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『どうだった? 私の芝居! 完璧だったでしょ?』
女神とエスは、街外れの人気のない裏路地へと歩いていた。
女神はそこで、獣人の姿を解き、人間の姿に戻ると――おもむろに服を脱ぎ始める。
『こっちまだ見ないでね~。女神、いま着替え中だから♪』
「……」
エスは背を向けて、無言のまま腕を組んだ。
『えーっと、【武器召喚】っと』
女神の指先から、細く光る糸がするすると伸びる。
『こうかな~? 円にして――えいっ』
糸は空中に美しい円を描き、その中心へと手を差し込む。
するり、と。
アオイが道場に置いてきたはずの――青い冒険服が、まるで魔法のように取り出された。
『ほーんと、この神の力、便利すぎ~♪ キャハハハッ!』
下着姿のまま、くるくると服を広げながら踊るように着替える女神。
その背に視線を向けないまま、エスは静かに口を開いた。
「……一つ、聞いていいか」
『ん~? いいよぉ、どうぞぉ?』
着替えの手を止めず、楽しげな声で返す女神。
「あの魔皮紙……」
『うーん?』
「なぜ……お前は、死んでいない?」
『ああ、あの“魂を生け贄にして、文字通り力を引き出す”っていうアレのこと?』
エスはわずかに眉をひそめた。
「そうだ。あれをアオイに渡したのも、お前だろう」
『うんうん、ちゃんと魂を捧げたよ~? 発動も完璧。アオイちゃん、あのときめちゃくちゃ強くなってたしね♪』
「……ならば、どうして――」
その先を言おうとした瞬間。
『ねぇエスくん――』
女神が振り返り、口元に手を添えて笑った。
『私たち勇者の魂が、たったひとつだけだと思った?』
『――1000個よ』
女神の指先が糸を操る。
空間がきらめき、次の瞬間――二人の姿は、音もなく消えていた。
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残されたのは、静寂と、ただ冷えた風だけだった。