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ねこなさま🩷🎀@ペア画中
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今日は二月十四日。
学校の教室内がいつもとは違うそわそわした雰囲気で満たされている。そりゃそうだ。年頃の男子なら意識してしまうのも無理もない。
どうしてなのか。それは、今日はバレンタインデーだからに他ならない。
「皆んなの気持ち、分かるなあ。僕も同じくな感じだし」
隣の席をチラリを見やった。席の主はまだ登校していないようで空っぽのままだ。それがまた、僕の胸のを三倍の速さでドキドキさせた。
「どんなチョコをくれるのかなあー。今からすっごい楽しみだよ」
僕がお付き合いさせてもらっている女の子、小出千佳さん。小説やアニメなどのオタク文化をこよなく愛する個性的な女の子。そんな彼女と交際を始めてから初めてのバレンタインデーなのだ。ドキドキせずにはいられない。
「あー、小出さんが登校してくるのが待ち遠しいよ」
小出さんもきっと、今頃僕と同じようにドキドキしているに違いない。
だって、バレンタインデーといえば女の子にとって一年で最も気合いの入るイベントのひとつと言って過言ではないから。それは小出さんにとっても同じに違いない。……だよね?
と、いうわけで。僕は小出さんがチョコを手渡してくれた時のイメージトレーニング現在進行形である。それだけで自然と口元が緩んでしまう。
小出さんは僕にとんなふうにチョコレートを渡してくれるんだろう。
「去年の十一月にはこうなるだなんて思いもしなかったなあー」
そう。僕は小出さんに声をかけるところからがスタートだったんだ。クリスマスイヴには絶望の淵にいたというのに。人生って本当に不思議なものだ。何が起こるのか分からない。
だからこそ、人生は楽しいんだ。
「チョコをもらったら、僕はどんなリアクションを取るべきなんだろう?」
とか、なんたかかんがえているけど、難しく考えても意味もないし無駄なだけだ。今の僕にできるのは、その気持ちを全力で受け止めるだけだ。
小出さんの、彼氏として。
若干重すぎるような気がする僕の想いと意気込みだけど、無理もない。何故なら、僕──園川大地はこの世に生まれて十七年、一度もバレンタインチョコレートなるものを貰ったことがないのだから。
なので、ついにこうなってしまった。
「チョコなんて貰ったらどういうリアクションすればいいのか分からないんだよーー!! そうしたら気合いしかないでしょ! 重いと言われようと、気合いで小出さんの愛を受け止めるしかないでしょ! お付き合いしているといっても、改めての小出さんからの愛の告白には変わりないんだから!」
「ひゃっ! そ、園川くん、どうしたの? びっくりしたー! 話しかけようとしたら、急に立ち上がって大声出すんだもん!」
バレンタインデーに対する想いを胸の中で爆発させたつもりだったけど、つい言葉にしてしまっていたらしい。小出さんは驚いてるし、クラスの皆んなも何事かと思ったのか、コッチに視線を向けていた。や、やってしまった……。
「あ、ああ、おはよう小出さん。ごめんねビックリさせちゃって。ちょっと色々と思うところがあってね」
「う、うん。お、おはよう園川くん。あ、あのさ……今日ってさ……えと、その……」
小出さんはそう言うと、周りをキョロキョロ見渡しながら気にする素振りを見せ、バッグをゴソゴソし始めて何やらを取り出そうとしている。
まさか……こ、ここで……小出さんはここで僕にチョコレートを渡そうとしているのか……!?
想定外だった。クラスの皆んながいる中で渡されたりしたら、僕はどんは反応をしたらいいんだろう。
小出さん、僕も愛してるよ! みたいなことを言った方がいいのかな? でも、クラスの皆んなの視線はすでに集まっちゃってるし。そんなことを口に出したら教室内の男子から怨念じみたものを込められながら、ジトーっとした目で睨まれるに違いない。
いやいや。でも小出さんがそんなシチュエーションを望むなら、僕もそれに応えなければいけないだろう。男ならやってやる……! 小出さん、どんと来い。クラスの男子のヘイトを集めようが、僕はキミの愛を全て受け止めてみせるからね!
と、僕なりの覚悟を決めた時だった。
「きょ、今日は『方向音痴の僕が道に迷い、気がついたら異世界でした』の最新刊の発売日だったんだよ! 朝、駅前の本屋さんで買ってきたの! 見て! 素敵な表紙!」
──と、小出さんはバッグの中からピカピカ光る買ったばかりの小説を僕に見せてくれた。そして周りの皆んなに見つかる前に、それをそそくさと机に仕舞い込み、落ち着かない様子で両手をもじもじさせている。
「そ、そうなんだ。それであの……きょ、今日は他にも大切なイベント日だと思うんだけど」
「い、イベントは、その……。と、とりあえず今日は小説の発売日です……あはは。はい……」
ちょっと寂しそうに、小出さんはそう呟いた。もしかして小出さん、めちゃくちゃ意識しちゃってる? あえてバレンタインデーの話題を出さないようにしてるように見えるし。それに、改めて見ると顔から耳まで真っ赤だ。
だったら……待つ。
小出さんの心の準備ができるまで、僕も気にしない振りをしながらその時を待つよ。
バレンタインデーは、まだ始まったばかりだ。
【続く】