テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
――高校終わり
俺は高校終わり、たまたま道中で会った海青と家に帰っていた。
だが運の悪いことに、俺は途中で苦しくなってしまった。
要因は分からないが、那子は今ここに居ない。
居てくれたら、状況を理解してくれたと思うが…
今、海青に伝えるか?
それとも、家まで我慢する…?
そう悩んでいると、次第に力が抜けていった。
視界は歪み、どんどん意識が遠のいていく。
海青の声が聞こえた気もしたが、俺はついに意識を失ってしまった―――。
「しょ――― お――い、しょ―――」
「んん……っっ」
「起きた…?起きたぞ!意識を取り戻した!兄ちゃん、意識を取り戻したぞ!!」
「え…海青…?」
「兄ちゃん… なんで言ってくれなかったんだよ――!!」
俺は理解が追いつかなかった。
何を言っているのか、今どこに居るのか。
しばらく周りを見渡していると、ここが病院だということにやっと気づいた。
___俺は高校からの帰りに倒れて、意識を失ったんだ。
そこからはよく分からないが、病院に救急搬送されたんだろう。
そして意識を取り戻した今、海青が話してきているという訳だ。
本当は知られたくなかったが、病気だという事がバレてしまったのかも知れない。
必死に俺に話す海青の隣には、那子が無言で棒立ちしていた。
だが、ついに口を開いた。
「お兄ちゃん、……」
その言葉の意味は分からない。
なんのために言ったんだろうか。
俺は考える。考える。
那子は、寂しげな顔をしていた。
そして 近くに居た医者が、俺の考えを読み取ったかのように話しだした。
「翔太さん……貴方は、病を隠していたんですね。」
「…」
俺は何も言えなかった。
海青が悔しそうな顔をしている。
那子と横に居たお母さんも、口を閉じたまま。
「しっかり、ご家族さんと全員で、のこ……いや、楽しむように。」
「のこ――?」
「何でもありません。では。」
医者は、何か言葉を言いかけた。
それに対し、海青は不思議そうに首をかしげている。
だが、俺は知っている。
医者が言おうとした言葉を―――
医者は、「残りを楽しむように」と言おうとしたのだ。
でもそれを、あえて止めた。
それは、何も知らなかった海青が居たからだ。
そして、俺を悲しませないようにしてくれたんだろう。
___その後も、俺達はしばらく何も話せなかった。
そんな中口を開いたのは、またしても海青だった。
「なんで俺だけに、黙ってたんだ…?」
「……っ」
俺が言葉に詰まっていると、那子が会話を遮るように話し出す。
「……二人共、家に帰った方が良いわ。」
「は!?まだ兄ちゃんが___」
「海青は黙ってて。私は残るわ。」
「…分かった。」
海青は仕方なくそれを認め、お母さんも何も言わず、部屋から出ていった。
二人が部屋から出ると、那子が俺に話しかけた。
「面倒な事になるわ…、これ。」
「そう、だな……」
「これからは、海青と一緒に帰ったり、そういうのはしない方が良い。絶対。」
「―――ごめん。そうする。」
「お兄ちゃんは謝らなくて良いの。でもね…っ」
そう言いながら、那子は横たわる俺の手を握る。
「最後までっ、楽しんでね…っ」
「っ……、ああ。当たり前だ。」
「じゃあ、私 御手洗いに行ってくるわ。ちょっと待ってて――。」
「うん。」
那子が部屋から出ていった瞬間、俺の目から涙が零れ落ちた。
ベッドの布団がみるみるとにじんでいく。
「(俺のために心配してくれる人が、こんなにも沢山いる…)」
「(俺は幸せ者だ。最後の最後まで、一緒に頑張ろう――っ)」
「(泣いてどうする、俺…!こっからが踏ん張り所だろ…!)」
そう思えば思うほどに、自分から力が抜けていく気がした。
筋肉が衰えるのは当たり前だが、それ以上に精神が厳しい。
病の本当の恐ろしい所は、精神面も衰えていく事。
怖い。辛い。逃げ出したい。
そんな願望は叶えられない。
だけど、それもを乗り越えてやっと、幸せが見つけられる。
―――そんな気がしていた。
「よし、頑張るぞっ!!」
俺は、力を振り絞って 拳を握りしめた。
コメント
5件
続きが楽しみだっピ!
これからも短編小説を中心に書いていくつもりです!