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異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまで

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異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまで

40 - 【第四章】第8話 旅とは予定通りにはいかないものですね

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2026年01月05日

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「——当初の予定よりもかなり遅くなってしまいましたね」

ティオの家を出て、少し歩いた先で、日光の些細な変化に気が付いたルナールが眩しそうに目を細めながら空を見上げた。夕方と言うにはまだまだ早いが、明るい時間のうちに目的地に到着するにはギリギリ厳しい。柊也を腕に抱きかかえながら進めば問題無く到着出来るが、最近は妙に柊也がそれを嫌がるのでルナールは軽く頭を悩ませた。


(病院の待合室で聞いた話だと、夜になってしまうとこの辺に出没する魔物も強くなる。それらを倒す事自体は全く問題無いが、魔物の返り血で服が汚れたり、激しい戦闘で興奮し過ぎて変なテンションのまま、自分自身がトウヤ様に襲いかかってしまっては問題だよな……)


斜め上な心配をしながら『何処か道中で宿になるような場所はないだろうか?』とルナールが思案気な顔で立ち止まり、大きな荷物から地図を取り出してそれを広げた。

「どうかした?道に迷ったとか?」

真横を歩いていた柊也も歩みを止めて、ルナールに訊く。

「いいえ、迷うほどの道程でもないので心配ありませんよ。ただ、ティオの家でかなり無駄な時間をすごしたせいで、このままだとトウヤ様を抱えて走る事になるなぁと思いまして」


「それは大問題だね!ってか、無駄とか言わないの。無駄じゃなかったよ?お家で休憩させてもらえたんだからね?」


ティオ達は此処におらずともなんとなく気不味い心境になり、柊也が慌てて指摘した。

「最初の頃は、素直に抱かせてくれたのに……」

柊也の言った後半のセリフは無視したまま、ルナールが肩を落としてボソッと捏造めいた言葉をこぼす。そんなルナールに対し、柊也の顔が真っ赤になった。


「誤解を生む言い方しないの!——そ、それと、記憶改善しちゃダメでしょっ。ぼ、僕は最初から拒否し続けてるよ⁈ルナールが話も聞かずに強行してるだけだからね⁈」


「そうでしたか?そう、でしたか……。でも最近程には嫌がっていなかった気がしたもので。もしかして、私が何かしましたでしょうか?」

しゅんとした顔を向けられ、柊也の心がキュッと締め付けられるのを感じた。自分の言い回しのまずさからルナールを傷付けてしまっただろうか?と心配にもなる。

「いや、待って。普通に考えてみて?大人の男が抱えられて運搬とか、怪我でもしない限りそはやらないよね?」

「そうなのですか?すみません、そういった事には疎くって。でも、まさか……それだけの理由で、なのですか?」

なら気を使う必要は無いなと言い出しそうな顔をするルナールを見て柊也が慌てた。


「ダメだよ!ルナールに触られると、君が獣人だからなんだろうけども、なんでか肌があっつくなるし、甘い匂いしてくらくらしたりもするし。アレなんなの?」


焦りからか柊也が変な事を口走った。

「……え」

視線を逸らし、柊也が気まずそうな顔をする。発言内容に誤解や期待を生むワードが満載である事には当然気が付いていない。

ルナールはといえば、顔が真っ赤になり、言葉を失っている。口元が震え、慌ててそれを手で隠した。


「……ソレは、い、いつから、ですか?トウヤ様」

「時期?んー……特に『いつから』とか気にしてこなかったけど、よくよく考えてみたらわりと最初から、かな?でも最近特に、だね。あ、前回お酒飲んだあたりから悪化した気がする。ねぇコレって、まさか……アレルギーとか皮膚病とかじゃないよね?」


記憶は無くとも肌は覚えていると言う事か——と、ルナールは気が付き、隠し切れない嬉しさからその場にしゃがみこんだ。手に持っていた地図が地面に当たってグチャとシワが入ってしまったが、そんな事を気にしている余裕は全く無い。尻尾が感情と連動する様にブンブンと激しく振られ、もうすっかり有頂天だ。

