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椅子に腰を下ろすなり、少女は机の木目をじっと見つめていた。やがて小さな声で言う。
「……生きてる意味が、わからないんです。
朝起きて学校行って、勉強して、帰って寝て。
それの繰り返しで……これを続ける意味が、あるのかなって」
蓮司はペンを指の間で回しながら、目だけを少女に向けた。
「へぇ、壮大なテーマだな。
“生きる意味”を俺の相談室で聞くとは、大胆なやつだ」
少女は苦笑いすらできず、ただ肩を落とす。
「……笑い事じゃないんです」
「わかってる。笑ってないさ」
蓮司はひょいと肩をすくめ、飄々とした口調で続けた。
「結論から言うと――“生きる意味”なんて、最初から用意されてない」
少女は顔を上げる。
「……ない、んですか?」
「ああ。誰にだって生まれた瞬間に“お前はこう生きろ”なんてマニュアルは配られない。
意味ってのは、後から勝手に見つけるもんだ」
「……でも、私には何もなくて」
蓮司は机に肘をつき、にやっと笑った。
「じゃあラッキーじゃん。白紙のキャンバスだ。
そこに何を描くかは、まだ自由に残されてるってことだろ」
少女は少し目を見開き、すぐにうつむいた。
「……でも、私が描けるものなんて……」
「小さいものでいいんだよ」
蓮司は軽い調子で言った。
「好きなアイスを食べたいから生きる、でもいい。
推しの新曲を聴きたいから生きる、でもいい。
“今日をちょっと過ごしたい理由”を集めてくのが、生きる意味の始まりなんだ」
少女はしばらく黙り込み、やがて小さく笑った。
「……そんな小さなことで、いいんですか?」
「むしろ小さいほうが強い。大きな夢は折れることもあるけど、
“アイス食べたい”とか“マンガの続きが気になる”は、案外人を生かす力になる」
蓮司はペンを止め、少し真剣な声で続けた。
「生きる意味は、死ぬ直前に『あ、これだったのか』って気づくやつだ。
今の段階で完璧な答えを出そうとするのが、無茶なんだよ」
少女はゆっくりと顔を上げ、肩の力を抜いた。
「……探していけばいいんですね。小さな理由を」
「そうそう。意味は後から勝手についてくる。
だから今は、“今日を生きる口実”をひとつ拾ってりゃ十分だ」
蓮司はペンをくるりと回し、飄々と笑った。
「で、今日の口実は何にする? 俺としては……帰りにコンビニ寄って、新作アイス食べるのをおすすめする」
少女は思わず吹き出した。
「……なんか、少し気が楽になりました」
「だろ? 生きる意味なんて重く考えるな。
生きる口実を重ねていけば、いつか勝手に“意味”になってる。
それで十分だ」