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数日後、自宅マンションで、久々にHanaの動画投稿サイトを開いてみた圭。
「お…………新曲が投稿されてるな……」
イタリア・ベネツィア地方の画像のサムネイルをクリックし、音楽を再生させた。
♪ Barcarole Op1-2 D-dur Compose@2005 Rearrange@2025♪
バルカローレとは、イタリア語で舟歌の事。
イタリア・ベネツィア地方のゴンドリエーレ(ゴンドラの漕ぎ手)が歌った民謡が、ルーツになっているらしい。
曲紹介には『以前、ボートに乗った時に感じた風が、とても気持ち良かった』と書かれてあり、圭の胸の奥が締め付けられる。
(あの時…………ボートに乗りながら、彼女がボイスレコーダーに吹き込んで歌っていた曲……なの……か……?)
緩やかで叙情的な旋律の楽曲に、あの時、二人で乗ったボートでの湖上散策を思い出す彼。
美花にオールを預けて漕いでも、なかなか前進せず、代わりに圭がオールを掴んで漕いだら、滑るように水面を進むボート。
透明感のある美花の歌声と、彼女に降り注がれた音の雨を浴びた時の表情が、歓喜に満ちていて、曲を聴きながら圭の鼓動が脈を打つ。
音楽は、記憶を呼び寄せる存在なのかもしれない、と、流れるようなメロディに耳を傾けながら、圭は朧気に思っていた。
消え入るような後奏が終わり、彼はフゥッと小さく吐息を零す。
「…………ヤバいな……」
圭はパソコンを閉じると、ベッドルームに向かい、身体を横たえる。
眠ろうと思っても、圭はなかなか寝付けない。
目が冴えてしまい、天井をボーッと見つめていると、浮かんでくるのは、美花の笑顔。
先日、店で久々に会った彼女は、何か楽しい事でもあったのだろうか、どことなく嬉しそうにも見えた。
圭の中に、いつも浮かんでくるのは、笑顔を咲き誇らせている彼女。
「あの、ひまわりのような笑顔を……ずっと見たい…………彼女の笑顔を見続けていたい、守りたいと思う俺は…………おこがましいのだろうか……?」
今も持て余している、彼の、美花に対する気持ち。
女に対して、こんな悶々とした感情を抱くのは、美花が初めてであり、圭は横になりながら、グシャグシャと前髪を掻きむしった。
***