「え?どうしたの、ルナール?」

柊也がオロオロし、腰を屈めてルナールの様子を伺う。

「……すみません、ちょっと。えっと……ソレはアレルギーとかでは無いですからご心配無く」

顔をあげて柊也の方を向きはしたが、視線を合わせられない。顔は真っ赤なままだし、喜びでニヤつく口元も手で隠しているしで、ルナールは怪しさ満点なままだ。

そんな姿を見て、柊也の心臓がドクンッと激しく跳ねる。『だぁかぁらぁぁ羨ましくなるレベルで大きいクセに可愛い顔しないの!』と叫びたい気分になった。


二人の間に何ともいえぬ空気が漂い、それを元通りに戻そうとしたのは、意外にもルナールの方だった。

このままではこの場で押し倒しかねない。外ではまだダメだ——そんな理由からだ。

ぐしゃっとなってしまっている地図をそのまま地面に広げ、気を取り直してこれからの道程をルナールが確認する。

「えっと、トウヤ様を抱えずに歩きでとなると、今日中の峠越えは時間的に無理があるので、途中で一泊しましょう。野宿はさせたくないので宿でもあれば……あ、少し進んだ先に神殿がありますね」

「……神殿か。——って、ヤバイ。僕等さ、出発してから一度もウネグさんに報告とかってしてないや」

「必要なものだったのですか?『絶対にしてくれ』って言われていましたっけ」

「そこまで言われてなくても必要じゃないかな!だって、僕等って神殿とか王族の後ろ盾があるおかげで、タダで泊まったり食べたりしてるんじゃないの?なら報告しないと!」


「あれらは、【純なる子】に対してそれぞれが何か出来ればといった気持ちからくるもので、後ろ盾がどうのといったものではないのではないかと。トウヤ様が頑張って下さっているので、みんなそのお礼をしたいだけですよ」


「……え、僕は何も頑張ってないよ?ただそこに『居るだけ』じゃん。『居るだけ』でいいから、僕でも役に立てているとも言えるけど。まぁ……祭りで踊ったり、お医者さんをごっこをやったりは、確かにちょっと頑張ったけども」

「トウヤ様がそのように全く恩着せがましくないあたりがまた、“何か”したくなるのでしょうね」

ニコニコと笑いながら地図をたたみ、ルナールがすくっと立ち上がる。柊也の顔を見詰め、ルナールがそっと彼の頰を撫でた。

「まぁ心配せずとも、各地の巫女や神官がトウヤ様をお見かけした嬉しさから勝手に主神殿へ報告していると思いますよ。なのでそう心配なさらずに。でも、今夜は神殿に立ち寄り、そのついでに私達からも報告しておきましょうか」

些細な心配を『不要だ』と捨てず、きちんと聞き入れてもらえた事で柊也が歓喜した。

「うん!そうだね、是非そうしたいな」

「決まりましたね。では行きましょうか。——でも、その前に」

鼻先をすんっと動かし、ルナールが背負っている二人分の荷物を地面に放る。左腕にはめてある武器を収納してある太めのブレスレッドに触れ、ルナールが「槍を」と短く発した言葉に呼応して各種武器を象徴するマークが刻まれた透明な宝石の一つが淡く光だし、その中からルナールが氷で形作られた槍を引き抜いた。

両手で掴んで腰を低めに落とし、彼が槍を構えたと同時に魔物特有の唸り声が柊也の耳にも届く。後方から四体……いや、五体へとその数を増やした魔物が地面から噴き出してきたかの様に出現し、ゆっくりと近づいて来ているみたいだと、気配と唸り声とで察した。

