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「ネオ・ジェネシス――新創世記ってか? 新世界の神にでもなるつもりかよ、おめでてぇな」
これ迄の経緯に時雨の鼻息も荒い。それもそうだろう。名前とは裏腹に、実質的支配を目論んでいる事に変わりはないのだから。
「私としてもあの『マジシャン』なる彼。ネオ・ジェネシスの重要なポストに在ると思われた彼だけは、出来れば生け捕りにしたかったのですが、そうも言ってられない程の実力者でした。私も本気にならざるを得ないまでに……」
琉月はシオンを“殺さず”倒せなかった事を、何処か申し訳なさそうに。
「まあ琉月ちゃんが本気になれば、大抵の奴は即お陀仏だし……って琉月ちゃん! その仮面を割られたのそいつに!? まさか顔に傷を付けられてるとかないよね? よね?」
すかさず時雨はフォローしたが、今更素顔の琉月に気付いたのか、確認するようにまじまじと覗き込む。
「そ、それは大丈夫ですから……」
顔を思いっきり近付かれて、流石の琉月も気恥ずかしさでどもっていた。
「だぁ~! もし傷の一つでも付けてたら、俺がぶっ殺してやる!」
「もう死んでるって……」
すかさず悠莉の突っ込み。
「ホント、時雨お兄ちゃんってルヅキの事好きなんだね~。あんまりお似合いじゃない気もするけど……」
何気に失礼な事を、悠莉はそっと幸人へ耳打ちしていた。
「まぁ……アイツなりに本気なんだろうよ」
幸人も一応のフォローを。時雨が琉月に対してだけは本気という事は、充分に理解していた。
「と、とにかくです」
だが今は冗談を言い合っている場合ではない。琉月は押し留めるよう時雨を引き離し、話を強引に戻す。恥ずかしいのが本音だろうが。
「この遺体は管理部門の方で検体します。物証さえあれば、すぐに全貌が解明出来る筈。今回は不幸中の幸いでした――」
そう琉月はこれからの事を詳細にしていく。
『ネオ・ジェネシス』の第七師団とされたこの遺体達は、狂座の管理下の方へ。
狂座の技術力を以てすれば、一つの細胞からその者の過去に至るまで網羅出来、近日中には『ネオ・ジェネシス』の全貌が解明出来るだろう。
そして解明後の組織殲滅は、エリミネーターの役目。再度彼等は待機という形へ。
ただ向こうは此方の状況を把握しているだろうから、常に周りに細心の注意を払う事を、改めて念を押された。
「――えぇ! 俺は琉月ちゃんの傍に居るよ。また別の奴等が来ないとは限らない訳だし」
「何時までも此処に居る訳にもいかないでしょう? 大丈夫ですよ。もうすぐ管理部門の方々も来る訳ですし……。それに、何かあったらまたすぐに来てくれるのでしょ?」
「そ、そりゃまぁ……」
時雨は指示があるまで待機という形が、余程心外なのか愚図っていたが(琉月の傍に居る口実が大きいだろうが)、そう言われると納得せざるを得ない。渋々と了承。
三人は再び仲介室を後にした。
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校舎内より出た三人は、肩を並べて夜道を歩いている。各々帰宅する為に。
「…………」
道中、互いに口数は少ない。幸人は元より、お喋りな筈の悠莉や時雨まで。
御互い、まだ意識し合っている――とは何処か違う。
「……おい、気付いているか?」
沈黙を最初に破ったのは時雨。それは幸人への問い掛け。
「あぁ……」
言われるまでもなく、幸人も気付いているという事。
「えっ――何々?」
悠莉は気付いていないみたいだが。
「さっきから着けられてるな俺ら」
それは彼等を追跡する気配。
「サーモの反応はねぇし、気配を消してる。だが匂うんだよ……“裏”特有のな」
「どうやら一人みたいだがな」
二人がこれまで培ってきた実戦的な勘。それが反応を示さぬ追跡者を、いち早く察知していたのだ。
勿論、これが『ネオ・ジェネシス』のものであるだろう事は自明の理。彼等の口数が、室内を出てより少なかったのはこの為だ。
“悟らせず泳がせる為”
まあ悠莉だけは二人の口数の無さを、相変わらず意地の張り合いだと思っていたのだが。
「へっ、ふん捕まえてやるぜ――って、お! 感付かれたか? 逃げやがった」
時雨は追跡者の気配が、逃走の方に向いたのを察知。
「追うぞ。逃がしゃしねえ」
「あぁ」
