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「ああ…………豪ね……」
純が後頭部に手をやり、言いにくそうに軽く掻くと、優子と向き合い、視線をかち合わせた。
「昨年の十月に、付き合ってた彼女…………まぁ、俺の部下でもあるんだけど、彼女と結婚したよ」
元彼の親友の言葉に、優子の胸の奥がズキンと痛む。
純の言っている『彼女』は、一昨年の夏季休暇初日、豪と会った時にメッセージを送っていた彼女の事だろう。
(そっか…………。あの彼女と…………結婚した……んだ……)
「豪たちに頼まれて、俺、彼女とバージンロードを歩いたんだけどさ、二人とも、すげぇいい表情だったし、結婚後もヤツは、奥さんを溺愛してるよ」
純は、豪から優子の奇行を全て知らされているのか、躊躇いがちな表情で彼女を見やっている。
「…………だからさ、優ちゃん。もう豪の事は諦めな。アイツの溺愛ぶり、ホントにヤバいし、奥さん以外、目に入らないよ」
「豪は…………彼女と……幸せに暮らしているんだね……」
純から視線を外し、優子は深々とため息をついた。
彼女が公園の入り口へ向くと、若い女性が困惑気味の面差しで、恐る恐る近付いてきた。
純が女性に気付くと、彼は目を細めながら歩み寄っていく。
「恵菜……!」
恵菜と呼ばれた女性が、眉根を寄せながら頬を膨らましている。
「純さん…………まさか……浮気していたとか?」
異国情緒溢れる顔立ちの女性は、純を見上げながら軽く睨んだ。
「違う! 恵菜。勘違いすんなよ?」
恵菜という女性は、純の彼女なのだろう。
彼は小さな手を取り、ギュッと握ると、指を絡めて恋人繋ぎにした。
「彼女さん、ごめんね。私、谷岡クンの知り合いってだけだから。谷岡クンも、彼女と幸せそうで何よりだよ」
二人のやり取りを見た優子が、微苦笑しながら慌てて仲裁に入る。
「ああ。彼女は俺の恋人、相沢 恵菜さん。俺たちも近々結婚するんだ」
純の結婚宣言に、優子はクッキリとした二重の目を丸くさせた。