先程まで席に座っていた亜季ちゃんは、スクリーンの前まで歩いて来ると葵に向かってそう言った。
「葵ちゃん、ダメだよ! これは2人だけのひみっ‥」
「もういいよ。これ以上、嘘を重ねたら後戻り出来なくなっちゃうよ」
亜季ちゃんの訳のわからない発言に再び会場がザワつき始めた。
「葵ちゃん…わたっ‥」
「ちょ‥ちょっと待って。このままだと、招待客の人達に話を…」
すると遥香は葵の言葉を慌てて遮った。
「んんんんんっ…」
遥香は目を閉じると胸の前で手と手を重ね合わせて力を込め始めた。
すると…もの凄いエネルギーが遥香を包み込んでいるのがわかった。
すごい…‥
これが能力者をも超越する特殊能力者の力なのか…
ドンッ!?
次の瞬間…遥香はエネルギーを一気に開放した。
明らかに僕らを取り囲む空気が変わるのを感じた。
はっ!?
気付くと、僕の目の前に遥香がいた。
「遥香…今何を?」
「この会場の中だけ、時間の流れを止めたの。私が触れた人だけ時間が流れてる」
辺りを見回すと僕と美咲さん、亜季ちゃん、茉奈ちゃん以外の人間は本当に時間が止まっているらしく身動き1つしないで固まっていた。
「亜季ちゃんは、紺野さんの事を好きで好きで仕方なかったんだよね。
それに亜季ちゃんは両想いな事もわかってた。
それでも未来を守る為に自分の気持ちを押し殺してジッと我慢してくれてた。
そして、未来を変えてしまわないように紺野さんと私の前からいなくなるという選択をした…。
亜季ちゃん…私も紺野さんの事好きだったよ。
でも、同じくらい亜季ちゃんの事も大好きだったの。
そんな大好きな2人が両想いなのに引き離す訳にはいかないでしょ。
だから、私が導き出した答えは私が佐藤亜季として生き、亜季ちゃんが佐藤葵として生きるという事だった…。
これしかなかった。
未来を守る為には…。
だから私は、亜季ちゃんが外国に出発する3日前に亜季ちゃんに手紙を残し、佐藤亜季として外国に旅立った。
でもまさか…佐藤葵として生きている亜季ちゃんがこの世界から消滅してしまうなんて思いもよらなかった。
そんな未来、私には見えなかった。
見えていたらこんな事しなかった。
私の身代わりになんてさせなかった…
亜季ちゃん…本当にごめんなさい」
「葵ちゃん…私、後悔してないから。一生分の幸せを瑛太と遥香からイッパイ、イッパイもらったから全然後悔してないよ。だから、自分を責めないで。お願い…‥」
亜季ちゃんだと思っていた本当の葵はその場にひざまづき、しゃくりあげて泣いていた。
そんな葵を美咲さんが、後ろから優しく抱きしめてくれていた。
「葵ちゃん、私達が見た未来の佐藤葵は私だったんだよ。
葵ちゃんの身代わりじゃなくて、もともと佐藤葵を演じた私が消える運命だったの。
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