戦闘の邪魔にならないように、魔物とは反対の方にある木の陰に柊也が咄嗟に隠れる。


「さっさとコレを片付けますので、トウヤ様はそのままそこから動かずに頼みますね」

「う、うん!」


先程まで楽しそうに微笑んでいたルナールの顔が真剣なものに変わる。視線だけで対象者を殺せそうな程の鋭い目付きだ。


一匹たりとも柊也には触らせない。


そんな気迫が、全身と、構える武器の双方から立ち込めていて怖いくらいだ。正直こうなっては、どちらが魔物なのかわからない迫力もある。

湖が近いからなのか、イソギンチャクからロープの様な物が数本生えたような見た目をした触手生物であるローパーが、呻き声をこぼしながら柊也とルナール達ににじり寄って来る。

触手は別として、本体は動きが極端に遅いのは助かるが、二メートル近くもある巨体がちょっとグロい。

柊也のか細い知識では、ローパーという魔物は『女性の香り』に釣られて、潜っている地中から出てくると聞いた事があったため、出没したローパーに対してちょっとビックリした気持ちになった。


(んー僕の知識って、ホントこっちじゃ役立たずだなぁ。それともまさか、ルナールの甘い香りに釣られたとか?……うん、それなら納得だ)


ウネウネと動く触手がルナール達に向かって素早く伸びたのを合図に、戦闘が始まった。ルナールの反応は相変わらず素早く、全く遅れをとっていない。むしろ体を動かす事を楽しみ、余裕であしらっている感じだ。

「うわ、相変わらずルナールはすごいな……」

『狩人だ』と聞いているのに、戦う姿は、何度見ようとも剣士やアーチャーといった戦闘職の動きそのものだ。動物を狩って生計をたてていたという話が胡散臭くなるレベルの戦闘シーンを前にしても、柊也は『狩人ってスゴイね!カッコイイなぁ!』と信じて疑っていない。

柊也が目をキラキラとさせてルナールの戦いに魅入っている。怖い気持ちはもちろんあるし、必ず勝てると信じてはいても、怪我でもしやしないかという不安とストレスはどうしても付き纏う。


ドキドキする胸元を服の上からギュゥと握り、柊也がじっと戦いを見守っていると、氷で出来た槍は振りかぶるたびに冷気で周囲の温度を一気に下げ、ローパーの動きを著しく鈍くしていた。

高く飛び上がり、ルナールがローパーの頭上から一直線に槍を突き刺す。その瞬間、魔物の体が一気に凍りつき、ガラスのように砕け散った。

『ギギィッ……』

仲間の死に対してのものなのか、怯えを感じさせる声がローパー達から聞こえた。

ルナールの目が仄暗く光り、その後も容赦無く魔物に飛びかかり、二体目、三体目と連続で頭から槍で刺し、ルーパーが細氷の塵と化す。空中を舞う細かな氷晶が日光により輝いて、まるで真冬の寒空の下でしか発生しないダイヤモンドダストみたいだ。戦闘シーンのはずなのに『とても綺麗な絵画のようだな』と柊也は思った。


汗の一つも流さぬまま、ルナールが残りのルーパーに対し槍を突き刺し、全ての魔物を撃退する。

邪魔になった髪を片手でかきあげ、手にしていた氷の槍がパーンッと割れるように消え去っていった様子は、ダイヤモンドダストの中に居る効果もあってか、誰もが目を奪われるであろう光景だった。


突然の戦闘により昂ぶった目付きへと変化していたルナールが無言のまま柊也に視線を移す。その視線に射抜かれた途端、柊也は『……あ、コレはヤバイ』と感じた。今まで不安やストレスからだと感じていた戦闘中のドキドキが、全く違うものであった事を不意に気が付いた。気が付かされてしまったのだ。『カッコイイなぁ』『綺麗だね』と思っていた気持ちも、そう感じる理由が自分の中にある『何』から生まれてくるものなのか、急にストンッと腑に落ちてしまったのだ。


(え……か、髪をかきあげていただけだよね⁈——え、何で、何?何でこんなに、こんなにドキドキするんだ?今までだって、何度も見てきたじゃないか!)


