テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#古代
眠狂四郎
521
#ドラマ
眠狂四郎
284
#ドラマ
眠狂四郎
196
#戦国時代
眠狂四郎
153
かつて神々は、人間を東の不毛な大地へ追放した。
その地には実りも少なく、
猛獣と飢えと寒さだけがあった。
人類を哀れに思ったプロメテウスは、
禁じられた火と知恵を与える。
人々はその贈り物を手に、
恐ろしいほどの忍耐と執念で荒野を切り開いた。
やがて国が生まれる。
狼に育てられた双子の兄弟を始祖とする王国――グラン。
しかし、この国だけは他国と違っていた。
北の王は雷神トールの末裔。
南の王は太陽神ラーの化身。
東の王は海神ポセイドンの血を引く。
だがグランの王には何もない。
神託もなければ、神の加護もない。
王が「神に選ばれた存在」であることを証明できなかったのである。
六代にわたり王たちは権威の確立を試みた。
だが貴族たちは従わず、
都市は勝手に争い、
王権は弱まるばかりだった。
そして七代目の王は決断する。
王だけでは国を治められない。
ならば知恵ある者たちに国を支えさせよう――と。
こうして元老院が設立された。
以後、国の方針を決めるのは元老院。
王はその決定を執行するのみ。
グラン王国の王とは、
神の代理人ではなく、
国家の代表者に過ぎなかった。
だが、その国に一人の英雄が現れる。
軍事。
政治。
経済。
文化。
芸術。
その男は、あらゆる分野で並ぶ者のない才能を発揮した。
戦場では敵を打ち破り、
議場では論敵を黙らせ、
民衆はその名を讃えた。
人々は彼を英雄と呼んだ。
――ジュリアス。
やがて彼は、一人の少年王に興味を抱く。
即位したばかりの若き国王。
ライナー・クニツィア。
神々の血を持たず、
神託すら与えられない国の王。
ある日、ジュリアスは少年へ問いかけた。
「ライナー王よ」
「あなたは考えたことがありますか?」
ライナーは首をかしげる。
ジュリアスは空を見上げた。
北には雷神の国。
南には太陽神の国。
東には海神の国。
世界は神々に支配されている。
だが、人の国だけは違った。
そして彼は静かに呟く。
「神は我々に何をさせようと思っておられます?」
それは疑問だった。
神への不満だった。
そして――
人類が神に投げかけた最初の問いでもあった。
ライナーはしばらく考え込んだ。
神々の加護を受ける諸国。
神託によって導かれる王たち。
だが人の国だけは違う。
神は何も語らない。
何も与えない。
沈黙している。
やがてライナーは口を開いた。
「思うことすら不敬ではあるのですが……」
ジュリアスは黙って続きを待った。
「神は我々に――」
「自分の足で歩け、と言っているのではないでしょうか」
風が吹く。
ジュリアスは一瞬目を見開き、
そして満足そうに頷いた。
「なるほど」
「それは実に面白い」
彼は空を見上げる。
遥か彼方にいるはずの神々へ向けるように。
「神話を作ったのも人です」
「ならば――」
「神を消し去るのもまた人でしょう」
ライナーは息を呑んだ。
それはあまりにも危険な言葉だった。
王ですら口にできない。
神官なら卒倒し、
他国の王なら即座に処刑を命じるだろう。
だがジュリアスは笑っていた。
まるで新しい世界を見ているかのように。
「神なき世界」
「人が自ら考え、自ら選び、自ら責任を負う世界」
「それを見てみたいとは思いませんか、ライナー王」
その瞬間――
少年ライナーは初めて理解した。
なぜ人々がこの男に魅了されるのかを。
ジュリアスは王になりたいのではない。
世界そのものを書き換えたかったのだ。
過去に思いを馳せていたライナーは、
扉の開く音で現実へ引き戻された。
「ライナー王、こちらに署名を」
机の上に書類を差し出したのはマエクスだった。
その後ろには腕を組んだアグリが立っている。
二人とも幼い頃からの友人だった。
アグリはかつてジュリアスがライナーの補佐役として任せた軍事顧問である。
戦場を愛し、
何より歩兵を信頼していた。
王都守備隊を任されている今も、
暇さえあれば兵舎へ顔を出している。
一方のマエクスは政務担当だった。
昔から計算が異様に速い。
商人たちが算盤を弾いている横で答えを口にし、
教師たちを驚かせたことも一度や二度ではない。
今では王国の財政と行政を取り仕切り、
ライナーの右腕として働いている。
ジュリアス亡き今、
二人はグラン王国を支える柱だった。
王都の治安維持も、
物資の管理も、
反乱の芽を摘むことも、
その多くを彼らが担っている。
マエクスは無表情のまま書類を指差した。
「ジュリアス暗殺に与した者のリストです」
「排除いたします」
「内容は確認済みですので署名だけお願いいたします」
ライナーは目を止める。
「オセロの名も……?」
「彼は元老院議長でありながら暗殺者たちを逃がしました」
真顔で返される。
「それは……」
「憂いは断っておいた方がいい」
アグリが前にでて言った
「アントンがイージプト国境に兵を進めた」
「戻る様子はない」
「……」
ライナーは二人が何を考えているのかわかり
これから起こることに戦慄した
ライナーはゆっくりと書類を閉じた。
ジュリアスはもういない。
だが彼が残したものは確かにここにある。
人が自ら考え、
自ら選び、
自ら責任を負う世界。
その理想は今も生きている。
しかし――
理想を守るために何を犠牲にするのか。
その問いもまた、
ジュリアスが残したものだった。
マエクスは静かに返答を待っている。
オセロ一人では終わらない。
署名すれば、
元老院は血に染まるだろう。
ライナーはペンを握ったまま動けなかった。
コメント
1件
第15話、めっちゃ重厚で心に響いた…。神に頼らず“自ら選び、自ら責任を負う”世界を目指したジュリアス。でもその理想を守るために、今度は“元老院を血で染める”選択を迫られるライナーが切ない。親友のオセロまでリストに載ってるのがつらすぎる。13話から積み重ねてきたこの国の空気が、全部ここで炸裂してる感じがした。次の展開、読みたいけど怖い…!🖊️🔥