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(豪の結婚にも驚いたけど…………谷岡クンも……結婚……か……)
恵菜の左手の薬指には、ダイヤモンドが一周埋め込まれているエタニティリングが、誇らしげに輝いている。
笑顔を作って見せるも、優子の心には暗い影が落ちていった。
刑務所でお勤めしている間、元恋人を始め、その友人も幸せを手にして、家庭を築こうとしている。
自分だけが取り残されていき、優子は虚しさで視界が滲んでいくのを感じていた。
「じゃあ、俺たち、そろそろ行くよ。優ちゃんも元気で」
「谷岡クン、彼女さん、おめでとう! おっ…………お二人とも、いつまでも仲良くね!」
居た堪れなくなった優子は、二人が立ち去る前に、そそくさと公園を後にした。
「はぁ……」
モノレールの線路の下を歩きながら、優子は、諦めにも似た吐息をつくと、重い足取りで立川駅へ向かった。
(私の人生、どう足掻いても、終わったじゃん……)
駅周辺をフラフラと、なおも彷徨っていると、彼女は通り沿いにあるドラッグストアへ入っていく。
そういえば、メイク用品がファンデーションとアイブロウ、口紅しかないのを思い出し、優子は、プチプライスのメイクコーナーの前に立った。
ブラウン系のチークを手に取り、虚な瞳の色で値段を確認する。
(もう、どうでもいいや、私の人生……)
値段は千円ちょっとだけど、優子は周囲を素早く見回すと、掌で軽く握り、外へ向かった。
店を出る直前。
背後からいきなり手首を強く掴まれる。
(や……ヤバい……。保安員に捕まった……?)
優子は、辿々しく後ろを振り返ると、黒いスーツをノーネクタイで纏った背の高い男が、無表情で彼女を射抜いている。
アップバングにした黒髪は、少し長めでクセがあり、吊り上がり気味で奥二重の涼しげな瞳は、爽やかさと色香が同居しているイケメン。
けれど男は、次第に眉根を寄せ、眼光鋭い眼差しを優子に送っている。
彼女の鼓動はドクドクと慌ただしく打ち鳴らされ、怯みそうになった。
「…………お前、俺が後で買ってやるって言っただろ?」
(は? っていうか、誰? この男……)
鷹のような目つきから一転、目を細めながら彼女を店内に連れ戻す男。
優子は足を縺れさせそうになりながら、男の手に引っ張られた。