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今日はいつもと違ってやけに静かな朝だった。
病院内には、爽やかで優しい風が漂っている。
俺は何だか嫌な予感がして、病室内をそっと覗いた。
「は…………っ」
そこには、信じがたい光景が広がっていた。
俺はその場で崩れ落ちた。
なんで、なんでこんな事に―――!!
「海青と翔太、それに那子ー!朝ごはんよー!」
『はーい!』
母のその声と共に、二人はそそくさと階段を降りてゆく。
俺はそれを無視して、自分の部屋の机でスマホを触っていた。
すると下から母の声が聞こえた。
「海青!早く来なさい!」
「今行くって!!……クソ、イライラする。」
俺はスマホを少し強めに机に叩きつけた。
後に後悔することになったが。
階段を降りていると、母の声や音はすでに無かった。
仕事に行ったらしい。
二人は朝食を先に食べていて、部屋はとても賑やかだった。。
「あ、そうだったかw!あははwそれはヤバいでしょw」
そんな笑い声が響く中、俺が階段を降りると 途端に部屋は静まり返った。
「あ……おはよう。」
「…」
「じゃ、じゃあ、私達も学校に行こっか!ね、お兄ちゃん!」
「そーしよ!海青、先に行っとくぞー?」
「は?なんで?」
「なんでって…食べ終わったから…」
「そうだけど。何か文句ある?」
「無い。」
「そ。じゃあ行こ?那子!」
「うん、行こ行こー!」
「……っ」
玄関から二人揃って仲良く出ていく後ろ姿を、俺は一人で眺めていた。
俺は最近、違和感を感じている。
それは、俺との仲についてだ。
兄の翔太(しょうた)と妹の那子(なこ)は、それぞれ高1と中1。
そして真ん中の俺――海青(かいせい)は中3だ。
昔はいつも三人揃って行動していた記憶がある。
だけど今は違う。
俺が毎回毎回省かれて、一人で行動するハメになる。
俺に対して、家族が冷たい気がする。
何かした覚えは無いのだが…
「何かしたっけ…」
俺は、常にそればかり考えている。
そして独りで学校に歩いていく。
正直寂しいけど、そんな事今の年齢じゃ言えるわけ無い。
俺はまた ため息をついた。
―――その頃、二人の様子
俺達二人は、高校と中学別々だが、途中まで毎日一緒に通っている。
友達の誰かとすれ違うと、「シスコンかよー笑」とからかわれるが、実際そうなのかも知れないなぁと感じる日々。
そんな中俺達は、弟である海青の話になった。
「海青、あいつ絶対、あの事気にしてるよな……」
「そう、だね…」
那子は、寂しげに答えた。
俺は心の真ん中に穴が開いたかのように、虚しい気持ちになった。
「俺が病気なんて言ったら、あいつ何て言うだろ…」
「毎日病院に来て、忙しくなるだろうね。きっと。」
「だよな……」
実は、俺は海青に隠している事がある。
それは、俺の持病の事だ。
那子には教えているのだが、俺は「脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう)」いわゆるSMAという病気を持っている。
この病気は、だんだんと筋肉が弱っていき、力が入りにくくなる病気だ。
俺はかなり酷い方で、まだ普通に筋肉は動くのだが、少し弱ってきてはいる。
余命は、半年ほどと診断された。
俺は、精一杯残りの人生を楽しもうと頑張っている。
だけど、それに伴って 症状は悪化する。
4ヶ月ほど経つと、歩く事も難しくなると言われた。
だから余計に、海青には伝えたくなかった。
しばらく黙り込んでいると、那子が話し出した。
「………海青ってさ、意外と優しいよね。」
「だな。あいつ、ああ見えて繊細な性格だしな。俺のことは、ギリまで知らせないでおこうと思う。」
「そっか___。」
那子は哀れみを帯びた顔つきをしていた。
そして、那子の頬に涙が一筋 伝った。
そんな那子を、俺は抱きしめた。
力は弱り始めていて、強く抱くことは出来なかった。
「那子、ありがとう―――」
声も弱々しくなっていた。
俯いている那子と一緒に、俺も涙を流した。
ただ辛かった。
―――だけど、那子と海青の事は一生忘れない。
この家に生まれたこと、幸せだったと思う。
最後に病室で、皆に見送られて死にたいと思う。
それが、俺の最後の使命だ。
でもまずは、命を全うすることが先。
俺は那子の手をしっかり握りしめて、感触を確かめた。
そして高校に向かった。