TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

11月の下旬のある日、瑠璃子はマンションの前で大輔の車を待っていた。

今日は札幌にある瑠璃子の祖母の墓まで大輔が連れて行ってくれる事になっていた。


あれから瑠璃子の心には中沢の事が重くのしかかっていたが瑠璃子にとってはもう過去の事だ。

だからもう考えないようにして日々の生活に集中している。


最近の岩見沢は雪がちらつく日が増え今日も小さな雪が舞っている。

この日瑠璃子はブラウンチェックのフレアスカートにオフホワイトのタートルネックのニット、それに黒のブーツを履きダウンを着ていた。ダウンは必須だ。

そして墓に供える花も用意していた。


その時大輔の車が到着した。

瑠璃子が助手席に乗り込むと大輔はジーンズにダークグレーのタートルネックのセーターを着ていた。


「今日はよろしくお願いします」

「うん。今日はだいぶ冷え込むね」

「はい、でも本格的な冬はもっと寒いんでしょう?」


北海道の本格的な冬を知らない瑠璃子が質問をすると大輔はこう答えた。


「真冬は息をすると肺が痛くなるよ」

「ひゃあーーー」


瑠璃子は驚いて叫ぶ。想像を絶する寒さのようだ。


車は高速へ入りスピードを上げて走り始めた。

車内ではいつも食堂で話しているように会話が弾んだ。病院内の事をあれこれ話しているとあっという間に札幌へ着いた。


札幌インターで高速を降りると一般道を走り始める。そして豊平川の橋を渡る。

しばらく進むと車は札幌市内の賑やかな地域へ差し掛かった。


「この先の右手に時計台があるよ」


大輔は瑠璃子が見易いように時計台の前でスピードを落としてくれる。


「私時計台初めて見ました! なんか思っていたよりもちっちゃく感じる―」


瑠璃子は興奮気味に言った。

そしてしばらく走るとまた大輔が言った。


「この左側が有名なすすきので、そこを左折したらすぐに大通公園が見えるよ」


瑠璃子が言われた方向を見るとそこにはテレビによく映る街路樹が並んだ大通公園が見えた。


「ここって雪まつりの会場ですよね?」

「そう。もう少ししたらクリスマスイルミネーションで綺麗だよ。北海道にいるなら一度は見ておいた方がいい」

「へぇ……」


その時瑠璃子は中沢と付き合っていた頃のクリスマスを思い出していた。

思えば中沢とイルミネーションを見に行った記憶は瑠璃子にはない。


クリスマス時期、医療関係者は一番の繁忙期だ。そしてクリスマス休暇は子供がいる家庭が優先になる。

たまたま二人一緒に休みが取れても中沢が瑠璃子を連れて人混みに行く事は一度もなかった。

中沢は付き合い始めた当初から人混みが苦手だとずっと言っていたので瑠璃子は行きたいとは言い出せなかった。

今思えば本命じゃない瑠璃子と外出して誰かに見られたら困るからだろう。今ではそう思っている。

瑠璃子が感傷的な思いに浸っていると突然目の前に市電が現われる。


「これが札幌の市電ですか?」

「そうだよ」


先ほどまでの憂鬱な思いは消え失せ、瑠璃子は道路の上を走る市電を珍しそうに見つめた。


繁華街を抜けてしばらくすると、車は瑠璃子の祖母が眠る墓地へ着いた。

祖母の事を知らない大輔に一緒に墓までついて来てもらうのはさすがに気が引けたので、瑠璃子は一人で行くと来ると告げる。すると大輔が言った。


「せっかくだから僕もお参りさせてもらうよ」


瑠璃子は申し訳ない気持ちのまま大輔と墓地の中を歩いて行った。


墓地内の案内板を辿り漸く祖父と祖母が眠る墓を見つける。墓は掃除の必要がないくらい綺麗だった。

きっと伯父夫婦がきちんと管理してくれているのだろう。

瑠璃子は花と線香を墓前に供える。そして手を合わせてお参りをした。

瑠璃子の一歩後ろにいた大輔も瑠璃子と一緒に手を合わせてくれた。


(おばあちゃんただいま。来るのが遅くなってごめんね。今ね、私岩見沢にいるんだよ。優しい人達に囲まれて毎日楽しくやっているから心配しないでね)


