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 わたしは咄嗟に榎先輩の腕を抱きかかえ、彼女の後ろに逃げるように身を隠した。

 そんなわたしを榎先輩は庇うように半歩前に出て、楸先輩の方へ右腕を伸ばし、手のひらを見せる。

 力の魔法を唱えた矢先、楸先輩の身体が何かにはじかれたようによろめいた。

 榎先輩の唱えた魔法が楸先輩の勢いを弱めたのだ。

 けれどそんなのはただの気休めでしかなかった。

 楸先輩はすぐに態勢を立て直すと、榎先輩と同じようにわたしたちに向かって右手のひらを向け、風の呪文を口にした。

 わたしたちの周囲に激しい風が巻き起こり、ふわりと身体が宙に浮く。

「ひゃぁ!」

 思わず声を漏らした時だった。

「やめろ、真帆!」

 叫び声が聞こえ、わたしたちと楸先輩の間にシモハライ先輩が飛び出してきたのである。

 シモハライ先輩の身体も同じように宙に浮きかけたが、その両腕を必死に伸ばし、楸先輩の両肩を掴みながら、

「落ち着いて、真帆! 話を聞いて!」

「うるさい!」

 その途端、わたしたちの身体を包み込んでいた風の勢いが弱まったかと思うと、代わりにシモハライ先輩の身体が大きく宙に浮かび上がった。

 楸先輩の肩を掴んでいた手もその勢いに負けて離れ、そして――

「うわぁ!」

 次の瞬間、シモハライ先輩の身体がガンッ! と床の上に叩きつけられた。

「先輩!」

「シモハライくん!」

 シモハライ先輩は呻き声をもらしながら、それでももう一度立ち上がり、楸先輩と真正面から対峙する。

「真帆、僕は――俺は、お前を裏切ったりなんかしない」

「ウソ! なら、どうしてその子たちと一緒に居るの? なんで私と一緒に居てくれないの? わたしのことが好きなんでしょう? なら、私とずっと一緒にいてよ! 私を一人にしないでよ! もう、こんな真っ暗いところに居るのはイヤです! 誰もいない、独りぼっちの世界に閉じ込められて、私は、私は……!」

「ひとりになんかしてない。ずっと一緒に居るじゃないか」

「居なかったじゃないですか! いったい、どれだけこんなところに私ひとりで居たと思います? どれだけ長い時間、孤独に耐えてきたと思っているんですか! それなのに、ユウくんは呑気に他の女と連れ立ってこんなところで! この間もそうだったじゃないですか! 私のことを放っておいて、鐘撞さんと一緒にカウンセラー室でイチャイチャして!」

「い、イチャイチャなんてしてなかったじゃないか!」

「どうだか」

 楸先輩は鼻で笑い、わたしの顔をじっと睨みつけながら、

「やっぱり、ユウくんもこんな可愛らしい、小動物みたいな女の子が好きなんですよ。私みたいに自分勝手で、大雑把で、いい加減な見掛け倒しの女になんて愛想を尽かしたんでしょう?」

「だから、違うって言ってるじゃないか! 俺はそんな自由奔放な真帆が好きになったんだ! 真帆以外の女の子になんて興味ない!」

「興味ない? だったら、鐘撞さんのことなんて放っておけば良かったじゃないですか! 私、あの時なかなか秘密基地に来ないユウくんを迎えに行ったんですよ? それなのに、ユウくんは呑気に鐘撞さんとカウンセラー室で――」

「それは、だから説明したじゃないか! 遅刻した鐘撞さんがカウンセラー室のことを知らなかったから、教えてあげようと思っただけで」

「なら、カウンセラー室まで案内したら、すぐに私の所に来なかったのはどうしてですか? なんで私と一緒に登校することも断って、初めて会う女の子をカウンセラー室まで案内して、そのまま一緒に過ごしていたんですか? 私のことは? 忘れていたんですか?」

「忘れてたんじゃない。そもそも、僕も真帆も家を出る時間はいつもバラバラじゃないか。こないだも一緒に行こうって約束してたのに、そのことをすっかり忘れてホウキで学校に行っちゃったのは真帆の方だっただろう?」

「あの時は仕方がなかったんです! お姉ちゃんと朝から喧嘩して、勢いに任せてそのままホウキで飛び出しちゃったから――忘れてたわけじゃありません!」

 ……何なんだろう、このやり取りは。こんな二人の為に、わたしはこんな大変な目に遭っているってこと? 夢に閉じ込められたり、夢魔に追いかけられたり、楸先輩に脅されて、馬屋原先生に利用されて――ん?

 そこでわたしはふと馬屋原先生の方に顔を向けた。

 馬屋原先生は口元に笑みを浮かべながら、相変わらず痴話喧嘩を繰り広げている楸先輩とシモハライ先輩の様子を眺めている。

「――そうだよ、シモハライくん」

 馬屋原先生はそこで二人に声を掛ける。

「悪いのは全てキミだよ。キミがこんなに可愛らしい美人さんを彼女にしておきながら、他の女の子にまで手を出そうなんてするからいけないんだ。反省しなさい。そして大人しく飲み込まれてしまいなさい」

「飲み込まれる?」

 眉間に皺を寄せるシモハライ先輩。

「そう、その化け物に」

 ひゅっと一陣の風が吹き抜けていったかと思うと、次の瞬間、再び楸先輩の身体が黒い靄に覆われ、その顔が渦巻く闇へと変貌を遂げた。その向かう先は目の前のシモハライ先輩。

「えぇっ!」

 シモハライ先輩は目を丸くし、

「ウソツキ! ウラギリモノ!」

 夢魔がくぐもった声をもらしながら、シモハライ先輩へとにじり寄っていく。

 それまでそこに居たはずの楸先輩の面影はすでになく、真っ黒い人型の闇が両腕を伸ばし、シモハライ先輩の肩をがっしと掴み、じわりじわりと顔を近づけていく。

「や、やめろ、真帆!」

「ウルサイ、ウラギリモノ、ウソツキ、ユルサナイ」

 夢魔の顔がシモハライ先輩の顔に触れるほど近づき、魔力が、生命力が吸い上げられていくのが見えてわたしは反射的に体が動いていた。

「先輩!」

「シモハライくん!」

 同じく叫び声を上げた榎先輩とともに、二人の方へ駆け寄ろうとしたところで、

「――駄目だよ、ふたりとも」

 馬屋原先生の声が聞こえた途端、

「ぎゃ!」

「いたっ!」

 見えない壁がわたしたちの前に現れて、身体をしたたか打ち付けた。

 イタタタ……なに、これ!

 馬屋原先生に顔を向ければ、先生は気味の悪い笑みを浮かべながら、

「――彼女は今、食事中なんだよ。邪魔しないであげてくれないかい?」

 言って、すっとわたしたちの方へ、左腕を伸ばしてきた。

夢魔と魔法使いの少女たち

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