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ニソシ
🧠あきめると🍥
霊感というのは、細かく色んな分類が分かれている。
視えるだけ、聴こえるだけ、気配を感じ取るだけの人もいれば、視えるし聴こえるけれど何処に居るのか位置が分からない人もいる。
霊体にも本当に様々な種類が存在するので、普通に彷徨う死霊だけが視える人もいれば、かなり強い存在感のある霊体しか感知しない人もいる。
弱い霊体をきっちり感知したり、人ならざるものを感知する人は霊感のレベルも高いらしい。
生まれつき備わってる人もいれば、何かをきっかけに霊感が開花する人もいる。
例えば、友達と自分の目の前に同じ霊体が居るとする。
友達も自分も視えるタイプだとして、その霊体が人ならざるものであった時、二人共目の前の霊体が全く同じ容姿に視えているとは限らない。
片方には人の悪霊に視えるが、もう片方には人の容姿どころか、霊体の本質である化け物に視えている場合がある。
S兄が良い例だ。
私には元からS兄の本質である角も視えていたが、視える友達には人の悪霊だと思われていた。
私も幼少期から様々な魑魅魍魎が視えてきたが、周囲の大体の人達はそんなもの感知もしないことが多い。
たまに同じような体質の人もいるが、同じ容姿で視える人は今の夫が初めてだった。
夫はS兄に角があるから鬼だと最初に言い当てた。
そしてこの霊感には、幾つかタブーが存在する。
そのひとつに「嘘をついてはいけない」と、こんなものがある。
嘘といっても、怖がりな友人の前で視えているものを伏せて「何もいないよ」という優しい嘘ではなく、何も憑いていない友人に「幽霊が憑いているよ」などとありもしないことを捏ち上げる嘘のことだ。
実際にあった心霊体験は幾つ話しても大体は構わないが、その時に事実を捻じ曲げて嘘をつくのも本来はタブーなのだとか。
要するに話を盛って怖くしようとか、話の中で出てきた幽霊を捏造するとか。
本人が直接感知したものなら口に出しても時と場合によっては大丈夫(まあ存在を認知されると喜んでこちらに来る)だが、捏造した霊の存在をあたかもそこに居るように言うと、その人はどうなるのか。
これは学生時代の実話である。
私はその頃、通信制の学校に編入していた。素行が悪くて授業をサボりにサボった為、三年なのに単位を落とした。このままでは卒業できないと、当時の担任が頭を抱えた末に勧めてくれたのが、通信制の学校だった。
一応毎日登校するのだが、必要な単位を取るためだけに行くので、朝から行く必要もない。
私達の学年は、半年後に卒業を控えていた。
小規模な学校だったので生徒数も少ない。そこで出会った友人を、ここではAとする。
Aは同級生の男子だった。結構な目立ちたがり屋で、一度クラスが一緒になった時にふとしたことで私が色々視えていることを知ったらしい。
私は彼に質問された答えをそのまま返すようにしていたので、「俺には何が憑いてる?」とか「クラスのアイツには何か憑いてる?」とか、それは鮮明に何が誰に憑いているのかをしつこく訊いた。
否定する奴ではなかったし、危ないものも近くにいなかったので素であるがままに答えると彼はいつもオーバーリアクションで話に乗り、終始満足気だった。
当初は、本人が楽しんでいるならいいやと思っていた。ただ気になったのは、彼の背後の守護がかなり弱いこと。
おそらく先祖だと思うが、Aがオカルトに両足揃えて飛び込む性格だからか、私と絡むようになってから先祖の守護は酷く窶れていった。
それまではおそらく弾いていたものが、徐々に弱って弾けなくなっていったのだと思う。
そんなことをAは知るはずもなく、絡む時の話題は専ら心霊話だった。
