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その夜、午後11時に優弥が杏樹の家に来た。

優弥は玄関を入るなり杏樹を抱き締める。優弥の口からはかすかにアルコールの匂いがした。


「ずっとこうしたかったよ」


来て早々甘い言葉を囁く優弥に杏樹は微笑む。

最近優弥は二人きりになるとこんな甘いセリフを囁くようになった。初めて会った時のような『俺様』的態度はすっかり影を潜めている。


「お疲れ様。寝不足で疲れているんじゃない?」

「大丈夫だよ」

「何か飲む?」

「いや。それよりもプリン買って来た。コンビニのだけどな」


優弥が袋を渡すと杏樹が袋の中を見て嬉しそうに声を上げた。


「あ、これ、私が好きなのだ」

「うん。前にコンビニで言ってたもんな」

「覚えていてくれたんだ。嬉しい」


杏樹は満面の笑みになる。

付き合い始めてからの優弥は杏樹との会話をいつも覚えていてくれる。それがどんな些細なやり取りでもだ。

そこに杏樹はいつも幸せを感じていた。


リビングへ移動すると優弥は上着を脱いでダイニングチェアに座った。

杏樹はキッチンでコーヒーを淹れ始める。


「ノンカフェの方がいい?」

「いや、普通のでいいよ」


そしてコーヒーが入るとテーブルへ持って行った。

杏樹が優弥の向かいに座ろうとするとすかさず優弥が言う。


「そっちじゃなくてこっち」


優弥は自分の膝の上を指差す。


「服が皺になっちゃうわよ」

「もうクリーニングに出すから大丈夫だ。ほら、早く」


優弥は待ちきれないようだ。

杏樹は仕方なく優弥の傍へ行くと膝の上に横向きに座った。最近優弥はこの体勢がお気に入りのようだ。


「で、先に説明するよ」

「ん?」

「検査部の藤原さんとの事」

「あ、うん」

「彼女は本部時代の後輩なんだ。で、一時期彼女とは頻繁に話す機会があってね」

「話?」

「うん。彼女は俺の同期と不倫関係にあったんだ」

「…………」


いきなりそんな事を言われたので杏樹は驚く。


「で、俺は間に入って色々やってたって訳」


(それで彼女に夜景の見えるバーに呼び出されたのね)


杏樹は納得した。


「で、その同期の人はどうなったの?」

「一時期奥さんと別れて彼女と一緒になるなんて言い出してさ、驚いたよ。超真面目なやつだったからね。彼の奥さんも同期で優しくて美人でよく出来た人なんだ。それに子供も二人いたしね。だから冷静になれって説得したらなんとか思いとどまった。で、今は地方の支店で幸せにやってるよ」

「そうだったんだ……でもなぜ藤原さんは今度は副支店長に?」

「彼女は昔から恋多き女で有名だったんだ。本部時代も色々な行員と浮名を流していたしね。彼女は恋人がいる男にも平気でちょっかいを出すんだ。多分人から奪うのが好きなんだろうな」