顔を真っ赤に染め、消えていく氷晶を背にしたまま柊也へと駆け寄るルナールから柊也が視線を逸らせずにいると、そんな彼の様子を不思議に思ったルナールが、腰を折って顔を覗き込んだ。


「トウヤ様、どうかされ……」

「へ⁈——あ、いや、何でもないよ?綺麗だなって思って、見惚れてただけだから!」


ルナールの姿を柊也は褒めたのだが、珍しく彼はそうは受け取らなかった。

「あぁ、ダイヤモンドダストですね?私も好きですよ。今のように、真冬でなくても、一瞬であれば作り出せますから、見たい時はいつでも言って下さいね。真夏だとかにやると、きっともっと儚さのおかげもあって美しいのでしょうね」


「……え、あぁ。そうだね。是非また見たいなぁ」


赤面する顔のまま柔らかく微笑まれ、ルナールの心臓がドクンッと激しく跳ねる。心臓に恋の矢を突き刺される古典的な描写がお似合いな程、わかりやすく柊也への気持ちがまた深まった。

「……あぁ……何故この人は、こんなにも……」

呼吸が上手く出来ず、乱れるのを感じる。愛おしい気持ちで胸が苦しくて、辛いと感じるくらいだが、ルナールはそれを言の葉にのせる事を選ばなかった。

言葉になどしたらこのまま暴走して何をするかわからない。そんな事はしまいと決意し、ぐっと手を拳を強く握り、爪が肌に喰い込み、血が滲む。


「では、魔物も消えましたし……神殿へ急ぎましょう。また沸き出ては面倒ですからね」

「そうだね、うん。疲れたんじゃない?僕が荷物を持とうか?」

「いいえ、この程度朝飯前ですから。でも、お気遣いにはいつも感謝していますよ」


「そんな……それは、僕の台詞だよ。いつも……ありがとう」


今までの旅路の過程で少しづつ溜まっていった好意的な感情が、恋愛的な『好き』という感情に移行していき、『恋心の器』がとうとう満たされてしまった柊也が照れながら感謝を口にする。

急な柊也の反応にルナールは多少の困惑を感じたが、『トウヤ様は本当に可愛いなぁ』という気持ちですぐに消えた。

「……トウヤ様、今夜はお酒でもいかがですか?」

そう誘ったルナールの声は、ちょっと艶っぽい色があった。




「——————ジョ、ジョセフィォォォヌ!マルコ!アザン!モリィ!リリシアァァァァ!」


王都の隅にある廃墟の一角で、金色の髪をした一人の男が絶叫した。これらは全て、先程ルナールが倒したローパー達の名前のようだ。


「くそぉ!一体アイツらは何体のワタシのペット達を殺せば気が済むんだぁぁぁ!」


『遠見の鏡』に拳を叩きつけ、男はそれを力任せに割った。大きなカケラが手に刺さり、血が垂れ落ちたが、何度も何度もガラスを叩き続け、周囲に血を撒き散らす。


「うわぁぁぁ!あんな、あんな【純なる子】なんか早く死ねばいいのに……何故上手くいかない?一緒に居るあの男は一体なんなんだ?本当にただの従者なのか?『狩人』って話は、どう見たって嘘だろ!調べてさせても一切今までの経歴が出てこないし、まるでこの世界には存在しないみたいに何もわからないなんて、どういう事だぁ!」


ピークに達した怒りが遠見の鏡の枠さえも叩き割り、役に立たぬゴミへと変えた。

「はぁ……はぁ……はぁ…………。ユラン兄さんをこのまま閉じ込めておかないといけないのに……そのためには、あんなガキは一日でも早く殺さないとなのに……」

傷だらけになった手から血が流れ出るのも構わず、男がふらりと歩き出す。


「……スライムだろうが、魔狼だろうが、より凶暴になるように調教して飼い慣らすまで、ワタシが一体どれだけ苦労したと思ってるんだ……。あのガキは殺す殺すコロス……あぁ、兄さんにいさんにいさ————……」


爪を噛み、男がボソボソと言葉を繰り返す。誰も来ぬ廃墟で一人、【孕み子】である『ユラン王子』を『兄さん』と呼びながら、彼は自分の『城』に帰って行った。

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