テラーノベル
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翌日、ハルディンの商業ギルドの巨大倉庫の前に、俺たちは集まっていた。俺、サフラン、ティアレ、アルダー。そしてバオバブが連れてきたギルドメンバーたちの十人だ。ギルドメンバーたちはさすが冒険者だろうという屈強な体つきをしていた。
「ユウト殿、よろしくお願いしますぞ! 皆のもの、ユウト殿の指示に従うのだ!」
「おう……」
バオバブが気合を入れてギルドメンバーたちに発破をかける。ギルドメンバー達は返事はしたものの、みんな顔色が悪かった。まぁ無理もないだろう。
「じゃあ、開けるっすよ」
俺が重厚な扉を開けた瞬間、強烈な腐敗臭とカビの混ざった風が吹き出した。あまりの悪臭と視界が悪くなるほどの埃。ギルドメンバーたちが一斉に後退る。
「うえぇぇぇっ……! な、なんだこの臭いは!」
「魔王の瘴気だ! 目がやられた……!」
「くそっ、瘴気が濃すぎて近づけねぇ!」
屈強な男たちでさえ入り口の数メートル手前で膝をついてしまった。
「これは酷いね……こんなの本当に片付けられるの?」
サフランは口元を布で覆いながら顔を顰めた。
(改めて見ても酷い状態っすね。埃と生ゴミの腐敗ガス……中に入るだけでも危険な状態だ)
「まずはこの臭いと埃をどうにかしないとっす」
「……ふっふっふ」
ティアレが自信満々な顔つきで、腰に手を当てて前に進む。
「ここは僕の出番だね、任せて!」
「え……」
止める間もなく、ティアレが勢いよく前にでた。
「僕は大魔法使いを目指してるんだ、風魔法だって使えるんだよ。そおれっ!!」
ティアレが両手を前に突き出し、倉庫の中に向かって強風を放った。
ゴォォォォォォォッ!!!!
「あっ、ちょっ、待っ……!」
俺の制止は間に合わなかった。強烈な風が倉庫の中に吹き込んだものの、山積みの木箱にぶつかって行き場を失った風が、大量の埃を巻き込んで逆流してきた。
「きゃぁぁっ! 前が見えないよぉっ!」
「げほっ、ごほっ! なんじゃこりゃあ!」
「いかぁぁん! 瘴気の嵐じゃぁっ!」
皆一斉に激しくむせ返って、大惨事になってしまった。
「けほ、けほっ、うぅ……ご、ごめんなさい……」
「ティアレ。機密性の高い空間に強風を吹き込んだら、埃が舞い上がるだけっす」
「僕、やっぱり役立たずなのかな……」
「違う。ティアレは役立たずなんかじゃない。俺とタッグを組めば完璧になれる」
「え……?」
俺は落ち込むティアレの肩を叩き、微笑みかける。
「こう言う時は、気流をコントロールして一方向に逃すのが鉄則っすよ」
――家事スキル:業務用大型サーキュレーター
俺が念じると、光とともに巨大な黒い扇風機のような機械が現れた。
(初めて電化製品呼び出したけど、果たして電源は入るのか?)
俺は恐る恐る電源を入れるとサーキュレーターが動き出した。改めておかしなスキルだ。
「ティアレ、もう一度風魔法を出してください。今度はこの機械の後ろから、弱めでいいっす」
「う、うん……」
ティアレが弱めの風魔法をサーキュレーターの背面に送り込んだ。すると、サーキュレーターの強力なファンがその風を巻き込み、直線的な強い風として変換した。
風はまっすぐに倉庫の奥の換気口へと突き抜け、完璧な気流を作り出した。
「よし。次はこれっすね」
――家事スキル:霧吹きボトルと重曹
霧吹きボトルに重曹を入れ、ティアレに頼んで魔法で水を入れてもらう。重曹入り霧吹きミストの完成だ。
俺は気流に乗せるように、霧吹きボトルから重曹入りのミストを散布した。細かい水滴が空中の埃に吸着し、次々と床に落ちていく。みるみるうちに視界がクリアになっていく。
「おおおっ……!? 視界が晴れたぞ!」
「なんなんだあの黒い魔道具は!? あんなに濃かった瘴気が、一瞬で浄化されていく!」
バオバブやギルドメンバーたちが信じられないものを見るような目で歓声を上げた。だが俺の前で重曹ミストを浴びたティアレの様子がおかしくなっていた。
「あっ……んっ……♡」
(しまった……!)
