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僕と小出さんは、お互いに非日常の衣服を纏いながら、会話を交わし合った。寒空の下で、胸に温かなものを感じながら、僕は小出さんとの日常に改めて感謝をした。
「……あのー、すみません」
僕と小出さんが手を取り合っていると、少し細身の男性が僕達に声をかけてきた。胸から下げたやたらと大きくて立派なカメラを構えながら。
「そのコス、かつらちゃんですよね? 私も大好きなんですけど、一枚よろしいですか?」
「ふぇ!? い、一枚……!?」
男性の言葉を聞いて、僕と小出さんは顔を見合わせた。一枚というのは、恐らく写真のことであろうことはすぐに分かった。他のレイヤーさん達の様子を見る限り、ここではこれが普通なのだろう。
とはいえ、写真を頼まれた小出さんはというと──
「あ、え、ええ!? しゃ、写真は……ええと……そ、園川くんどうしよう!」
あわわと慌てふためきながら、僕に助け舟を求めてきた小出さんである。
でも、どうしようと言われてもなあ。僕、初参加だし。
「うーん、小出さんが嫌じゃなければ、せっかくだから撮ってもらったらどうかな? 小出さんはどうしたいの?」
「わ、私は……は、恥ずかしいけど、と、撮ってもらいたい、かな。あ、あの、すみません。インターネットには載せないでもらえますか? 個人で楽しむ分には……だ、大丈夫ですので!」
ピクッ──と。僕は顔を小さく引きつらせた。この人は小出さんのコスプレ写真を『個人で楽しむ』ことになるわけだから。ボーイフレンドの僕としてはいささか複雑である。僕の小出さんだけじゃなくなるような、妙な感じ。
「大丈夫です、載せないですよ。それじゃポーズと目線ください。お願いします!」
「ぽ、ポーズ……!!?」
カメラを構える男性の言葉に、小出さんはあわわあわわしながら手に持っていた弓を構え、そして──
「わ、私は魔法少女に、なる!」
足を肩まで開いてポーズを取り、写真を撮るのに必要ないであろう作中のセリフを口にした。いや、キャラになりきるためには必要なのかな? この界隈のことは知識が皆無だから全然分からないや。
でも小出さん、わりと楽しんでいるみたい。むしろノリノリ感が。小出さんが楽しいなら、僕も楽しい。
と、思っていたのも束の間。
「すいませーん、僕も一枚いいですか?」
「あ、私も一枚失礼しまーす」
「ぼ、僕も一枚ください……!」
──と。あっという間に、小出さんの周りに人集りができてしまった。十人程のカメラマンに囲まれた小出さん。人見知りの彼女にとったら大ピンチである。
「ぴぎゃー!! え、うそ!? こ、こんなに大勢の人が……えーー!!?」
というわけで、小出千佳プチ撮影会が開始された。恥ずかしがりながらも皆んなに目線を配ったり、ポーズを変えたりしながら、各々にしっかりと要望に応えている。
でも、無理をしてないかちょっと心配。
「小出さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ園川くん! 今は私、魔法少女だから! これくらい平気なの!」
すごい……小出さんがすっかり『かつらちゃん』になりきっている。本当にコスプレ好きだったんだなあ。なんか輝いて見えるよ。写真撮られるのにも慣れてきたみたいで、時折笑顔も見せるようになってるし。
「はい、こっち目線ください!」
「こっちもお願いします!」
「かつらちゃん、めっちゃ可愛いです!」
「ポーズ変えてください! あ、可愛い!」
カメラマン達は思い思いに口を開いては、パシャリパシャリとシャッターを押す。
しかし、僕は若干のイライラを感じていた。なんだろ、この気持ちは。小出さんを見つめる皆んなに対して、モヤモヤした苛立ちを覚えてしまう。
「はい! 皆さん、もう終わりです! なので解散してくださーい! 小出さんも! 一度離れるよ!」
「ふぇ!? そ、園川くん!? まだ途中……ああ、手引っ張らないで!」
* * *
撮影会を強制終了させ、小出さんの手を引っ張ってエリアの端に移動した。カメラマン達は呆然と僕達を見送っていたけど、そんなことはどうでもよかった。
「園川くん、どうしたの……? な、なんか怒ってない? 私なんかしちゃった?」
僕の顔を心配そうに見つめながら、小出さんは訊いてきた。別に怒っているわけじゃないんだけど、なんか嫌だ。褒められながら写真を撮られる状況そのものが。
「ごめんね。小出さんが皆んなに写真撮られたり可愛いって言われるの見てるのが、なんか我慢できなくて」
小出さんはきょとんとしながら僕を見る。そして何かに気付いたようで、口元を隠し、くすくすと小さく笑い出した。
「園川くん……嫉妬してくれたんだ」
嫉妬。小出さんに言われて、気が付いた。そうか、先程からのイライラはそれだったんだ。僕は、小出さんに嫉妬していたのだ。
「あ、あー……うん、そうなのかも」
改めて言われると、とても恥ずかしくなり、意味もなく頭をかいた。それを見て小出さんはまた笑い、ポケットからスマートフォンを取り出した。
「園川くんに嫉妬してもらっちゃった。なんか……すっごく嬉しい。ありがとう」
そして小出さんは僕に身を寄せ、スマートフォンを空に掲げた。画面には僕と小出さんの二人の姿がちょうど収まっている。
「ねえ園川くん? 二人で一緒に写真撮ろ? コスプレした記念に二人きりで。だから、もう嫉妬しないで平気だからね」
ふわりと小出さんの甘い香りがする。そして彼女はカシャっとシャッターを切った。
スマートフォンの画面の中で、微笑んだ小出さんと、ちょっとバツの悪そうな顔をした僕が写っていた。まるで時間を切り取ったかのように。
「あとで写真、園川くんにも送るね。……初めてだね、二人で写真撮るの」
「……そうだね。今まで写真撮ったことなかったもんね」
きっとこれから、僕と小出さんの思い出はたくさん増えていくと思う。そのたびに、こうして写真に収めていくことにしよう。
その時にしかいない、その時だけの小出さん。時間は戻ることができない。だったら、僕はその時間の中にいる彼女を切り取り、大切に仕舞っておきたい。
「じゃ、じゃあさ、良かったら今度園川くんのためだけの撮影会しようよ! たくさん撮ってね、私のこと!」
【続く】
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