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守近の、颯爽とした仕草に、野次馬は、夢中になっていたが、そこは、やはり、野次馬。すぐに、立ち往生している牛車《くるま》に、注目し始めた。


「あー、せっかく、父上が、気をそらせてくだすったのに」


守満《もりみつ》が、ごちる。


髭モジャが、互いの牛飼いをまとめ、乗り換えの段取りは、できていた。


「うーん、この人混みでは、女人殿ならば、表へでれんですなぁー」


髭モジャも、頭を悩ましている。


「あー!おばちゃーん!助けて!」


紗奈《さな》が、現状打破とばかりに、おばちゃん達を呼んだ。


守近を、見送る事で場を離れていたおばちゃん達が、なんだい、なんだいと、わやわや、やって来た。


「ん?確かに、そうだねぇー、こりゃー、人が集まり過ぎてるよ」


「紗奈、なんか、考えはないのかい?」


「いや、髭モジャだろー!」


「いやいや!」


おばちゃん達の、視線が一斉に、守満へ、集まった。


「え?!私?!私がどうやって?!」


あー、まだまだ、か。と、おばちゃん達は、肩を落とした。


「そうだ!もう!このままいっちゃいましょうよー!」


紗奈が言い切る。


「女童子よ、どうゆうことじゃ?」


「みんなー!車を押して!」


髭モジャが、問うと同時に、紗奈は、野次馬へ、呼び掛けていた。


「乗り換えが、無理なんでしょ?だったら、望み通り、このまま進めば良いのよ!」


「ああ!そうだ!何も乗り換えに、こだわらなくとも!皆様、それでいかがでしょうか?我らが、外から車を押します。多少、乗り心地は、悪くなるでしょうが、そこは、どうか、おこらえ下さいますように」


守満は、紗奈の言い分を理解して、牛車《くるま》へ呼び掛けた。


どのみち、この動かなくなった車を、目的地まで押し運ばなければならない。ならば、このまま人を乗せて、押し進めば良いだけのことではないか。


「なるほどのぉ、その手があったか!」


髭モジャも納得しているが、むむむ、と、困った顔をした。


「守満様、こちらの車に、若を移してしまいました。力のある牛に引かせた方が、押し手も楽かと思い……」


車二台の移動になるなら、その方がと、髭モジャが采配したのだ。


「ああ、そうか、若に、このまま引かせて行くのが本来は良いのだろうが、目的地は、三条本通りだ。押して行けない場所ではないだろう。それに、結局、車二台を動かすことになる。髭モジャ、すまんが、牛を、付け替えてくれ」


「はい、かしこまりました。三条ならば、どうにかこうにか行けるでしょう。しかし、守満様、いつの間に行き先を?」


あれだけ、頑として、拒んでいる女房達が、目的地をあっさり口にするはずもなく、その、女房達に仕切られている牛飼い達も、また同じく。髭モジャが、尋ねても、いえぬのじゃと、眉尻を下げて困っていたからだ。


「父上が、おっしゃっておられた」


「へっ?!守近様が?!」


髭モジャは、瞬間、ボカンと呆けた。


いったい、いつの間に。やはり、大納言、という地位は、女房達には強いのか?しかし、一方的に声がけしていただけで、守近が、女房達と、はたまた、牛飼い達と言葉を交わした様子はなかったのだが……。


「ああ、守近様なら、すぐに、わかるわぁー」


紗奈が、何かに納得している。


「そうだねぇ、若い頃から、鍛え上げてるからねぇ」


と、おばちゃん達も、同じく、納得している。


「ん?ワシは、さっぱりわからんのじゃが?」


ますます、髭モジャは、混乱した。


「だからね、女人が乗っているということは、出車《いだしくるま》ということでしょ?つまり、後ろ簾から垂れている裾の種類から、読みとられたのよ」


女人が乗る牛車《くるま》は、簾《すだれ》の下から、纏っている装束の裾先を出したり、または、装束だけを置いたりして、飾りとするもの。


守近は、その垂れている衣の裾だけで、どちらの姫君か、どちらのお屋敷の女房か、と判断できる、らしいが……。


そんな、裾を見ただけで、簡単に分かるものなのか。と、髭モジャのみならず、守満も、唖然としている。


「それが、できるんですよ、守近様は。それぞれの、お好みを全て把握しているんだから、まあ、女人が関わると、ほんと、すごい力をお見せになるわ……」


ひゃーと、呆れ返る紗奈の説明に、おばちゃん達も、うんうんと、頷いている。


「はあー、さすがは、父上、と、言って良いものか……だが、あちら方が、違うと言われない所をみると、正解、なんだろう」


すごいな、と、守満も、驚いている。


「おお、そうと決まれば、守満様、暫しお待ちくだされ、牛の準備を行いまする」


共に呆れていた、髭モジャも、役目に戻り、再び場は、騒然とした。


「さあ!崇高《むねたか》様、出番ですよ!検非違使の力で、車を押す者を集めるのです!」


「……いや、それは、職権乱用になるのでは……」


何がなんだかと、ぼっとしていた崇高は、いきなり紗奈に声をかけられて、つい、素のままで、答えてしまった。


「はあー、やっぱり、検非違使、融通がきかないねぇー!」


ほんと、ほんと、任しちゃおれないよ、と、おばちゃん達が、しゃしゃり出て、ここに、男はどれだけいるんだい!などと、野次馬を煽り始める。


「いやいや、おばちゃん、私も、うちの牛飼いも、髭モジャもいる。皆、それぞれ用があるだろう?手間を取らせてはいけないよ」


一層、ざわつき始めた場を収めようと、守満が、気を効かせたが……。


「あれー!こちらの、少将様のお優しきこと!」


「自ら車を押すなんて!」


「はあー、それに比べて、なんだい、ここに、集まってんのは、野暮助ばかりかいっ!」


おばちゃんの鼻息の荒さは止らずで。


ちょっとまったー!オレ達の男気見せてやるよ!あー、そーだそーだと、野次馬は、口車に乗せられて、我も我もと、車に群がって来る。


「いや、おばちゃん達、助かりました」


頭を下げようとする、守満を、おばちゃん達は、必死で制した。


「あー、ほんと、この子は、良い子に育って!一介のおばちゃんにまで、頭を下げようとするなんでさぁーーー!!!」


それに比べて、と、おばちゃん達は、崇高を見た。


「あー、だから、検非違使ってのは、役に立たないんだよー」


散々な言われように、崇高は、返す言葉なく、立ちすくんでいる。

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