テラーノベル
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王都から遠く離れた北方――
ガラリア地方。
広大な草原と森に囲まれたその地は、
豊かな牧草地と交易路を持つ平和な土地だった。
春の終わり。
農民たちは畑を耕し、羊飼いたちは群れを追い、
市場では商人たちが品物を並べていた。
誰もが、いつもの一日が続くと信じていた。
しかし、その静寂を破る音が大地の彼方から響いた。
ドドドドドドドド――!!
地鳴り。
いや、馬蹄の音だった。
丘の上で羊を追っていた少年が顔を上げる。
地平線の彼方。
黒い波が押し寄せてくる。
「馬……?」
次の瞬間。
「騎兵だあっ!」
叫び声が村中に響き渡った。
見張りの鐘が激しく鳴る。
だが、遅かった。
先頭を駆ける男たちは狼の毛皮をまとい、長槍と弓を持っている。
その中央。
巨大な黒馬にまたがる男がいた。
トールの末裔。
ヴァルケン国王。
アテイラ。
風になびく金髪。
鋭い青い瞳。
その姿を見た部下たちは歓声を上げた。
「王よ!村です!」
「家畜もおります!」
アテイラは鼻を鳴らした。
「焼け」
ただ一言。
その命令だけだった。
「ウオオオオオ!!」
騎兵たちが一斉に村へ突入する。
矢が雨のように降り注いだ。
逃げ惑う農民が次々に倒れる。
家々に松明が投げ込まれた。
乾いた木造の家は瞬く間に炎に包まれる。
「助けてくれ!」
「子供がまだ中に!」
「いやあああ!」
女たちの悲鳴。
泣き叫ぶ子供。
牛や羊は恐怖に狂い、柵を壊して逃げ回る。
それを騎兵たちは笑いながら追い立てた。
「逃がすな!」
「全部いただくぞ!」
「酒だ!」
「女もいるぞ!」
炎は村全体に広がり、黒煙が空を覆った。
アテイラは燃え盛る村を眺めながら不満そうに呟く。
「狭いな」
「こんな土地では十万の民は養えぬ」
「もっと南だ」
その横で軍師オルフェンスが静かに答えた。
「陛下、略奪だけならば十分な戦果です。」
「グラン王国は内乱を終えたばかり。」
「まだ傷は癒えておりません。」
「王都まで兵を出す余裕はありますまい。」
アテイラは笑った。
「だからこそだ。」
「弱った獣ほど肉は柔らかい。」
「神は我らに狩りを許した。」
「ならば遠慮はいらぬ。」
彼は槍を南へ向けた。
「進め。」
「ガラリアを灰に変える。」
「男は殺せ。」
「家畜と食糧は奪え。」
「若い者は連れて行け。」
「我らヴァルケンの民とするのだ。」
「略奪こそ草原の掟!」
「トールの子らよ!」
「雷のように駆けよ!」
「ウオオオオオオ!!」
数万の騎兵が鬨の声を上げた。
そして黒い奔流は次の村へ向かう。
燃え上がる家。
崩れ落ちる神殿。
逃げ惑う人々。
ガラリア地方は三日で地獄と化した。
次々と届く急報。
「北部の村が消滅!」
「避難民が押し寄せています!」
「敵は止まりません!」
「国境守備隊が壊滅しました!」
その報告は、遠くグラン王国の王都へと届けられる。
若き王ライナーのもとへ。
そして、誰もまだ知らなかった。
これは始まりに過ぎないことを。
草原の王アテイラは、
グラン王国そのものを獲物として見定めていたのである。
王都の執務室に、重苦しい空気が流れていた。
「申し上げます!」
伝令が息を切らしながら飛び込んでくる。
「ヴァルケン国王アテイラ、ガラリア地方に侵攻!」
「国境守備隊は壊滅!」
「各地で略奪が行われております!」
「避難民が南下を始めました!」
部屋にいた諸官たちがどよめいた。
「なんだと!」
「内乱が終わったばかりというのに!」
「なぜ今なのだ!」
ライナー王は静かに地図を見つめた。
北。
ガラリア地方。
赤い駒が次々と置かれていく。
燃えた村。
失われた砦。
逃げる民。
そして、敵は止まらない。
「兵力は?」
「正確には不明ですが、数万の騎兵とのこと」
「王アテイラ自ら率いております」
ライナーは目を閉じた。
最悪だった。
内乱の傷はまだ癒えていない。
南ではイージプ国境に大軍を配置したまま。
アントンもまた南方に陣取り、独自の勢力を築いている。
そして。
「スピリタスは?」
ライナーの問いに、伝令は答えた。
「アントン軍の監視を続けております」
「動かせば、南方の均衡が崩れるかと」
沈黙が流れた。
スピリタス。
王国最高の軍略家。
しかし、その彼を北へ呼び戻せば。
アントンが何をするか分からない。
ライナーは小さくため息をついた。
「……そうか」
「ならば」
「この戦いは私がやる」
その言葉に周囲は驚いた。
「陛下!?」
「しかし!」
「北方に送れる軍はわずかです!」
「相手はアテイラですぞ!」
すると、後ろに控えていた男が一歩前に出た。
アグリ。
ジュリアスがライナーに残した軍事顧問。
幼い頃から共に育った親友だった。
「十分です」
低い声だった。
「アテイラは勝ちに来たのではありません」
「略奪に来たのです」
「現地兵で戦いましょう」
ライナーは親友の顔を見た。
「勝てるか?」
アグリは即答した。
「勝てます」
「いや」
「勝たねばなりません」
「ジュリアス様が守り続けた王国です」
「異民族の馬に踏みにじらせるわけにはいきません」
ライナーは笑った。
「そうだったな」
「ジュリアスなら何と言う?」
アグリも少し笑った。
「きっとこう言います」
『考えろ』
『敵が神の子なら、人は知恵で戦え』
『神託などなくても、人は勝てる』
ライナーは立ち上がった。
若き王の瞳に迷いはなかった。
「伝令!」
「各地の守備兵を招集!」
「退役兵にも声をかけろ!」
「北方諸都市へ使者を送れ!」
「ガラリアを見捨てはしない!」
「そして――」
ライナーは隣に立つアグリを見た。
「頼むぞ」
アグリは深く頭を下げた。
「お任せください」
「必ずや、草原の王を止めてみせます」
その時。
遠く北の空では、黒煙が立ち上っていた。
アテイラは知らない。
内乱で疲弊した人の国に。
まだ一人。
ジュリアスの教えを受け継ぐ男が残されていたことを。
そして。
グラン王国の若き王ライナーが、
初めて自ら戦場へ向かおうとしていることを。
柊遊馬
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#戦争
コメント
1件
読んだよ〜!第17話「アテイラ侵攻」、胸が締めつけられる回だった😭💔 冒頭の平和なガラリアが一瞬で地獄に変わるところ、アテイラの「焼け」の一言の冷たさに鳥肌立ったよ…。でもその後のライナー王の「ガラリアを見捨てはしない」って決意にめっちゃ熱くなった🔥🔥 アグリとの絆もエモすぎるし、ジュリアスの教えが生きてる感じがしてグッと来た!草原の王vs知恵の若き王、どうなるの〜!?次回が待ちきれないよ🌸✨