#一次創作 #ホラー #語り手 #気持ち悪い
あれは霧でもないが激しくもなく、ただしとしとと雨の降る昼下がりでした。
不運にも傘を忘れてしまった私は、丁度良いそこらの店の軒下に身を潜めていました。
湿度が高いっていうのは、気分もじめじめしてしまって嫌ですね。嫌な気分ってものは、どうも嫌な物を引き寄せる。
そんなこんなでなんとか雨が止み、さあ帰ろうと言った所で何かが私の手に触れました。弱々しくも肌に張り付く微かな感触。蜘蛛の糸の感触です。
蜘蛛の糸というのは常々、ふつりと簡単に切れる癖にひたりと張り付いてきて鬱陶しいことこの上ない。私はぱっぱと手を振るって糸を払いながら、視線を手元に移しました。
すると私の視線は手元の先、陽の光を反射してきらきらと輝く雨粒を乗せた、店の屋根と看板の合間に張られている立派な”黒い蜘蛛の巣”を捉えました。
それはもう息を呑むほど美しく、私も思わず瞳を奪われてしまいました。巣の主はおろか、何の生物も見当たらないその黒い糸で紡がれた巣は、ぬらぬらと光るその蜘蛛の巣は、どこか神々しさまでたたえていたのです。
私はその蜘蛛の巣をじぃっと見つめながら、どこかぼんやりとした思考で考えました。
ほしい、と。
恋い焦がれるように蜘蛛の巣を見つめながら、何かに導かれるように手を伸ばし、私の指先があとちょっとで触れる寸でという所ではたと気付きました。
黒い蜘蛛の巣は、蜘蛛の巣などではなかった。
すべては、長く細い髪の毛でできていた。
私はぞっとして、慌ててその場から逃げ出しました。もしもあの時あの蜘蛛の巣に手を伸ばして、そして触れていたら。一体どうなっていたか、私には想像もつきません。
皆様も、雨の日にはくれぐれもお気を付けを。溢れ出た嫌な物には、決して触れませんよう。
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