テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あの後、
草笛祭りが終わった後、
草笛がいつからあるのか蒼葉くんに聞いてみた。
が、答えてくれなかった。
いや話を逸らされたという方が正しいだろうか。
「里玖にぃって『ぺんぺん草』って知ってる?」
「ぺんぺん草?なに?それ」
「ぺんぺん草はね….」
そう蒼葉くんは説明しようと口を開けるも、噤む。
「説明するより実物を見た方が早いかも!!」
蒼葉くんは少し考え込んだ後、
そう提案の声を上げながら押し付けるようにして僕にナズナの花を押し付けてきた。
ナズナの花って結構色んなところに生えてるけどデカイから花摘みとかでは使わない。
というか硬すぎて抜けない。
が、そんなナズナは今、蒼葉くんに根ごと引っこ抜かれて僕の手の中にある。
蒼葉くんは引っこ抜く時、頑張って引っ張ったのだろうか。
おおきなかぶみたいに…
そんな変なことを考えたせいか、
勝手に口角が上がってしまう。
しかもそんな顔を蒼葉くんに見られていた。
蒼葉くんは不思議そうに首を傾げて微笑んでる。
笑顔が伝染したように。
あぁ、恥ずかしい。
「あ、そういえば里玖にぃ!!」
「これあげる!」
そう言って蒼葉くんは笹船をくれた。
「これ…笹船?」
「そう!」
なんで笹船なんかくれたんだろう。
そう不思議に思っていると
「その笹船、全部で8つあるでしょ?」
「『正しい場所』に浮かばせるといいことが起きるんだ!」
そう簡単そうに説明する蒼葉くんだが、
その『正しい場所』がどういうところなのかのヒントは一切くれなかった。
「1つはここ!」
そう言って蒼葉くんが指差した方を見る。
が、そこは初夏特有の真っ青な空だった。
「ぇ、?」
そのまま疑問の声が零れる。
浮かばせる?
空に?
いやいやいや…
「はい、やって!」
押し付けるようにして笹船を1つ渡してくる。
僕は半信半疑ながらに青空に笹船を浮かばせるように手を伸ばし、手を離した。
ら、笹船は浮いていた。
「は…?」
間抜けな声が飛び出る。
いや、この光景を見て驚かない人は居ないと思う。
だって重力に違反しているのだから。
そんな僕を他所に、
蒼葉くんはその笹船に上に緑色の紅葉、
青紅葉を乗せた。
「理玖にぃ、早く早く!!」
そう言ってまたもや何かを渡してくる。
今度は何かと思いながら渡されたものを見ると、見たことないくらい丸く綺麗な綿毛、たんぽぽだった。
僕は蒼葉くんに促されるがままに綿毛を吹くと、綿毛は笹船にくっついて宙へとどこかへと飛んでいく。
それが気球…
いや、花球のように見えて。
幻想的以外の言葉で表せなかった。
その後、僕は初夏の都から出て彷徨うように再び歩き出した。
多分、次行くべき場所は冬の都か梅雨の都。
「梅雨の都か…」
そう嫌そうに呟く。
だって前みたいに殺されるかもしれないって、そう思うと、背筋に鳥肌が立つ。
でも冬の都に行ったところで、
結局は鳥居が無いから会えない。
だから選択肢は梅雨の都に行くたった1つしか無かった。
蒼葉くんが言ってた他のとこ…
夜光りの都だっけ?
あの場所も夜にしか行けないらしいし…
「って…待って、なんか忘れてる気が……」
「あ、!!蝶!!」
そう声を荒げ、初夏の方に戻ろうとする。
が、ふと止まる。
そう。
捕まえたところでどうすればいいのか分からない問題を思い出したのだ。
何か役に立ちそうなものが無いかと思いながらポケットやらを探る。
と、ズボンのポケットから何やら銀紙のようなものが出てきた。
「これは…、『チョコレート』?」
何故か僕のズボンのポケットから銀紙に包まれたチョコレートが大量に出てきた。
入れた覚えは特に無い。
とりあえず…
そう思いながら口に運ぶ。
自分でもなぜ食べたのかは分からない。
ただの好奇心からだろうか。
というかいつから入っていたのか分からないチョコレートを無闇矢鱈に食べるのは危険じゃないのか?
賞味期限とか…
食べた後に考えるのは遅すぎる気がしながらも気にしてしまう。
でも特に味には問題なさそうだったら。
甘い。
まぁ、もしかしたら時間が経って腹痛とかも有り得るかもしれない。
そんなことを考えていると、いつの間にか目の前にあの葉っぱに擬態した蝶が居た。
「え、」
驚きながらも蝶に手を伸ばす。
と、蝶は僕の指に留まった。
いつもは葉吹雪が吹いてその中に紛れていたはずなのに、今は蝶単体だけで草吹雪は一切見当たらない。
「なんで今更…」
というか初夏の都の近くじゃなくても蝶は現れるのか。
そう思いながらも僕は捕まえることをすっかり忘れていた。
葉に酷く似ている蝶は何かを狙っているかのようにひらひらと舞い飛ぶ。
「もしかして……」
「これ?」
そう独り言を呟きながら蝶の目の前でチョコレートを動かす。
と、蝶はそれを追った。
まるで獲物を追う猫…
いやどっちかというと猫じゃらしを追う家猫のように。
てかなんかこの姿…████みたい。
またもやあのノイズ音。
しかも頭痛と共に。
「一体この頭痛とノイズ音はなんなんだよ…」
そう酷い頭痛に顔を歪ませながら不満を地に落とした。
瞬間、僕の身体は勝手に傾き、
意識は朦朧としていく。
『あ、これやばいやつだ』景色が真っ暗になる前に思ったのはそれだけ。
で、景色は先程までチョコレートの周りを舞っていた蝶ではなく、
美味しそうにチョコレートを頬張る
“ 兄 ” の姿だった。