テラーノベル
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それでは、
どうぞっ。
ーーーーー
カウンターの琥珀色が、彼女の白い指先で揺れる。
焼酎の冷たさが喉を通るたび、柚葉は來亜の奥にある嘘が溶けていくのを、ただ静かに待っていた。
渋谷の雑居ビルにある感性居酒屋は、都会の胃袋みたいに酸っぱいアルコールと、安っぽい香水の匂いを吐き出している。
円卓の向こう側で、如何にもなIT系を自称する男たちが、下品な笑い声をあげていた。
柚葉はグラスの縁を指で弄びながら、会話の輪の外でただぼーっと來亜の横顔を見つめていた。
🤍「あははっ、笑。そーなんですか?」
來亜が、隣の男に体を預けるようにして笑っている。
二十二歳の若さが纏う、無防備で残酷な光。
彼女は柚葉という『安全圏』を背後に置き、男たちの欲望の海へ軽やかに足を踏み入れていた。
あの上目遣いも、わざとらしい声も、誰かに選ばれるための演出に過ぎない。
柚葉はその様子を、視界の端で冷ややかに追っていた。
男の視線が、來亜の露わになったデコルテを粘着質になぞる度、苛立ちが静かに、けれど確実に柚葉の中で渦を巻く。
🩵「……、」
🤍「……柚葉ってば、聞いてる?ここのハイボール、すっごく飲みやすいんだよ。」
來亜が楽しげにジョッキを差し出す。
柚葉はただ小さく微笑んで、グラスを合わせた。
言葉は出ない。
言葉にしてしまえば、柚葉の中に渦巻くドス黒い情熱が、溢れ出してしまいそうだったからだ。
ーーーーー
そこから小1時間、來亜は上機嫌で飲み続けた。
空になったグラスがテーブルに積み重なり、彼女の頬が朱に染まる。
男たちの饒舌さに混ざって、來亜の笑い声が少しずつ湿り気を帯びていくのを、柚葉はただ観察していた。
🤍「……ちょっとお手洗い。」
來亜が椅子の背もたれを掴み、ふらつく足取りで立ち上がる。
男たちは「行ってらっしゃい」と下心満載な笑みを浮かべた。
柚葉は無言のまま、ゆっくりとグラスを置き、彼女の背中を追う。
2分ほど待ってから、柚葉も席を立った。
🩵「…ちょっとだけ失礼しますね。」
柚葉は先ほどまでとは別人のような、いい笑みを向けてみせた。
テーブルの男たちが情けない声で返事をするのを背中で聞き流し、柚葉は迷わず女子トイレへと向かった。
ーーーーー
洗面台は空っぽ。
奥の個室から、ヒューヒューと酸素を求めるような嗚咽が漏れていた。
隙間から覗くのは、真っ赤な顔で便器に縋り付く來亜の、見るに堪えない惨めな姿だ。
🩵「ねえ、…またやってるの?」
柚葉の声に、來亜がびくりと肩を震わせる。
振り返った彼女の目は涙で濁り、先ほどまでの愛らしさや華やかさはどこへやら、酷く無防備で、脆い。
🤍「…っ、う“…、飲み過ぎちゃっ、た…」
來亜は涙目で柚葉を見上げた。
救いを求めるその瞳を見るたび、柚葉の腹の底では、どろりとした情熱が甘く疼く。
柚葉は個室の扉をゆっくりと押し広げ、香水の匂いが漂う個室へ滑り込むと、來亜の隣に膝をついた。
🩵「……ほら、口開けて。」
柚葉は來亜の髪を無造作に束ね、冷たい指先でその柔らかな顎をくいと持ち上げた。
抵抗する気力なんて残っていない來亜は、潤んだ瞳で柚葉を捉えたまま、口を開く。
柚葉はその白い喉のラインを親指でなぞり、ゆっくりと、わざと意地悪に、喉の奥へと指を差し込んだ。
🤍「ん“、あっ……、」
不快感と刺激に、來亜の身体が小さく跳ねる。
喉を物理的に侵される苦悶の表情。その顔が歪めば歪むほど、柚葉の内側では冷たい悦びが燃え上がった。
男たちがどれほど着飾った來亜に群がろうと、今、この子の最も脆くて剥き出しな姿を支配しているのは自分だ。
そんな歪な優越感が、脊髄を駆け抜ける。
柚葉は來亜の舌の根を容赦なく圧迫し、嘔吐反射を力ずくで引き出した。
刺激された來亜の喉が、ひくひくと痙攣する。
🤍「っ、う“…ぐ、……!!」
來亜の口元から、飲んでいた酒が濁った滴となって零れ落ちる。
胃の奥底から込み上げてくる熱い塊に、來亜の喉が鳴った。
アルコールの甘ったるい匂いと、酸を含んだ吐息が混ざり合い、個室の狭い空間に湿度の高い沈黙を創り出す。
柚葉は彼女の背中を、まるで震える小動物を落ち着かせるかのように、執拗に摩り続けた。
🩵「上手。ほら、もっと楽になりたいでしょ?」
柚葉は泣きべそをかいて顔を濡らす來亜を、慈しむように、けれど絶対逃さない力加減で抱きしめる。
來亜はそれが救済だと信じ切って、柚葉の腕に必死にしがみついている。
その馬鹿みたいに純粋な誤解こそが、柚葉にとって最高の媚薬だった。
ーーーーー
しばらくして、ようやく波が引いたのか、來亜は肩で激しく息をしながら、柚葉の肩にぐったりと額を預けた。
顔を真っ赤に染めたまま、彼女は掠れた声で囁く。
🤍「…ゆずは…、ありがと……っ」
その言葉を聞いた瞬間、柚葉の胸の奥で冷たい氷が溶け、熱いどろりとした情熱が甘く満ちていくのを感じた。
柚葉は「どういたしまして」と優しく囁き、汗で額に張り付いた髪を、丁寧に耳に掛けてやる。
閉ざされた扉の向こうでは、安っぽい香水の匂いと気色の悪い男たちの笑い声が、依然として都会の夜の続きを奏でている。
けれど、この数平米の閉鎖空間には、湿り気を帯びた吐息と、2人だけの沈黙だけが満ちていた。
柚葉はただ、誰にも侵されないこの狭い聖域で、鏡の中に映る來亜の濡れた瞳を、どこまでも冷たい熱量で見つめ返していた。
end.
コメント
1件
あーーもう、読んだ読んだ読んだ!!😭💕 柚葉の冷たい執着と來亜への支配欲、めちゃくちゃエモかった…! 「馬鹿みたいに純粋な誤解」のとこで心臓ぎゅってなったよ…。 閉ざされた個室の湿った空気感が生々しくて、引き込まれた🥺💦 この歪な関係、続きが気になりすぎる…!ゆあさん天才だよ…!✨