ティアレは顔を真っ赤にして内股でモジモジし始めた。
「ユウト……♡」
振り返ったティアレの顔は蕩けるようで、思わず心臓が跳ねる。
「おいおい、まずいっすよ。こんなところでそう言う声出すのやめてもらえますか?」
「だって……ダメなのに……ユウトが……んぁっ、体の奥の悪いものが……吹き飛んで……気持ちいい……っ♡」
(このままじゃバオバブやギルドメンバーたちに丸見えだ……っ!)
俺は咄嗟にティアレの肩を掴み、サーキュレーターの死角へと引き寄せた。自分の背中で、ギルドメンバーたちからの視線を完全に遮る。
更に、サーキュレーターの風量ボタンを最大へと切り替えた。
ブォォォォォォォォッ!!
凄まじいモーター音と風の音が鳴り響き、ティアレの甘い声を完全に掻き消す。
「まだ瘴気は残ってるっす! 皆、絶対に近づかないで下がっていてください!!」
俺が後ろを向いたまま大声を張り上げると、ギルドメンバーたちは後退していく。
「おおっ!」
「任せたぞ! ユウト殿!」
俺の胸元にすっぽりと隠されたティアレは、安心したように微笑んで見上げてきた。
「ユウト……隠して、くれるの……?」
「当たり前っすよ。ほら、もう我慢しなくていいっすから」
俺がティアレの耳元で小声で告げると、至近距離で浄化ミストを浴び続けたティアレの体が、ビクゥッと大きく跳ねる。
「あぁっ……♡ ひゃぁぁぁっ……♡♡」
ティアレの絶頂の甘い声は、轟音にかき消された。彼女は完全に限界を迎えたようで、俺の腕の中で崩れ落ちた。
俺はティアレを倉庫の隅に移動させ座らせる。心配したサフランが駆け寄ってくる。
「ティアレ、大丈夫?」
「あぁ、魔法を使いすぎて疲れたみたいだ」
そして、ギルドメンバーたちの方を向いてパンパンと手を叩く。
「換気は完了っす! これで安全に中に入れるようになったはずっすよ」
「おぉ! 確かにこれなら中に入れるぞ!」
「掃除の基本は動線の確保っす。奥から片付けるのではなく、まずは入り口付近にある木箱や武器の箱を外に出して道を作るっすよ」
「お、おう! わかった!」
「瘴気がなくなったならこっちのもんだ!」
ギルドメンバーたちが気を取り直して入り口付近の木箱を運び出そうと手を伸ばした。
「よっと……うぉっ。これ、結構重いな」
「中身を見ずにひたすら外へ運ぶっすよ!」
#恋愛
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コメント
1件
あらためて、めっちゃいい回でした……! 最初の悪臭と埃の描写がリアルすぎて「うわ」ってなったけど、そこからのユウトの家事スキル連発が爽快感ハンパないっすね!! ティアレの風魔法→逆流→大惨事の流れもコミカルで好きだし、ユウトが即座にサーキュレーターで場をコントロールするのがかっこよすぎました😭💕 で、あの浄化ミストを浴びたティアレの反応……まさかバレバレの状態になるとは思わなくて、ちょっとドキドキしちゃったっす(笑)。ユウトが轟音で声を隠して守る姿勢も、こういう時の男の機転って感じでグッときました✨ 次はようやく倉庫の中身を運び出せるフェーズに入りそうですね!この調子でどんどん掃除進めてほしい~🌸