしてるし……俺たち、戦っていいのコレ?」という顔で完全にオロオロしている。
「あー、平気平気! 顔パスで通るから!
そこの人、ごくろうさまー! ちょっと玉座まで通してねー!」
私は軽いノリで、門兵に向かって手をヒラヒラさせながら歩き出した。
いざ、城門突破──。
そう思って、堂々と足を踏み出そうとした、その時だった。
──あっ。
「……あー、やだやだ。正義って書いて”めんどくさい”って読むやつだ、あれ」
私の視界の端に、白銀の鎧が見えた。
あの正義の女──ユリシア……ユリ様だ。
そう思ったと同時に反射的に、近くにいた”手頃な辰夫”を掴んでいた。
むんず!
うん、この重さ。
やっぱりしっくり来る。
辰夫、あんたは最高の配下だわ。投擲要員として。
「えっ?」
辰夫が間抜けな声を出す間もなく。
「──辰夫ロケットォゥッ!!!」
「ええええええええええええッッ!?」
辰夫が絶叫しながら空を飛んだ。
「ひぃッ!?」
エスト様が飛んでいく辰夫を見て、すたたたたー!と慌てて物陰に逃げ出した。
次はエストミサイルだと悟ったらしい。賢い。かわいい。
その一方、人型の辰夫がキリモミ回転で、鋼鉄の弾丸のようにユリシアへと飛んでいく。
「いいいいいいッ!!」
ガァァァァン!!
火花が散った。
ユリシアは即座に大剣を構えたが、衝撃で足元の石畳が砕けてひび割れた。
「……ふん。不意打ちとは姑息な」
ユリシアが鼻を鳴らす。
「姑息?素人かよ。こういうのは効率って言うのよ。
辰夫。その正義バカはお前に任せた」
私は軽く顎で指した。
「いきなりロケットするから、文句のひとつも言いたかったところですが……」
辰夫が一瞬だけ私を見た。
沈黙。
「ハハッ!!!……それなら溜飲が下がりますなぁ!」
辰夫は軽やかに笑って、すっと地面に降り立った。
軍服の上着を脱ぎ捨て、ゆっくりと前に出る。
竜ではなく、人の姿のままで。
「この人型で戦うのは、実に──数百年ぶり」
「おいおい、気合入りすぎでしょ。殺すなよ? 面倒だから」
「ええ〜!? 辰夫いいなぁ〜戦いたい〜! お姉ちゃん〜私も〜!」
エスト様がほっぺたを膨らませながら物陰から戻ってきて、私の袖を引っ張る。
「だーめ」
「んもー!」
まあ、かわいい。
(小娘は怖い思いや痛い思いはしなくていいのよ。
そういうのは私と、主に辰夫と辰美の役目だから)
「『他人が命を懸けている時ほど、安全圏で食う飯はうまい。』ってね。」
「え?なんか言った?」
「ムダ様を思い出しただけよ」
「……あ、じゃあいいや」
エスト様は目を逸らした。
──激突、開始。
「竜爪ッ!!」
「──ッ遅い!」
風を裂く拳、鉄を打ち抜く刃。
辰夫の拳を、ユリシアは紙一重でかわした。
「聖撃・穿剣!!」
銀の一閃が火花を散らし、辰夫の肩をかすめる。
ガッ!!
辰夫の反撃の拳が地面を抉り、石片が宙を舞った。
土煙の中、ふたりはすでに跳び退き、距離を取っていた。
──静寂。
「……強いな」
辰夫が静かに言った。
「そちらも、恐ろしい反応速度ですな」
ユリシアが答える。
ふたりともニヤリと笑った。息を切らす気配もない。
拳に宿る意志。剣に宿る魔力。
周囲の空間が軋み始めていた。
「……え、ちょっと待って」
私はドン引きしながら眉をしかめ、ぽつりと漏らした。
「あれ? ヘタレ辰夫だよね?……なんか、空気読んでなくね?」
「ねー!? お姉ちゃんだったら、戦い始めて3秒でオチつけて笑い取ってるよ!?」
エスト様も両手をぶんぶん振り回しながら、的確なツッコミを入れてくる。やるじゃん。
──私たちのヤジをよそに、目の前では地面が爆砕し、戦士たちが飛び交っていた。
「竜爪、連弾──壱、弐、参!!」
辰夫の拳が空間を断ち切るように繰り出される。
それをユリシアは最小限の動きで回避し、防御した。
「この距離なら──」
ユリシアが剣を構えた瞬間、剣身に電光が走る。
「雷撃剣・天雷一閃!!」
バリバリバリバリッ!!
雷鳴のごとき斬撃が、辰夫へと駆け抜ける。
「おお!?」
辰夫の左腕に、より濃密な竜鱗が浮かび上がった。
ガガガガガッ!!