直ぐ様二人は逆に追跡に掛かっていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
事態がいまいち呑み込めない悠莉も、慌てて二人の後を追う――。
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「…………ふぅ」
落ち着いたのか、彼は一息吐いた。
“まさか感付かれるとは……流石SS級。だが此処まで来ればもう探せまい”
廃ビル内の立体駐車場。その鉄筋の柱に身を潜め、彼は一難過ぎるのを待つ。
全身を覆う白いフードは『ネオ・ジェネシス』の証。
探索師団である彼は、内密に幸人や時雨を追跡調査していた。SS級の弱点を探る為だ。
しかし何処にも弱点処か、隙さえも見つけられなかった。まともに会敵したら瞬殺されるだろう事を痛感。
やはり此処は“本部”へ戻るに限る――と、彼は辺りを伺い、追手が無い事を確認してから抜けようとした。
「――っ!!」
――が、フードで伺えない彼の瞳は、驚愕に見開かれた。全く気付かなかった。
「何処に行こうってんの?」
何時の間にか眼前には、煙草に火を点けながら立ちはだかる時雨の姿が。
「――ぐっ!?」
そして振り返ったその背後には、腕組みした幸人とその隣に悠莉の姿。
彼は何時の間にか、挟み撃ちの形になっていたのだ。
強行突破は不可能。逃げるしかない。
彼は横に反れて駆け出そうとしたが、一瞬で間合いを詰められた時雨に、首根っこを掴まれて拘束されていた。
「まさか逃げられると思ってた?」
足裏が宙から離れる程、片手で彼を持ち上げた時雨の表情が、俄に残酷な色が宿る。
「――で、テメェが『ネオ・ジェネシス』とかいう厨二病か? ったく、今時何のカルト集団なんだか。まあ何でもいいや」
「…………ちっ」
その見下し感もある侮辱に、表情は分からずとも歯軋りが聞こえた。
「さあ、全て語って貰おうか? 死ぬのはその後だ」
“結局殺すんかいっ――”
心の中で悠莉とジュウベエが同時に突っ込むが、これが只の尋問で済む筈がない。それは充分に理解していてもだ。
敵の末路は“死”のみ。それが裏の掟。
「…………」
それが分かっているからこそ、敵側の彼も黙して語らなかった。
「黙りってかい? まあそうだろうな。裏の掟として、そう簡単に口を割る訳にはいかねぇよな」
時雨としても、最初から彼が口を割るとは思っていない。
「じゃあ喋りたくなるよう、拷問するだけだ」
そう何処か愉しそうに、最初からその算段だったに違いない。
「生きながら死ぬより辛い苦痛を味あわせるのは、俺の得意分野でね」
“自慢になってねぇな……“
今度は幸人の突っ込みだが、彼は時雨の行いを止める気はない。自白しないなら手段は問わず、自白するまで追い込むのは当然だからだ。
「悠莉、俺の後ろに隠れてろ。わざわざ見る必要は無い」
「う、うん」
幸人は悠莉を自分の背後へ廻るよう促す。出来れば見せたいものでもない。当然の事とはいえ、決して愉快なものではないのだから。
「どっちにしろ死ぬんだから、その前に吐いた方が楽だと思うけど? 素直に吐けば一瞬で楽にしてやるよ。さあどうする? これが最後の警告だ。俺は気が長い方じゃねぇんだよ!」
時雨はより一層締め上げて脅しをかけた。彼はフードの下、きっと恐怖と絶望におののいているに違いない。
「……エ、エンペラー!」
「あん?」
観念したのか、フードの下から呟かれた声。だがこれだけでは意味が分からない。
「分かるよう、もっとはっきり言えやオラァ!!」
業を煮やしたのか元より短気なのか、時雨が怒声を張り上げた瞬間――目を背けたくなる何かが起きた。
“や、殺りやがった……。短気というか何というか……”
一部始終を垣間見ていたジュウベエも、その暴挙と惨状に思わず目を背けそうになる。
時雨に締め上げられていた白い彼は、幾多もの赤い線が全身を走ったと共に、一瞬で無数の血肉の塊に分断されてしまっていたのだ。
「……おい時雨、吐かせるんじゃなかったのか? 何もいきなり殺さなくとも……」
流石にその先走り感も過ぎる行為に、幸人も咎めるよう時雨へ詰め寄った。
暫し呆然としていたのか、時雨は驚愕の表情で立ち竦んでいる。
「い、いや……俺じゃねぇ」
「あ?」
時雨の呟いた意味が分からない。先程のは誰もが、時雨の力に依るものだと思ったからだ。