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太陽が昇るのと同時刻に目を覚ましたグウェンダルは、ベッドから抜け出すと旅支度を整えていく。
汚してしまったシーツやらは昨日のうちに剥ぎ取り、部屋の隅に畳んで置いてあった。
そこにチップとして金貨を添えておく。
朝も早いうちから受付に下りていき店主を呼ぶと、グウェンダルは適当に服をくれないかと願い出た。
近衛騎士の制服は目立つため着ていけない。それにメリーティアの新しい服も必要だった。
金貨を差し出すと、店主はすぐに奥の部屋から服を持ってくる。
夫婦で経営している宿屋のようで、一階の食堂スペースの奥にあるキッチンで宿泊客に振る舞う朝食の準備をしていた店主の妻が快くワンピースをくれた。
サイズの問題があったが、店主が横に大柄だったためなんとかグウェンダルでも着られそうだ。
ズボンは制服のままでもそれほど目立つデザインではないため、シャツだけを貰っていく。
ワンピースを持って部屋に戻ると、メリーティアはまだ眠っていた。
昨日は疲れさせてしまったから寝かせておいてあげたいが、ここはまだ帝都に近い。
ユージーンのことは信頼しているとはいえ、グウェンダルとメリーティア双方の顔を知っている誰かが目撃情報を挙げれば、捜索隊を派遣せざるを得なくなるだろう。
なるべく早いうちに帝都から遠く離れたほうがいい。
仕方なくメリーティアを揺さぶるが、少しも目を覚ます気配がなかった。
よほど疲れているのか、息をしているか心配になるほど静かに眠っている。
声をかけてみても、大きく身体を揺すってみても、一向に起きない。
やがてグウェンダルは、さすがに様子がおかしいことに気がついた。
「メリーティア? メリーティア! 起きてくれ!」
どれだけ大きい声で呼んでも、瞼をぴくりと動かすこともない。
最悪の想像をして咄嗟に胸に耳を当てたグウェンダルは、そこがたしかに鼓動を刻んでいることを確かめるとほっと胸を撫で下ろした。
しかし状況は何も変わらない。
生きてはいるけれど、死んでいるかのようだ。
もしかして毒の後遺症だろうか。
だが今になってこのような症状が表れるとは考えづらい。
それともやはり深く寝入ってしまっているだけだろうか。
グウェンダルはぐるぐると悪いほうに傾いていく思考をなんとか立て直し、ひとまずメリーティアにワンピースを着せた。
ここへ来たときのようにマントを巻きつけて、抱いたまま一階へ下りる。
店主の妻に朝食だと言って籠ごと差し出されたサンドイッチを有難く受け取り、宿を出た。
厩舎に繋げておいた馬に乗り、人通りの少ない道を選んで進んでいく。
次の休憩場所に着く頃にはメリーティアも目を覚ましているだろう。
一時間ほど馬を走らせて、木陰でひと休みする時間を設けた。
ずっとマントに包んだままだったから、メリーティアが起きているかどうかわからない。
ここまでの間、身じろぎする様子も声を上げることもなかったから、まだ眠っている可能性が高かった。
言葉にならないような不安感を胸に抱いたまま、グウェンダルはマントを剥ぐ。
メリーティアは目を開けていた。
「起きていたのか、メリーティア! よかっ……」
グウェンダルは言い終わらないうちに顔を強張らせ、ぴしりと硬直した。
メリーティアの目は開いていたが、虚空を見ているようだった。
グウェンダルが目の前で手を振っても、パチンと手を叩いてみても、何の反応も得られない。
ぼんやりとして光のない瞳には何の感情も浮かんでおらず、まるで心がそこにないみたいだ。
そう感じた瞬間、グウェンダルの背筋を言い知れぬ恐怖が走り抜ける。
まだ起きたばかりでぼーっとしているだけだ、と自分に強く言い聞かせた。
サンドイッチを彼女の口元に持っていっても食べる気配は皆無で、一口に千切って口内に入れても咀嚼すらしない。
仕方なく水だけを無理やり飲ませ、グウェンダルはまた馬を走らせた。
次の休憩場所に着く頃には目を覚ましているはずだ。
――昼食の頃には
――宿に到着する時間には
――明日になったら
結局、どれだけ時間が経とうとメリーティアが目覚めることはなかった。