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深夜
セーフハウスの寝室は中也の荒い呼吸音だけが支配していた
薬の成分が分解され始め、体が急激に本来の大きさを取り戻そうと熱を発している
中也は太宰のベッドの上で汗に濡れた赤毛を散らしながら苦しげに身をよじっていた
「……っ、あ…だざ………いたい……」
その声は昼間のような完全な幼児のものではない
少しずつ聞き慣れた中原中也の響きを帯び始めている
だが意識はまだ混濁したままだ
「大丈夫だよ、中也。もうすぐ終わる……元の醜悪で愛しい君に戻れる」
太宰は中也の濡れた額を冷たいタオルで拭い、その手を握りしめた
すると中也が力なく目を開ける
潤んだ青い瞳が焦点の合わないまま太宰を捉えた
「…だ、ざ…い……いかない……で……」
掠れた声
それが幼児としての本能なのかそれとも大人の中也が心の底に隠していた本音なのか
太宰には判別つかなかった
だからこそその言葉は鋭利な刃物のように太宰の胸を抉る
「行かないよ。君を置いてどこへ行けるって云うんだい?」
太宰が顔を寄せると中也は震える小さな手で太宰の頬を包み込んだ
「………きらい…だ……でも…おまえ…だけ…」
言葉が途切れる
中也は太宰の首に腕を回し、しがみついた
その力は先程までの子供のそれよりもずっと強く、確かな拒絶と執着が混ざり合っている
「中也、今君は誰を視ている」
太宰の問いに中也は答えなかった
代わりに熱い吐息を太宰の耳に吹きかけ、無意識にその肩口へ歯を立てた
痛みが走る
だが太宰はその痛みを歓迎するように目を細めた
「……いいよ。もっと刻み給え。………明日君が正気に戻ったときこの痕を見て絶望するためにね」
中也はそのまま太宰の腕の中で深い眠りへと落ちていった
体が微かに光帯びて膨らみ始めている
変異はもう止まらない
太宰は眠る相棒の耳元でわざと意地悪く、けれど慈しむように囁いた
「……さて、明日目覚めた君にどんな嘘を教えようか………楽しみで眠れないよ」
夜明けは近い
二人の共犯関係のような時間は終わりを告げようとしていた
🌟🎈(nrkr)/宇宙
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