TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

ちょうどお昼時になり大輔がお昼を食べに行こうと言ったので二人は移動した。

移動の最中瑠璃子は窓から見える札幌の街並みを楽しそうに眺めていた。


「北海道に来てからスープカレーは食べた?」

「はい。岩見沢の県道沿いにあるお店で…ログハウス造りの店です」

「ああ、あそこか。あそこも美味しいけれど本場はやっぱり札幌だよ」


大輔は北海道大学の近くにあるおすすめのスープカレーの店へ瑠璃子を連れて行ってくれた。

その店のスープカレーは大きなチキンレッグとジャガイモ、それにかぼちゃとにんじん、そしてレンコンやごぼうまで入っている野菜たっぷりのスープカレーだった。

野菜がゴロゴロと大きいので見た感じは無骨だが、味は芳醇な香りのスパイスが効いた深みのあるカレーだった。

瑠璃子はその美味しさに感激していた。そしてあまりの美味しさにペロッと平らげる。


そして食事を終えて食後のコーヒーを飲んでいる時に大輔が言った。


「卓也が言ってたアントニン・レーモンドの教会が近くにあるけど行ってみる?」

「行きたいですっ!」


教会は『札幌聖ミカエル教会』と言い、この店からは歩いて数分の場所にある。

二人は店を出ると早速教会へ向かった。


教会へ着くと瑠璃子が感嘆の声を上げる。


「うわぁ素敵ー!」


目の前に佇んでいる歴史を感じさせる教会は北海道産の木材と赤レンガを使って建てられていた。

かなり長い年月を経ているのによく手入れされ昔のままの美しい状態が保たれている。

特徴的なのはステンドグラスに和紙が貼られている事だ。ステンドグラスに和紙を使うのは珍しい。


「夜、教会の中の明かりがついたら和紙から光が漏れてもっと素敵でしょうね」


瑠璃子はその様子をうっとりと想像しながら教会の外観を写真に撮り始めた。

入口に『ご自由にご見学下さい』という張り紙を見つけた大輔は瑠璃子に言った。


「中に入って見学出来るみたいだよ」

「本当ですか? 入ってみたいです」


二人は教会の中へ入ってみる。


教会の内部も木材と赤レンガで造られていた。木材は枝や節など自然の風合いを残したままの状態で使われている。

その使い込まれた古い柱や壁がこの教会の長い歴史を感じさせる。


その時奥の扉から60代くらいの女性が出て来た。教会の関係者だろう。

女性は大輔と瑠璃子を見ると微笑みながら言った。


「ようこそ! この教会では結婚式も執り行えますので是非どうぞ」


女性は二人に向かって結婚式の案内のチラシを差し出す。


女性は二人の事を恋人同士だと勘違いしたようだ。それに気付いた瑠璃子は頬を染める。

しかし大輔は落ち着いた様子でチラシを受け取ると女性に向かって「ありがとうございます」と会釈をした。


教会の見学を終えた二人は車に戻った。

時刻は午後3時を過ぎていたのでだいぶ気温が下がっている。

明日は二人とも朝から仕事なのでそろそろ岩見沢に戻る事にした。


帰りは高速には入らずに一般道をのんびりと走る事にした。

国道12号線を走っていると左手に函館本線の線路が見えた。線路には時折特急列車が通過していく。

どこまでも続く線路にはところどころに雪避けの防風林が並んでいた。東京ではみる事の出来ない景色だ。


どこまでも真っ直ぐに続く道、そして目の前に広がる青空を遮る物は一切ない。

フロントガラスから見えるダイナミックな風景を目の当たりにした瑠璃子は今自分が北の大地にいるのだと実感する。


「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」

「それは良かった。ところでクリスマスの予定は?」

「……特には……」

「だったら札幌のクリスマスを一緒にどう?」


突然そう言われたので瑠璃子は驚く。

その時瑠璃子は初めて気付いた。クリスマスまであと一ヶ月もない事に。


「えっと……先生は大丈夫なのですか? 折角のクリスマスなのに…」

「僕は特に問題ないよ」

「……それなら」


瑠璃子は承諾する。


「札幌のイルミネーションでも見に行こうか。ただクリスマス当日に休めるかなぁ? 外科のクリスマス休暇は毎年子供がいる既婚者が優先なんだよ」

「私もまだ入ったばかりでどうなるか……」

「まあ当日が無理ならその前後で調整しようか。次のシフトは明日あたりに出るよね? 出たら教えて」

「わかりました」


瑠璃子は少しドキドキしていた。瑠璃子を誘ったという事は大輔にはクリスマスを一緒に過ごす女性がいないという事になる。

その時瑠璃子は大輔の事を一人の男性として意識し始める。


車がマンションの前に着くと瑠璃子はもう一度大輔に礼を言ってから車を降りた。


「じゃあまた明日」


大輔は軽く手を挙げるとその場を後にした。



翌朝、瑠璃子はいつものように仕事を始める。


「ではラウンド行ってきまーす」


同僚に元気よく声をかけると担当の病室を回り始める。

ずっと気になっていた祖母の墓参りに行けたのでなんだか心がすっきりとしていた。

そして大輔との楽しいドライブは瑠璃子に沢山の活力を与えてくれていた。


その日の昼休み、瑠璃子が食堂に行くと大輔はいなかった。

今日は朝から大きな手術があると言っていたのできっとまだ手術中なのだろう。

瑠璃子は大輔がいない食堂に少し淋しさを覚えながら一人静かに弁当を食べた。



そして夕方、勤務を終えた瑠璃子は駐車場へ行く前に売店に寄っていた。急に甘い物が飲みたくなり紙パックのいちご牛乳を買おうと思ったのだ。

瑠璃子が会計をしていると後ろから大輔が入って来た。


「先生、昨日はありがとうございました。もう手術は終わったのですか?」

「うん、さっき終わったよ。腹が減ったからなんか買おうかと思ってさ」


そう言って大輔は売店に残っているパンを選び始める。


「まさかお昼を食べていないの?」

「うん」


大輔はパンを2つ選ぶとレジに置いた。それを見ながら無意識に瑠璃子は呟く。


「医者の不養生……」


そこで売店の正子が大きく頷いて同意する。


「本当だよ先生! 先生はお昼を食べ損なうといっつもパンで済ませるんだから! そんなんじゃいつか身体を壊しちまうよ! なんでもいいから早くいい嫁さんもらいなさいよっ」

「ハハハ、正子さんにはいつも怒られてばっかりだな」


大輔は苦笑いをしながらパンの入った袋を受け取る。二人はまるで親子のようだ。

そんな二人の仲睦まじい様子を見ながら瑠璃子も思わず笑顔になる。


売店を出た二人はホールで別れ、瑠璃子はそのまま駐車場へ向かった。


瑠璃子がドアを開けて運転席へ座った瞬間携帯が鳴った。

誰からだろう? と思いながら瑠璃子が携帯を見ると、そこには『中沢』という文字がくっきりと浮かび上がっていた。


中沢からの着信音を聞きながら瑠璃子はみるみる全身が緊張感に包まれていくのを感じていた。

loading

この作品はいかがでしたか?

540

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