テラーノベル
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そんなある日。
リハ終わり、なんとなくの流れで若井と話してた。
「なんか飯行きたいね」
軽いノリだった。
いつも通りのやつ。
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じゃあ涼ちゃんも誘おうって、
いつもみたいに声かけようとした。
そのつもりで、口を開きかけた時。
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「俺、行かない」
先に言われた。
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一瞬、何言われたか分からなかった。
誘ってすらいないのに、
断られた。
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しかもその言い方が、
“いつもの涼ちゃん”じゃなかった。
軽く流す感じでも、
申し訳なさそうでもなくて。
ただ、はっきり。
距離を置くみたいに。
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「……あ、そっか」
とりあえず、そう返すしかなかった。
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そのまま終わると思った。
でも、違った。
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涼ちゃんが、少しだけ視線をこっちに向ける。
迷ったような、でも決めたみたいな顔で。
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「あと、元貴」
名前を呼ばれる。
少しだけ、空気が止まる。
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「レコーディングの休憩さ」
そこで一回、言葉が途切れる。
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「気、遣わなくていいから」
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思ってもなかった言葉だった。
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「……え?」
聞き返すこともできないまま、
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「あれ、苦しい」
って、小さく続けられた。
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苦しい。
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その一言だけが、やけに残った。
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優しさのつもりだった。
若井に言われて、
少しでも楽になるならって。
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でも、それが——
逆に、追い詰めてた。
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何か言おうとした。
でも、言葉が出なかった。
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正解が分からない。
何を言えばいいのかも、
何も言わない方がいいのかも。
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気づいた時には、
涼ちゃんはもうスタジオを出てた。
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残った空気だけが、
やけに重かった。
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若井の方を見る。
あいつも、何も言わない。
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多分、同じこと思ってる。
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——やり方、間違えたかもしれない。
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でも、じゃあどうすればよかったのかは、
やっぱり分からない。
#病み
蓬川
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