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アドラル皇国
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#日常
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
2,231
「何事だ!」
バイダルが立ち上がった。
「敵襲です! 北の陣が攻め込まれた模様!」
「慌てるな」
バイダルは吐き捨てるように言った。
「敵はせいぜい千。すぐさま態勢を立て直せ」
「ですが、カダン様の陣から、敗走した兵がこちらへ――」
「入れるな」
「は?」
「そんな逃げ惑う兵など、物の役にも立たぬ」
バイダルは冷たく言い放った。
「殺してしまえ」
伝令の顔が強張った。
「決して、この陣へ逃げ込ませるな」
「し、しかし……味方の兵ですぞ」
「分からぬか!」
バイダルが怒鳴った。
「敵はそれに乗じて、儂の首を狙っておるのじゃ!」
伝令が息を呑む。
「敗兵に紛れて、この本陣へ入り込むつもりだ。分かったら急げ!」
「はっ!」
伝令は駆けていった。
バイダルは舌打ちすると、近習を呼んだ。
「鎧を持て」
「はっ」
近習たちが慌ただしく鎧を運び、バイダルの身体へ着せていく。
胸当てを締める。
肩当てをつける。
最後に剣を腰へ差した。
「まったく……」
バイダルは苛立たしげに息を吐き、椅子へ腰を下ろそうとした。
そのときだった。
視線の先に――
男がいた。
いつからそこにいたのか。
分からない。
天幕の入口でもない。
近習たちの向こう。
本陣の中に、立っていた。
手には、
抜き身の剣。
バイダルの身体が止まった。
男は、じっとこちらを見ていた。
男が、ゆっくりと口を開いた。
「俺を探していたんじゃねえのかい」
バイダルの目が見開かれる。
「……カルドか」
その名を聞いた近習が、ようやく我に返った。
「敵だ! 敵が――」
叫び声とともに、周囲の兵が駆け寄ってくる。
だが。
一本の矢が、先頭の兵の胸を射抜いた。
「ぐっ――」
続けて、二本目。
三本目。
カルドへ近づこうとした兵が、一人、また一人と倒れていく。
バイダルが目を向ける。
カルドの後ろに、一人の男が立っていた。
ロビンだった。
弓を構え、次の矢をつがえている。
カルドは剣を下げたまま、バイダルへ歩み寄った。
「本当はな」
一歩。
「ひざを折って、挨拶する予定だった」
もう一歩。
「一国の王として、礼儀くらいは見せようと思ってたんだが」
カルドは足を止めた。
「やめた」
剣を持ち上げる。
「代わりに――」
その目には、もう笑みはなかった。
「お前らを皆殺しにする」
近習たちが息を呑む。
だが、バイダルは彼らを手で制した。
「下がれ」
「バイダル様!」
「下がれと言っておる」
近習たちを後ろへ退かせると、バイダルは自ら剣を抜いた。
「どうせ兵などおらぬのであろう」
カルドは答えない。
「この騒ぎも、じきに収まる」
バイダルは剣先をカルドへ向けた。
「ならば――」
一歩、前へ出る。
「儂が相手になってやろう」
カルドは、その姿をしばらく見つめた。
そして、剣を構えた。
「そうこなくちゃな」
二人が同時に踏み込んだ。
剣と剣がぶつかる。
甲高い金属音が、天幕の中に響いた。
カルドが横薙ぎに振るう。
バイダルが受ける。
そのまま押し返す。
カルドの身体がよろめいた。
すかさずバイダルの剣が走る。
カルドは紙一重で身体をひねった。
切っ先が頬をかすめる。
血が一筋、頬を伝った。
「遅いな」
バイダルが言った。
カルドは親指で血を拭った。
「歳だからな」
「ならば王宮で震えておればよかったものを」
再び剣がぶつかる。
今度は三度。
四度。
五度。
打ち合うたび、カルドが押される。
バイダルの剣は速かった。
しかも重い。
皇族とはいえ、戦場を知らぬ男ではない。
幾度も遠征に参加し、馬上でも地上でも剣を振るってきた男だった。
カルドの肩口が裂けた。
血が噴き出す。