私も心霊話が大好きだった上に(当時はまだ自力では祓えなかったが)守護も強かったので、話す内容次第で寄ってくる霊は居たけれど、それはそれで楽しかった。
寄ってきた霊はS兄や憑依守護が対応できて、私自身は安全だったからだ。
三ヶ月ほど経ったある日、Aが唐突に「俺も幽霊視えるようになった」と言った。
私は他人の霊感もあるかないかオーラというのか、その人の色で大体分かる。Aには特殊な色はなかった。
Aは私の傍にいたことで、霊感が伝染したのだと解釈した様子で、かなり喜んでいた。
視える人には視える人の色がある。でもAにそんな色はないので、何か視えているとは到底思えない。
確かに霊感は、一緒に居れば伝染することもある。
物凄い霊感持ちな人の傍に四六時中居れば、時折何かの弾みで視界に本物の幽霊が入ることは珍しくない。
私は試しに、何もいない教室の隅を指してAに訊いた。
「あそこに立ってるの、何か分かる?」と。
そこには何も居ないのだが、Aは指した場所に視線をやると、興奮したように頷いた。
「血塗れの女がいる!」
ベタな想像しやすい女の霊が居るらしい。そんなもの、私には視えない。
まあ一概に否定はできないので、一応憑依守護のあさかにもこっそり訊いたが、やはりあさかの特殊な百目でも視えないと言った。
つまりそれはおそらくAの妄想ということになる。
「頭から血塗れで服も真っ赤!凄え!!俺にも視える!!」
あまりにもAが喜ぶので、否定するのはやめておいた。
いつも私の心霊体験をそのまま鵜呑みにして聞いてくれるから、別に二人でネタとして盛り上がるなら何でもいいやと大して気にしなかった。
ところが、Aはその日のうちに他の同級生に向かって「Bの背後に爺さんがいる!」などと言い始めてしまった。
Aや私はオカルト好きだが、その他の同級生はそんなもの興味もなければ、怖がりだとそもそも嫌がる。
偶然にもAが伝えた相手、Bは怖がりだった。Bは見るからに慄いて「え、やだ無理、怖いからやめて」と席を立ち上がってソワソワしていた。
私もわざわざA以外の周囲に視えることは伝えていなかったので、あえて介入はせず遠巻きでその様子を観察していた。
Bの怖がる反応に満足したのか、Aは興奮気味に戻ってきた。
「で、その爺さんの特徴は?」
一応訊けば、「鼻に大きなホクロがある、骨と皮みたいな爺さんだよ。紺色に一部白いボーダーの甚平みたいな服の」とAはやけに具体的に言う。
そんな爺さん、私には視えなかった。その友達の守護は女性だったし、特に変なものも憑いていない。
まあそもそも、私が何と言ってもクラスに同じくハッキリ色々と視える子なんて居なさそうだったから、Aの好きにすればいいやと思った。
……最初は。
異変が起こったのは数日後。土日を挟んで月曜日になり、単位の為に登校すると、いつも時間ギリギリに到着するAが珍しく先に来ていた。
「おはよ」と声を掛けると、先週あれだけ歓喜だったAが一転、泣きそうな顔をして振り返った。
「どうしたの?」と訊く前に、異変に気付いた。
Aの背後に何か憑いている。二人の男女だ。片方は頭から血を流して服まで染まった痛々しい見た目の女。
そしてもう片方は、片目が空洞になっている痩せ細った甚平姿の老人だった。Aが言うような鼻のホクロは見当たらない。
二人の共通点として、身なりがボロボロだった。肌の色も青白いというより、灰色に近い。状態が悪いのは一目で分かった。
「俺さ……お前の霊感まじで感染ったかも」
Aの目の下にはクマができていた。
「先週の金曜日に視えてからさ……憑いて来るんだよ、コイツら……」
そう言いながら、誰も居ない左右を指す。実際に本物が居るのは背後だ。左右に霊的なものは居ない。
