第六話「渇望する者」
🔪アリアの正体
夜の路地裏に、ひとりの少女が立っていた。
その身体は細く、まるで風が吹けば折れてしまいそうだった。
長い灰色の髪は湿気を帯びてぺたんと張り付き、顔色は死人のように青白い。
服はシンプルな黒のワンピース――ただし、すでに”何かの血”で濡れていた。
アリア・ラングレイ。
彼女は「殺人を理解できない」殺人鬼だった。
「……私、殺したの?」
静かに、彼女はそう呟く。
手を見る。
爪の間にこびりついた赤黒い血。
それが”誰のもの”なのか、彼女には分からなかった。
「ねえ、スケアリー……私は”人間”なの?」
🔪スケアリーの実況「渇望の料理」
スケアリーは、満足げに目を細めた。
「おお……”極上の素材”が来たねぇ。」
彼はアリアをじっと見つめる。
「殺したのに、”殺した実感”がない。”罪悪感”も”快楽”も感じない。”空っぽ”なんだねぇ。」
スケアリーは指を鳴らした。
「つまり……この”料理”には、”旨味”を足さないといけないわけだ。」
彼は、ユリウスを見やる。
「ユリウス、この食材……どう仕上げる?」
ユリウスは、じっとアリアを見つめた。
彼女の目は”焦点”を持たず、ただ虚無に沈んでいた。
「……”渇望”してる。」
ユリウスは静かに呟く。
「何かを。”埋めるもの”を探してる。」
スケアリーは、にぃっと笑った。
「そうそう!料理ってのはねぇ、”不足してるもの”を”補う”ことで完成するんだよ!」
「アリアには”渇き”がある。”満たされない渇望”がね。」
彼は恍惚とした表情を浮かべ、スプーンを回すような仕草をした。
「じゃあ、たっぷり”恐怖”を加えて、”濃厚な殺意”を引き出そうか。」
🔪アリアの殺意を解放する「調理」
スケアリーの「料理」は、まず”食材の下ごしらえ”から始まる。
「さて、アリア。”渇望”を満たすには、”本当の殺意”を引き出す必要がある。」
アリアは静かに首を傾げた。
「……”本当の殺意”って?」
スケアリーは、口元をぺろりと舐めた。
「簡単なことさ。”お前が今、一番殺したい相手”を明確にするだけ。」
アリアは、じっと考えた。
“一番殺したい相手”。
彼女の中にある空虚な心。
それが向かうべき方向は……
「――私、”あの人”を殺したい。」
アリアの唇が、かすかに動いた。
🔪次なる標的
スケアリーは、その言葉に満足げに頷いた。
「いいねぇ。”殺意”が生まれた瞬間……それが料理の”火入れ”の始まりだよ。」
ユリウスは、アリアの顔を見た。
先ほどまで虚ろだった目に、かすかに”色”が宿っている。
「ターゲットは?」
アリアは静かに呟いた。
「……私の”作り主”。」
スケアリーの目が、妖しく輝いた。
「へぇ……つまり、”お前をこうした存在”ってこと?」
アリアは、小さく頷いた。
「私は……”作られた”。この世界の誰かに。”殺人鬼”として。」
スケアリーは、ゆっくりと舌なめずりをする。
「おやおや……これは、思ってたより”深い味”になりそうだ。」
彼はユリウスの肩を叩きながら、にやりと笑った。
「ユリウス、これは”特級の料理”になるぞ。」
ユリウスは、アリアの目を見つめながら、ただ黙っていた。
(……俺は、何を観察してるんだ?)
(これは、本当に”人間”の話なのか?)
🔪スケアリーの食レポ「殺意の渇き」
「さて、今回の料理のポイントは”渇望”だねぇ。」
スケアリーは、恍惚とした表情を浮かべながら語る。
「”殺意の渇き”は、ただの空腹とは違う。”飢餓”と同じなんだ。」
「何も食べないと、どんどん”本能”が狂っていく。”常識”が崩れて、”殺人”が”食事”みたいに感じるようになる。」
彼は、アリアの目を覗き込む。
「今、お前の中には”飢え”がある。それを満たすために、”最高の料理”を作ろうじゃないか。」
アリアは、静かに息を吸った。
「……私は、”お腹が空いた”の?」
スケアリーは、にこりと微笑んだ。
「そうさ。”殺意の空腹”。”殺しの飢餓”。お前の胃袋は、もう”普通の食事”じゃ満たされないんだよ。」
アリアは、一瞬だけ迷ったように目を伏せた。
だが、その瞳が再び開かれた時――そこには”確かな殺意”が宿っていた。
「……”料理”を始めよう。」
スケアリーは、満足げに頷いた。
「さぁ、”最高の食材”を解体しようか。」
次回 → 「殺人鬼の創造者」
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