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「ただいまぁっ」
いつものように、美花は『家庭料理 ゆき』の出入り口から入っていく。
「美花、お帰り。楽しかった?」
カウンターの内側で、料理を準備している雪に声を掛けられる。
「うん。久々に会えて楽しかったよっ」
スイングドアを通り抜ける直前、美花はチラリとカウンターの隅に視線を配ると、久々に圭がご飯を食べに来ていた。
「おっ……おにーさん、こんばんは。いつもありがとうございますっ」
「ああ……どうも」
この日、圭はブリの照り焼き定食を、やはり、と言うべきか黙々と食事をしている。
「お客さん、二ヶ月くらい店に来なかったでしょ? どうしちゃったのかなぁ? 忙しかったのかなぁ? もしかして病気だったのかなぁ? って考えちゃったのよ。でも久々に店に来て、元気そうだったから安心したよ」
「あ…………いえ……」
母の雪が、圭に穏和な眼差しを送ると、おにーさんは、ぎこちなく頭を下げる。
「どうぞ、ごゆっくり」
美花がニコリと笑い掛けると、おにーさんも、微かに目尻を下げ、彼女はそのまま厨房の奥のリビングに入っていった。
母の手料理を食べた後に入浴を済ませた美花は、さっそくパソコンを起動させた。
「おにーさんからインスピレーションを受けた曲の続き、作ろうっと」
ボイスレコーダーを傍らに置き、録音した自分の歌声を頼りに、黙々と音を入力していく。
(最近の私……ピアノをメインとした楽曲を作っているような気がするなぁ……)
もしかしたら、おにーさんと出会ってから、自分の中の作曲スタイルが、変わりつつあるのかもしれない。
ピアノの演奏は、奈美の結婚式で、花嫁と奏が、国民的RPGゲームの五作目のエンディング曲『結婚ワルツ』を連弾で演奏していたのを、大トリの余興で聴いて以来である。
(あの二人の演奏は、息もピッタリで、音もキラキラしてて華やかだったなぁ……)
幸せに満ちた空間を思い返していた美花が、次に思い浮かんだのが、圭との、短くも穏やかな時間。
(国営公園で過ごした時間も…………楽しかったなぁ……)
思わず、美花の口元が緩んでしまう。
彼女は、よしっ! と気合を入れ直し、パソコン画面と向き合った。