Aが何も居ない空間を指して「幽霊が居る」と言った瞬間、今まで他の友達や先生に憑いていた複数の浮遊霊が全員バッとこちらを見た。
暗い面持ちで佇んでいた浮遊霊の口角が、Aの言葉を聞いて一斉に上がった。それが逆に不気味だった。
口角を上げた浮遊霊達は、わらわらとAの周囲に集まってきた。
これまで私はそのまんま視えたものを口に出していたから、この時初めて、居もしない場所で「幽霊が居る」と嘘をついたら、周囲の浮遊霊が一斉に集まってくることを知った。
Aの顔を覗き込んだり、肩におぶさったり。浮遊霊達が人間に取り憑く瞬間を垣間見て、何だか具合が悪くなった。
Aはその日ずっと「寒い」「重だるい」と呟き、複数の浮遊霊を引き連れて下校した。
翌日になると、Aの周りの浮遊霊が更に増えていた。Aは視えている訳ではなさそうだが、近くの浮遊霊を肌身で何となく感知しているようで、浮遊霊の居る空間に手を翳しては「此処に居る」と言うようになった。
日に日にはっきり感知するようになったAの周りには、より一層霊が集まる。悪循環だった。
その頃はまだ私も祓うほどの力はなかったので、二週間ほど様子を見た後、これはまずいと思って放課後にAを呼び出した。
「Aの霊感さぁ……ない方が良かったと思うんだよね」
話が合うのは楽しかったけど、と素直にそう述べると、Aがげっそりとした顔を向けた。余程眠れないのか、クマが悪化している。
「俺も最初は本気で幽霊視たいと思ってたんだけどさ……オカルト好きだし……でも、こんなに寄ってきて、夜は毎日金縛りに遭うとは思ってなかった」
少し後悔しているようにAは手で顔を覆った。
私の日頃の苦労を身に染みて体験したな、と客観視しながら思った。
「正直キツい……」
Aが本音を漏らす。そこまで言うなら仕方ない。
「じゃあ、霊感を手放す方法を一応教えるね。全員に効果があるかは分からないけど、とりあえず一時的には離れてくれると思うから」
正確な手放し方は知らないが、過去にやってみて効果があった方法をAに教えた。
やり方は簡単だ。
「霊なんて 居なかった 視なかった 聴かなかった 知らなかった」と、わざと口に出して否定的な自己暗示をかけるのだ。
何故だか知らないが、存在を全て否定すると、まるで開いた眼が閉じるようにぱったりと認識できなくなる。
そして、善悪関係なく、守護さえもかなり遠くに飛ばされる。
Aの守護はもうとっくに逃げ出していたから、彼の場合は周囲の霊体が弾かれるはず。
Aはその場で呪文のように、教えた言葉を連呼した。
居なかった、そんなもの居なかった、と呟けば呟くほど、やはり不思議と憑いていた浮遊霊が弾かれて遠くへと消えた。
しばらく連呼していると、やがてAの周囲には何もなかったかのような綺麗な空気が漂い始めた。
どういう原理なのか不明だが、私も前の学校で霊障に苛まれた時に試したら、S兄も含めて全員弾き飛ばされたから、少なくとも効果はあるのかもしれない。
「……なんかちょい軽くなったかも?」
Aは肩を回しながら周囲を見渡す。
「あれ?居なくなってる」
物凄く不思議そうに首を傾げながらも、Aは嬉しそうだった。
最初から霊感なんてないならないで、それでいい。あるならそれなりの対応をしなければならないから、視えない人の方がその手の苦労は少ない。
Aにオカルトじゃない別の物に興味を移すよう伝え、それ以降Aも放課後のスポーツに打ち込むようになったようで、私達の関わりも少しずつ減った。
卒業後は一度も連絡を取っていない。
むしろこれで良かったと、今なら思う。あのままタチの悪い浮遊霊に苛まれていつか精神を病んでしまうより、ずっと良い。
もし霊障で悩んでいる人がいたら、試してみるのも良いかもしれない。
……ちょっと、守護霊も吹き飛んじゃうかもしれないけど。