「親分!」
ロビンが声を上げる。
「手ぇ出すな!」
カルドが怒鳴った。
バイダルが笑った。
「ほう」
さらに踏み込む。
「まだ王としての誇りは残っておったか」
剣が振り下ろされる。
カルドは受けた。
だが、力に耐えきれない。
片膝をつく。
「どうした」
バイダルが剣を押し込む。
「息子の仇を討ちに来たのであろう?」
カルドの顔から笑みが消えた。
「その名を――」
低く呟く。
「お前が口にするな」
力任せに剣を弾いた。
カルドが立ち上がる。
再び斬りかかる。
だが、怒りに任せた剣だった。
バイダルは容易くかわした。
柄頭がカルドの顔を打つ。
カルドが地面へ転がった。
「陛下!」
ロビンが弓を構える。
「撃つな!」
カルドは立ち上がりながら叫んだ。
口の端から血が流れている。
バイダルは鼻で笑った。
「見苦しいな」
カルドは血を吐いた。
「強えな、お前」
「今頃分かったか」
「いや」
カルドが笑った。
「助かったと思ってな」
バイダルが眉をひそめる。
「何?」
カルドが走った。
正面から。
あまりにも真っ直ぐに。
「愚か者が!」
バイダルが剣を振り上げる。
その瞬間。
カルドは――
剣を投げた。
回転しながら飛んできた剣を、バイダルは反射的に弾いた。
甲高い音が響く。
剣が宙を舞う。
「何を――」
バイダルが目を見開いた。
「撃て!」
その瞬間だった。
鈍い音がした。
一本の矢が、バイダルの左腿を貫いていた。
「ぐっ……!」
膝が折れる。
バイダルが地面へ片膝をついた。
信じられないものを見るように、矢を見る。
そしてロビンを見た。
ロビンは、すでに次の矢をつがえていた。
「き、貴様……!」
バイダルがカルドを睨みつける。
「卑怯者……!」
カルドは答えなかった。
地面に落ちた剣を拾い上げる。
ゆっくりと近づいていく。
「一騎打ちではなかったのか……!」
カルドの足が止まった。
しばらく黙っていた。
それから、不思議そうな顔をした。
「俺の息子は正真正銘の騎士だったが」
「俺は生まれついての卑怯者なんだ」
バイダルの顔が歪む。
「貴様、それでも王か!」
その言葉に。
カルドは少しだけ考えた。
そして笑った。
「そうだな、王ってガラじゃなかったな」
剣を肩に担ぐ。
「俺は今、お前を殺しに来ただけだ」
バイダルが立ち上がろうとする。
だが、脚に力が入らない。
そこへ――
もう一本。
ロビンの矢が右肩へ突き刺さった。
「ぐあっ!」
剣が手から落ちた。
バイダルが両膝をつく。
近習たちが動こうとした。
その瞬間、ロビンが矢を向ける。
誰一人として動けなかった。
カルドだけが歩いていく。
一歩。
また一歩。
バイダルの前に立つ。
見下ろす。
バイダルは荒い息を吐きながら、それでもカルドを睨み返していた。
「殺せ」
カルドは何も言わない。
「どうした」
バイダルが笑った。
「息子の仇であろう」
カルドの眉が、わずかに動く。
「早く殺せ」
しばらく。
カルドはバイダルを見つめていた。
そして静かに言った。
「リチャードはな」
バイダルの表情が止まる。
「あいつは、最後まで立ってたそうだ」
カルドが剣を握り直す。
「逃げなかった」
声は震えていなかった。
「俺には過ぎた息子だったな」
バイダルは何も言わない。
カルドは剣を振り上げた。
「だから――」
一瞬だけ。
父親の顔になった。
「迎えに行く前に、土産を持っていく」
剣が振り下ろされた。
コメント
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いやもうね、読み終わって震えたんだけど!!😭💕 カルドの「俺は生まれついての卑怯者なんだ」からの、父親の顔で「迎えに行く前に土産を持っていく」…この流れほんとエモすぎてやばい…!!✨ 正々堂突出してなくていいんだよ、生きて帰ってくるのが正義だよね…。リチャードの話、静かに語るところがもう全部持ってかれた… バイダルも強キャラでかっこよかったけど、最後まで卑怯者呼ばわりするトコも含めて良い悪役でした🔥