雷撃が竜鱗に弾かれ、四方八方に散っていく。
石畳に着弾した雷が、次々と爆発した。
「……!?……何者だ貴様……雷をも弾くとは」
「はっはっは! 結構痺れましたぞ」
辰夫が苦笑しながら左腕を振る。
「しかし──まだまだ!」
ユリシアが剣を両手で握り直した。
「雷神招来・連続雷撃!!」
ドドドドド!! バリバリバリ!!
──天から、無数の雷が降り注いだ。
私と小娘の目の前に雷が落ちた。
「うわあああああ!?」
「きゃあああああ!?」
私たちは悲鳴を上げながら、反射的にダッシュして距離を取る。マジ危ねぇ。
「おい! こっちまで飛んできてるぞ!?」
その中で──辰夫は冷静に構えを取っていた。
「竜鱗!!」
左半身全体が、鎧のような竜鱗で覆われた。
バリバリガガガガガッ!!
雷撃を、竜鱗が次々と弾いていく。
まるで雷雨の中で傘を差してるかのような余裕っぷりだ。
「行くぞッ!! 人間ッ!!」
「来いッ!!」
激突。
雷鳴のような衝撃音。視界が白く染まる。
『天の声:本作はコメディ小説です。
ただいま、バトル要素が濃すぎてジャンルを一時的に見失っております。
作者が一番ビックリしてます。
「こういうのも書けるんだ私……?まって!?私……成長している?」って言ってます。
作者は「ジャンプの掲載順、今どこだっけ?」みたいな顔してます。
作者がいちばんのバカです。もうしばらくお待ちください。』
──そして、土煙を裂いて、ふたりは同時に飛び出した。
ユリシアの剣が鋭く袈裟斬りに閃く。
辰夫の竜鱗の腕が、それを受け止める。
ギィィィィン!!
火花と雷光が飛び散った。
「そろそろ──温めていた”奥の手”を出すぞ?」
辰夫が口元だけで笑った。
「おおぉぉぉぉおおお!!」
叫びと同時に全身に鱗が走る。
そして左半身が、竜へと変貌した。
ずももももも……
──ドラゴン・ハーフモード。
「ダサッ! 左半分ドラゴンで右半分人型!」
私は顔をしかめ、両手でバツ印を作りながら野次を飛ばした。
「上半身とか下半身じゃなくて左右が半分なんだ……」
エスト様も、劇場の観客のようなリラックスした姿勢でドン引きしている。
「……なるほど、本体はドラゴンか……ふふ……恐ろしいな……」
ユリシアだけが、真顔で呟いた。
「そうだ。本来の姿だと、城が壊れるからな──」
「「アイツらあの姿にツッコまないの?」」
私と小娘は思わず顔を見合わせ、声を揃えてツッコんだ。
「いくぞ! はぁああああああ!」
「おう! うぉおおおおおおお!」
ユリシアと辰夫が謎の熱い空間で盛り上がる。
完全スルーされる私たち。
「無視……? 私たち……目立ってなくね?」
私が不満げに唇を尖らせてぼやくと、
「そうだよね……」
エスト様も膝を抱えて、しょんぼりと不安げに頷いた。
──もはや、笑い声すら入る余地がなかった。
「雷鳴剣・最終奥義──神雷断絶剣!!」
「え? ちょっと待って!? 名前が長い!!」
私は両手をメガホンにして大声でクレームを入れた。
「何言ってるのかわからないよ……」
エスト様が頭を抱えてフルフルと首を振っている。
よし、魔王軍は長い技名を付けたら死刑というルールを追加しよう。
私たちの不満をよそに、ユリシアの剣が、
これまでとは桁違いの雷撃を迸らせた。
ピカァァァァァァッ!! ドゴォォォォン!!
空が真っ白に染まり、轟音が王都全体を揺らした。
「おおおおお!?」
辰夫の竜鱗が、雷の奔流を必死に受け止めていた。
バリバリバリバリッ! ガガガガガッ!
──さすがの竜鱗も、限界に近づいていた。
「くっ……これは……」
「はああああッ!!」
ユリシアの渾身の一撃。
辰夫の竜鱗防御。
──ドゴォォォォォォン!!
衝撃が王都の空気を震わせる。
(つづく)
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『他人が命を懸けている時ほど、安全圏で食う飯はうまい。』
解説:
俺は昔、先輩レスラーが血みどろの死闘を繰り広げている最中、リング下でチュロスを食っていた。
怒った先輩に「お前も戦え!」と怒鳴られたが、「俺は今、チュロスと戦っている」と真顔で返した。
試合後、俺は先輩に控え室でボコボコにされた。
覚えておけ。安全圏とは、試合終了のゴングが鳴るまでの一時の幻だ。