国産のSUV車は昔元夫の俊之が乗っていたので車高の高さには慣れていたが、
高級外車のSUV車に乗るのは初めてだ。
車内はほんのりと上品なシトラスの香りが漂い、高級感溢れる革張りのシートは座り心地が抜群だ。
BGMには緩いジャズが流れ、車内はまさに大人の空間といった雰囲気だ。
雪子が助手席に座り緊張気味にシートベルトを締めていると、俊が運転席へ乗り込む。
「すみません」
「いえ、気にしないで下さい。それにしても凄いお買い物ですね。お客様か何かですか?」
俊は普段こんなぶしつけな質問はしないのだが、雪子がこの食材を誰に振る舞うのかが気になり、
勝手に言葉が口をついて出る。
「あ、ええ、息子が久しぶりに帰って来るのでつい買い込んでしまいました」
雪子は恥ずかしそうに言った。
(息子か…….)
恋人ではないとわかり一瞬ホッとしたが、息子がいるなら既婚者の可能性が高い。
そう思うと俊は再び表情をこわばらせた。
「そうでしたか。久しぶりの帰省なら嬉しいでしょう。さぞご主人もお喜びでは?」
俊の口は、また勝手に暴走を始める。
(俺は一体何を確かめようとしているんだ?)
その時雪子が答える。
「いえ、うちは母子家庭なので。2人きりの家族なものですから、子供が帰ってくるとつい嬉しくて」
(母子家庭だったのか…)
俊はその時やっと自分の中の緊張がほぐれるのを感じた。
「そうでしたか。私も母子家庭で育ったので、たまに帰ると母が手料理をいっぱい用意してくれていたのを思い出しますね。い
や、なんだか懐かしいな」
俊が母子家庭だったと聞き、雪子は急に親近感が湧いた。
「お母様はお元気でいらっしゃいますか?」
「いえ、10年前に亡くなりました」
「……そうでしたか、それは残念ですね」
「はい、もうちょっと長生きして欲しかったです」
俊はしみじみと言う。
俊は母子家庭で育った。
小さい頃に両親が離婚し、幼い俊を連れた母は実家へ戻った。
俊に父親の記憶はほとんどない。
両親の離婚理由は、父の浮気とギャンブルだった。
離婚後母は実家の力も借りながら、俊を大学まで行かせてくれた。
だから俊は仕事で成功した後、祖父母や母親に仕送りを欠かさなかった。
忙しい時期はなかなか実家に帰る事が出来なかったが、
仕事が落ち着いてからは、母をよく旅行へ連れて行った。
母が希望した温泉や観光地に、時間の許す限り一緒に行く。
母がずっと憧れていた日本一周の船旅にも、なんとか時間をやりくりして連れて行った。
夢だった船旅へ連れて行ってもらった母親は、とても喜んで息子に何度も礼を言った。
その時の嬉しそうな顔は今でも目に焼き付いている。
しかしその船旅から二年後、母は突然病で亡くなった。
本当にあっけなく逝ってしまった。
俊がその時の事を思い出していると雪子が言った。
「でもきっと天国から見守っていらっしゃいますよ」
雪子は俊の事を励まそうとしたようだ。
「ありがとうございます」
やがて車はメイン通りから細い道へ右折する。
その道の突き当りに雪子の家はあった。
俊は突き当りまで行くと車をUターンさせてから雪子の家の前に車を停める。
家の前にあった段ボール箱は既に撤去されていた。
「お父様の本は、全て貰い手が見つかったのですか?」
「はい、おかげさまで。最後4~5冊残りましたが他の本と一緒に業者に引き取ってもらいました」
「そうでしたか。それはホッとしましたね」
「はい。なんとか片付きました」
雪子がニッコリして言う。
「送っていただきありがとうございました」
「いえ…」
俊は運転席から降りて雪子の荷物を下ろしてくれた。
荷物を受け取った雪子は、もう一度ありがとうございましたと言ってお辞儀をした。
「じゃあ失礼します」
俊は運転席へ戻ると、アクセルを踏み込みその場を後にした。
コメント
2件
俊さんめーーーーーっちゃくちゃ喜んでるね🤭なんなら駐車場から玄関先までスキップしてるかも♪(*ᐛ و(و "♬
俊さん気になりますよね〜🤭‼️でもしっかり確認できて同じ母子家庭って情報もゲットできて距離が縮まった感があって良かったのでは😊🌷⁉️