瑠璃子は大好きだった祖母にそう語りかけた。


車へ戻る途中瑠璃子は一緒にお参りをしてくれた大輔に礼を言った。

そして車へ戻ると大輔が言った。


「じゃあ申し訳ないけど僕の用事にも付き合ってもらっていいかな?」

「もちろん! でも用事ってどんな用事なのですか?」

「知り合いの建築事務所へ行ってガレージの増設工事を頼みたいんだ」


そこで瑠璃子はピンときた。おそらくその建築事務所は以前百合子が言っていた大輔の同級生がやっている事務所だろう。


建築事務所までは15分程で着いた。

事務所の駐車場に車を停めると瑠璃子は気を遣ってこう言った。


「私は車で待っていますのでどうぞごゆっくり」

「いや、寒いから一緒においで。同級生の事務所だし気を遣わなくても大丈夫だから」

「でも……」


単なる同僚なのに何か勘違いされても申し訳ないと思いつつ、大輔がドアを開けて待っているので瑠璃子は仕方なく車を降りた。


建築事務所は真新しいビルの2階にあった。

事務所に入ると室内の壁はコンクリート打ちっぱなしのモダンな雰囲気だ。

部屋の中心には大きな天然木の一枚板の細長いテーブルがいくつも置かれ、その上で社員達が各々パソコンに向かっている。

天井は吹き抜けでむき出しの配管がなんともいえずお洒落だ。

壁一面にある木製の収納棚には本やファイルが整然と並び、少し低い棚の上にはアート作品のような美しい建築模型が並んでいた。


二人が事務所へ入ると奥から大輔と同年代の男性が笑顔を浮かべて歩いて来た。


「よう大輔、久しぶりだな」

「ガレージの件、またよろしく頼むよ」


そこで大輔は瑠璃子に言った。


「こちらは藤井卓也(ふじいたくや)君。この事務所の社長で僕の同級生なんだ」


そして今度は藤井に瑠璃子を紹介する。


「こちらは僕の同僚の村瀬瑠璃子さん」


「初めまして、村瀬と申します」

「初めまして藤井です。今日はようこそ!」


藤井は満面の笑みを浮かべながら瑠璃子に名刺を渡す。

そこで大輔が言った。


「彼女はモダン建築に興味があるみたいだから用事ついでに一緒に連れて来たんだ」

「へぇ、そうなんだ。あ、どうぞこちらへ」


二人がソファーに座ると若い男性スタッフがコーヒーを持ってきてくれる。

その時瑠璃子は壁に掛かっている教会の写真に気付いた。


「あれは軽井沢のアントニン・レーモンドの教会ですか?」

「ご存知ですか?」


瑠璃子が頷くと藤井は続けた。


「彼は僕が最も尊敬している建築家なんですよ」


その写真の教会を瑠璃子が知っている事に驚いた大輔が聞く。


「軽井沢の教会には行った事があるの?」

「はい。20代前半に軽井沢まで行って見て来ました」

「そっか、一人旅でよく見に行ったって言ってたね」

「はい」


そんな二人のやり取りを微笑んで聞いている藤井に、大輔は瑠璃子が建築物を見て歩くのが好きだと説明した。

それを聞いた藤井はこう言った。


「札幌にもレーモンドが設計した教会があるってご存知ですか?」

「え? そうなんですか? 知りませんでした」

「良かったら今日帰りに大輔に連れて行ってもらうといい。素敵な教会なので」

「はい……」


その後大輔と藤井の打ち合わせが始まったので、瑠璃子は藤井が気を利かせて持って来てくれたモダン建築の本に目を通す。


一時間後打ち合わせは終わった。二人が出口へ向かうと藤井が瑠璃子に言った。


「また大輔と札幌に来た際は是非寄って下さいね。その時はお食事でもご一緒しましょう」

「ありがとうございます」

「じゃあよろしく頼んだよ」

「了解」


そして二人は事務所を後にした。

車に戻り助手席に座った瑠璃子がすぐに聞く。


「ご自宅のガレージを直すのですか?」

「うん。ガレージがもう少し広いと色々と便利かなーって思ってね。でももうすぐ雪が来ちゃうから工事は多分来春かなぁ?」


大輔はそう答えると車のエンジンをかけた。

ラベンダーの丘で逢いましょう

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

671

コメント

9

ユーザー

仁さんと綾子さんの....あの教会ですね⛪️✨ 瑠璃ちゃんも、いつか 大輔先生と一緒に 観に行ける日がきますように....🚙♥️

ユーザー

皆さんと同じ、レーモンドの教会と言えばー、、、 ですね(๑´ლ`๑)♡🪶👼💒👼🪶

ユーザー

仁さん綾子さん~ みんなの心にしっかりと根付いてますよ~(*^^*)︎💕 ガレージは 瑠璃子ちゃんが来ても良いように(≧∇≦)bだよね? 色々便利よ(*´︶`*)ノ︎💕 泊まったりしても雪かき要らずさ♡ 泊まったり泊まったり泊まったり❤🤭

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