あんな出来事があった次の日だからか畑葉さん、学校に来ないだろうな。
そんなことを思いながら自身の教室へ向かう。
と、僕の隣の席には畑葉さんが座っていた。
「おはよ」
僕が何気なく挨拶したが、
目も合わせずただ僕の声を流すだけだった。
「今日は何する?」
「桜でも見て雑談でもする?」
僕が負けじと話題を振り続けたのにも関わらず、畑葉さんは
「彼女以外の女の子と話したらダメだよ」
と言うだけ。
この前まではこんな言葉、
なんてこと無かったのに今ではとても傷つく言葉に変わっていた。
やっぱり誤解は早めに解かないと…
そう思い、
僕は意を決して、
断られるかもしれないと思いながらもこんな提案をする。
「今日、時間ある?」
「あるなら旧校舎前に来て」
と。
だけど畑葉さんは何も言わなかった。
そして、この言葉を聞いていたのは畑葉さんだけではなかったということに僕はこのとき気づいていなかった。
授業の合間である休み時間に畑葉さんは財布を持って1階へ向かった。
多分、飲み物かなんかを買うんだと思う。
そんな時、海琴が僕に近づいてきた。
「なに?」
と聞けば
「話したいことあって…今日の放課後に旧校舎前に来て欲しい」
と意味深な提案。
明らかに先程の会話を聞いていたような発言。
僕と畑葉さんの関係を邪魔でもしたいのだろうか。
そんなことを思いながらも『畑葉さんが来る前に終わらせちゃえばいい』と悪魔の囁きが頭に響く。
そして僕は
「分かった」
なんて言ってしまった。
放課後になって僕は旧校舎前に行った。
そして見えてきたのは海琴の姿。
「あ、古佐くん!!」
そう言いながら僕の元に駆け寄ってくる。
いつもと何やら雰囲気が違う。
何が違うって言われたら分からないが。
僕が来たのとほぼ同時に、
後ろから畑葉さんの声が聞こえた。
思ったより早く来ていたようだった。
「古佐くん?話って──」
「…見せつけたかっただけ?古佐くんって思ってたより悪い人なんだね」
そう言った後、
畑葉さんはどこかへと行ってしまった。
また誤解させてしまった。
そう思い、僕は畑葉さんを追いかけた。
が、海琴に腕を引っ張られる。
「待って!!まだ話してない…」
そんな言葉に僕は何故かイラッとして
「じゃあ早く言って!」
と自分が思っているよりも大きな声が出てしまう。
「私…古佐くんのことが好き……」
「だから───」
『付き合って』続きはそんな言葉が出てくるだろう。
と思いながらも僕はその声に上乗せて
「ごめん、」
とだけ短く言う。
「そ…っか……」
「そうだよね…」
「古佐くんは畑葉さんが好きなんだもんね…」
「分かった…」
と少し俯きながらそう言う。
『傷つけてしまった』そう思ったが、
結局はどちらか片方を傷つけなければ未来は変わらなかったのかもしれない。
海琴には申し訳ないことしたな。
そんなことを思いながらも僕は畑葉さんの居場所を探す。
海琴に背を向けた後、
少し後ろを振り返ったが、
海琴は泣き崩れているようだった。
「ごめん海琴…」
そう呟きながらも、
きっと海琴は不器用なだけだったのかもしれない。
と考える。
その時、空き教室に居る畑葉さんの姿が見えた。
「畑葉さん!!」
そう叫んで入った教室は黒板に桜の木の絵が描かれていた。
多分、去年の入学式に描かれたものが残っていたのだろう。
「畑葉さん…」
名前を呼ぶも、
畑葉さんは窓の方を見ているばかり。
無視されるのがとても辛い。
だけど僕はそれよりも畑葉さんに辛い思いをさせてしまったのかもしれない。
「…海琴と僕は恋人同士じゃない」
「僕と海琴は小中が同じ学校で、あんまり仲良くもないし…」
そう真実を伝えるも
「でもさっき羽乃さんと話してたじゃん」
「告白されてたんじゃないの?」
と質問が返ってくるだけだった。
「古佐くんのことだからOKしたんでしょ?」
「断ったよ」
「え?」
「断った」
「なんで?」
「僕は畑葉さんが好きだから…」
そう僕が呟くように言ったと同時に畑葉さんは振り返った。
大粒の涙が頬を伝っていて、
でも何故か美しく見えて。
「…私を好きになっちゃダメだよ古佐くん」
なぜだろうか。
僕の告白が届かなかったとか?
「絶対にダメだからね」
「さっ、今日は帰ろっか」
いつものように『帰ろうか』なんて提案をしないで。
なんでこんなにも平然としているのだろうか。
昨日はどうやって畑葉さんと別れたか覚えていない。
気づいたら家の前に居て、
気づいたら次の日だった。
しかも
「おはよ〜!!」
って畑葉さんは普通に挨拶してくるし。
あんな出来事があったのにも関わらず、
なんで何事も無かったかのように振る舞えるのだろうか。
海琴はというと、
目に見えるほどに落ち込んでいる。
あの時、冗談でも『虐めるよ』なんて言葉、
言わないで欲しかったな。
そう思いながらも
「あ、今日この前の約束実行する?」
と提案する。
「いいの?!」
「うん」
「やったー!!」
珍しく畑葉さんは声を上げて喜ぶ。
それほど嬉しかったのだろうか。
放課後になり、
畑葉さんは僕の手を握って『行こ!!』なんて言ってくる。
けど、僕にはもう1つやりたいことが残っている。
「先行ってて」
「すぐ行くから」
そう言って僕は購買へと向かう。
購買のおばちゃんは大人気だ。
もちろん話しかけやすいことや仲良くなりやすいことで有名なのだが、
もう1つ人気な理由がある。
それは、欲しい食べ物・飲み物を頼めば購買で売ってくれるようになるということ。
そう。
僕は購買で桜餅を売るよう頼むつもりだ。
「あら、団子くん」
僕は何故か購買のおばちゃんに『団子くん』と呼ばれている。
多分、
一時期、
団子ばかり買っていたからだろう。
「桜餅って売るようにできる?」
そう提案すると
「次は団子から桜餅の気分なの?」
と質問で返される。
「いや、僕の友達が桜餅好きだから…」
「あらまぁ…青春ね…?」
「いいわよ、明日から仕入れてあげる!」
『よし』と心の中でガッツポーズしながら、
僕は購買のおばちゃんと別れた。
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