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第50話:ヒバクチイキジマ
朝の教室。
水色のシャツに短パン姿のまひろは、机に肘をつきながら黒板を見ていた。
教師は濃い緑色のスーツに縁メガネをかけ、教科書を掲げている。
「今日は“国土安全地理”の時間です。新しい単元は──ヒバクチイキジマ」
教室の大型画面に、緑色の地図が映し出された。
北方の海に、小さな赤い点がいくつも示されている。
「この島々は、未確認敵国の領土とされています」
教師の声は落ち着いていた。
「ですが、大和国では“危険思想を持つ者”や“罪を犯した者”を、ここに移送することになっています」
クラスの生徒が手を挙げて尋ねた。
「先生……その人たちはどうなるんですか?」
教師は少し微笑んで答える。
「人の手で◯らないので、とても人為的にいいとされています。
つまり、直接の処刑ではなく、国の未来を守るための“再配置”です」
教科書には「危険思想を遠ざけることで市民が安心できる」と太字で書かれていた。
まひろは小さな声で呟く。
「でも……帰ってくる人はいないんだよね?」
その言葉に、隣の席の生徒がひそひそと「シーッ」と合図する。
教室の天井に取り付けられた小型カメラが赤く点滅していたからだ。
休み時間、教室の画面に宣伝映像が流れる。
明るいナレーションが響く。
「ヒバクチイキジマ──人の手で処罰せず、未来を守る大和国の知恵!
今日も安心、今日も平和!」
画面の子どもたちが笑顔で声を合わせる。
「アンズイで安心〜!」
まひろは机に頬杖をつきながら、その映像を見ていた。
瞳の奥には、ふとした影が浮かんでいた。
一方、暗い部屋。
緑のフーディを羽織ったゼイドがモニターを見つめていた。
そこには「再教育終了」と記された無数の記録が並んでいる。
ゼイドは低く呟く。
「未来を守る、安心をつくる……そう言えば人は疑わない。
だが“島送り”は、国が人を消すための最も静かな方法だ」
モニターの赤いランプがまたひとつ、点滅した。