「凄い…ですね….」

「普通じゃないよな。彼女にとって恋愛はゲームみたいなもんなんだろう?」

「ゲーム?」

「そう。一つクリアしたらまた次のステージへって。いわゆる地雷女ってやつ?」

「……私にはなんだかよくわかりません」

「ハハッ、わかる必要なんてないさ。でも俺は初めて杏樹に会ったあの夜、杏樹はこのタイプかなーと思ってたよ。だって見ず知らずの男について来るんだもんなぁ」


優弥はからかうように言った。


「違いますっ、あの時は酔ってたから……それに私、恋愛をゲームだなんて思っていませんからっ」

「おっ、ムキになってる」

「で、でもっ、もし私がヤバいタイプだって思ってたのならなんで再会した時にあんな事を言ったんですか?」


杏樹はあの時の優弥の言葉を思い出していた。



『俺はお前を必ず堕としてみせる。だから覚悟をしておけ』



その時優弥が答えた。


「フフッ、杏樹は地雷女じゃないとわかってたからな」

「なんでわかったの?」

「杏樹がもし地雷女だったら、あの朝勝手にいなくなったりはしないだろう?」


確かに優弥の言う通りだ。あの朝杏樹は名前も明かさずにその場からそっと逃げた。


「それはそうですけど。で、結局彼女とは?」


杏樹は一番気になっていた事を聞く。


「実は今日出先から戻ったところで彼女に捕まり早速ゲームを仕掛けられた。で、俺が断ろうとした時偶然支店長が通りかかって彼女に忠告してくれたんだ。驚いたよ」

「支店長が?」

「そう。検査部の人間が男口説いてどうするって叱責した後、俺にはもう決まった人がいるからって話してくれたんだ」


杏樹は思わずポカンとする。

普段女子行員には甘過ぎる態度の葛西が京香に対して強く叱責したというのだ。信じられない。


「で、彼女は?」

「おずおずと引き下がったよ」

「良かった……」


杏樹はついポロッと本音が出てしまう。


「ん? 心配だったのか?」

「ううん、別に」

「本当に?」

「違います。心配なんてしていませんっ」

「なんだ、俺は心配して欲しかったのなぁ…」


優弥は声を出して笑う。思わず杏樹の頬も緩む。


「さあて、そろそろ完徹までして検査の査定に『SS』判定を貰った上司にご褒美をくれ」


そこで杏樹はびっくりする。


「検査の査定『SS』判定だったんですか?」

「ああ」

「凄い!」


杏樹が銀行に入ってから検査で『SS』判定をもらえたのは今回が初めてだった。


「まあ俺が副支店長で入ったからには最初から『SS』を取るつもりだったけどな」


優弥はニヤッと笑った。


(なんて凄い人なの……)


杏樹は優弥の仕事に対する本気の姿勢を見て改めて尊敬の念を抱いた。


「凄いって思うなら、杏樹、そろそろご褒美をくれ」

「ご褒美? ああプリンね」


杏樹はテーブルの上にあるプリンを開けるとスプーンですくって優弥の口に近づける。

すると優弥は嬉しそうに一口食べた。


「うん、美味い。杏樹が食べさせてくれると余計に美味いな。もっとくれ」

「はい」


杏樹はまるで幼い子供の世話をするように優弥の口に何度もプリンを運んだ。

そしていよいよ最後の一口になると優弥が言う。


「杏樹にも食べさせないとな」

「私は後でいいわ」


そして最後の一口を優弥の口に入れた時、優弥が杏樹の唇を奪った。


(あ……)


その瞬間優弥の口の中の甘い甘いプリンが杏樹の口へと移動する。ツルンとした感触のあと口の中いっぱいに甘さが広がる。


「美味いか?」

「甘いわ」


杏樹は恥ずかしくて頬を赤く染めながらうつむいた。


「よし、もっと甘くしてやろう」


優弥はニヤリと笑うと杏樹を抱き上げキスをする。そしてそのまま寝室へ杏樹を連れて行った。



翌朝二人は同時に目覚めた。

昨夜はいつもよりも一層激しく愛を確かめ合ったので二人ともすっかり寝不足だ。


「ふぁぁああーーー。なんか寝足りないな」

「ふぁぁー、私も……」


優弥に欠伸を移された杏樹は幸せに満ちた表情で大きく伸びをする。そんな杏樹に優弥はチュッとキスをした。

そして再び天井を見つめながら言った。


「杏樹、今度の土曜日デートしようか」

「デート?」

「うん。最近ずっとマンションばかりだったろう?」

「いいけど。どうしたの急に?」

「なんだろうなぁ。検査から解放されたから外に出たくなったのかなぁ?」

「うん、わかったわ。じゃあ出かけましょう」


微笑む杏樹の頬にもう一度チュッとキスをすると優弥は漸くベッドから起き上がった。

ワンナイトのお相手はまさかの俺様上司&ハイスぺ隣人でした

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コメント

51

ユーザー

検査も好成績で無事に終わり、地雷女も去り ホッとひと息ですね😌💓 ご褒美のプリン🍮にラブラブチュッチュ😘💋♥️♥️♥️ 幸せいっぱいの二人👩‍❤️‍👨💕 次の土曜日のデートも 楽しみですね🚙💨

ユーザー

優弥さんにSSS判定を«٩(*´∀`*)۶» S:スーパー S:素敵な S:Sッ気王子 支店長に昇進したら4Sだな。

ユーザー

あちこちでプリン🍮だし、アタシもプリン飲んだわ(笑)🍮🍮🍮 2人とも甘~いねヾ(*´∀`*)ノ︎💕

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