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「九條。お前の楽器、俺の楽器と一緒に一度調整に出そうと思ってるから、暫くの間、借りるぞ」
思いもしなかった侑の言葉に、瑠衣はきょとんとして言葉を返す。
「え? 調整ですか!?」
彼から楽器を買ってもらい、まだ一ヶ月も経ってないのに、もう調整に出すのか、と瑠衣は不思議に思っていた。
「俺の友人で腕のいいリペアラーがいる。前から一度楽器を調整してもらおうと思ってたんだが、今日、そいつがハヤマの銀座店に来店するから、依頼しようと思ってな」
この日、侑はオフだが、ハヤマの銀座旗艦店でトランペットの選定会に呼ばれているため、午後から出掛ける予定になっている。
「その間、レッスンや練習で使う楽器はどうすればいいですか?」
「俺が昔使っていた楽器があるから、ひとまずそれを使えばいい。できるだけ早くやってもらえるように、俺からも頼んでみるが」
「わかりました」
昼食の準備を済ませ、キノコとベーコンの和風パスタを振る舞う。
綺麗に完食した侑は身支度を整えた後、二つの楽器ケースを持って玄関へ向かい、車で銀座へ向かった。
侑が出掛けた後、部屋の掃除を済ませ、瑠衣は近所をぐるりと散歩をしてスーパーへ晩御飯の食材を買いに行った。
(こうしていると、何だか自分が先生の彼女なんじゃないかって、勘違いしそうだよ……)
食材を手にしながら、瑠衣は漫然と考えてしまい、気付くと店内をぐるぐる回っている自分に思わず苦笑してしまう。
(ヤバい。早く買い物して、晩御飯の準備をしないと……)
必要な食材を買い揃え、瑠衣は慌てて彼の自宅へ戻った。
手洗いとうがいを済ませた瑠衣は、久々に食べたくなった肉じゃがとワカメと豆腐の味噌汁、小松菜と油揚げのおひたしを作った。
侑の家に身を寄せてから、多少は料理を作る機会も増えたが、まだまだレパートリーは少ない。
(もっと色々作れるようになりたいなぁ)
考えながら洗い物をしていると、銀座へ行っていた侑が帰宅し、リビングへ入ってきた。