コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それから、オーゼムはぼくたちをジョンの屋敷へと誘った。ここが人間界にいるための最後の理由だと言って、屋敷の地下の扉を開いた。
屋敷の地下には、凍った女性と男の死体があった。
凍った女性は死後。幾ばくか経っていた。
もう一つはつい最近まで生きていた男の死骸だった。
「これが、もう一つのジョンの望んだ結末だったのでしょうか。ジョンの最愛の人も古代の魔女でした。大昔から生きていましたが。ですが、ジョンは納得いかなかったのでしょう。殺害したのは誰だったのでしょう? これは私にもわかりません。けれども、モート君ではないでしょう」
オーゼムは首を左右に振り、信じられないと言った顔だった。
「ジョン……叔父さん……何故……?」
その言葉を言ったのは、ヘレンではく他でもないアリスだった。
「アリス……? 君は……知っていたんだね? ジョンを……」
ぼくはアリスの瞳をじっと見た。
アリスは寒さからか、白い息を吐いて遠い記憶を辿るような瞳をしていた。
「ええ。数年前に亡くなった叔父さんなのです。確かお葬式で初めてお顔を拝見したの。その時は真っ白だったけど、とても綺麗な顔だったのです。殊の外、優し過ぎるくらい素晴らしい心の持ち主の叔父さんだったと聞きました。でも……。誰かが墓を掘り起こした事件が起きて……」
ぼくは急に頭痛がしていた。
「う……!」
「モート君? 君が……?」
ぼくは頭を抱えて頷いた。
「そうだ……産まれてから、首を狩ることを覚えた最初の日。ぼくは練習に死体の首を狩っていたんだ。大勢狩った。そしたら、一人の女性が来て……?」
「モート……」
ヘレンはそれを聞いて、震える肩を摩って、うなだれてしまった。
「生き返らせた……? なんてこと?! 古代の禁呪だ……!」
オーゼムは眩暈がしたのか、立っているのがやっとのようだった。
「やはり、イタチごっこですね。この事件は……ジョン・ムーアは決して死なないでしょう。断言します。また生き返りますよ。……さあて、皆さん。もうそろそろお別れのお時間です」
凍てついた狭い地下の部屋でオーゼムはニッコリと笑った。
「さあ、皆さん外へ出ましょうか」
オーゼムとぼくたちは外へ出ると、昼間の空を覆うほどの粉雪が舞って来ていた。気温もいつも通り下がり始めた。
「オーゼムさんは天界にどうやって帰るのですか?」
ヘレンの微かな涙声に、オーゼムは微笑んだ。
「あれ? 見えませんか? もう、すでに目の前にあるんですが?」
ぼくらの目の前には巨大な半透明の階段が、いつの間にか現れていた。
「どうでしたか。人の魂は……。おおよそ皆、魂は元々綺麗なのです。魂は磨けば磨くほど更に綺麗になるんです。例え罪人でもね。だから、磨かないといけない。……それでは失礼しますね。さよなら」
オーゼムはそう言うと半透明の階段を天へと登って行った。
ぼくの記憶ももうすぐ戻るだろう。
だって、アリスの声色は……。
「アリスの声は、大好きだった。今でも好きだ。だって、大昔に失ったフィアンセと同じ声色だったから……」
ぼくは隣にいるアリスの肩を優しく抱いた。
「そう……悲しいですね。でも、私にとっては、とても嬉しいことです」
アリスは少し悲し気な声色になって、俯いたがすぐに上を向いた。
「一つアリスにお願いがあるんだ。ここで、昔叶わなかったことをしたいんだ」
「ええ、いいですよ。結婚をしましょう」