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「あれ、これは、これは、奥様じゃないですか?」
開かれたドアの向こうにいたのは、ハリソンだった。
櫻子は、鉢合わせたハリソンに息を飲む。
「ハリソンさんじゃねぇですか。っつーか、ここで、出会うということは、何か、ゴタゴタに捲き込まれたと……」
龍に言われて、ハリソンは、苦笑う。
「そっ、ここの先生は、秘密主義だから。何でも黙っておいてくれるのよ。野良猫に引っ掛かれたなんて、他人様に知れたら恥ずかしいでしょ」
ははは、と、空々しく笑うハリソンに、龍は、にやけながら、言った。
「どうせ、土地か何かの取り合いで、争い事に巻き込まれたんでしょーが」
野良猫とは、まったく、と、呆れながら、龍の視線は、ハリソンの左の手首に巻かれた包帯に留まっていた。
「櫻子ちゃん、ここは、訳ありの怪我人の面倒見てくれるんだ。まあ、俺らは、何かと、ゴタゴタに巻き込まれやすいからねぇ。だから……社長も……。ひとまず、これ以上の騒ぎにならねぇように、八代の兄貴が考えてのことだろうなぁ」
子爵と豪商の結納の場で、人が刺された。警察沙汰になる話ではあるが、さて、それが、適切なのか。集まっていた面々には、それなりの立場がある。安易に動けないと、金原側は一旦引いたようだが……。
しかし、櫻子は、
「ハリソンさん!!こ、小春さんが、見つかりました!!」
変わらずの蒼白な面持ちで、ハリソンに向かって叫んでいた。
小春という芸者を、ハリソンは、さる高官とやらの代わりに、探している。そして、その、小春らしき人物──、勝代が、ハリソンの名前を口にした。
どういうことか、櫻子は、掴みきれてなかったが、金原が、崩れ混む時のやり取りからして、金原は、橋のたもとに捨てられていた孤児ではなく、れっきとした、親がいる。
……それは……。
「ハリソンさん!!!答えてください!!!」
櫻子の叫びに、ハリソンは、少し寂しげに、そして、優しく笑った。
「……キヨシは、出血が多かった。命に別状はないらしいが、油断は出来ない状態のようだよ?今更、私が出る幕だろうか?君の出番じゃないのかい?」
刃物を持った、野良猫、に、襲われ傷を負ったハリソンは、ここ酒井医院で治療する為、やって来た。そして、偶然にも、担ぎ込まれた金原と遭遇したのだ。
「……キヨシは……過去ではなく、未来を、君と歩もうと望んでいる。だから、早く行っておやりなさい」
「ハリソンさん!!!」
粘る櫻子の気迫に、事情を知らない龍は押され、立ちすくんでいる。
「キヨシを頼んだよ」
「ハリソンさん!!!」
櫻子は、答えが知りたいとばかりに、立ち去ろうとするハリソンの腕を掴んだ。
「つっ……!」
傷口に触ってしまったのか、ハリソンは、その顔を歪めきる。
「櫻子ちゃん……?な、なんかわかんねぇけど、ここは、いったん……」
櫻子らしからぬ様子に、見かねた龍が口を挟んで来た。
「龍さんは、黙ってて!!」
「龍ちゃん、奥様はね、早くキヨシの所へ行きたいんだよ……」
ハリソンは、いきり立つ櫻子に、手を離してくれまいかと懇願し、何かから逃れる様に龍を見た。
「で、私の帰りの足がない。龍ちゃん、人力に相乗りさせてよ」
「そ、そりゃ、まあ、構いませんけど……」
「いやぁ、助かるねえ」
何時ものように、軽々しい口ぶりでハリソンは、櫻子の脇を通り過ぎる。
「ハリソンさん!!!」
「……早く行っておやり」
ハリソンは、それだけ言い残すと、龍に抱かれている、お玉にちょっかいをだし始めていた。
「ハリソンさん!!!」
櫻子は、再び叫んだ。
しかし、返って来たものは、ハリソンにくすぐられて笑う、お玉の声だけだった。
#異世界ファンタジー