テラーノベル
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そう言ってスマホを出した。
「え……?いいんですか?」
「もちろん、一度乗りかかった船だ。いつも楓くんには元気を持ってるし、それぐらいお安い御用だ
よ」
◆◇◆◇
そんなこんなで、翌日の7月4日
その情報屋という人物と仁さんと俺の三人で会うこととなった。
仁さんと一緒に家を出て、仁さんの横を歩きながら道のりを歩いた。
そうして着いたのは高層階マンションの最上階。
エレベーターが最上階で止まり、慣れた様子で歩く
仁さんの後ろを金魚のフンのようについて行くと
「ほらマサ、来たぞ」
仁さんが、真正面のデスクに社長面で座る男を見ながら言った。
そこにはテーブルの下で足を組みながらコーヒーを啜る
明るいブロンドカラーで、全体的にレイヤーがたくさん入った
動きのあるミディアムレングスのヘアの男性がいた。
「ま、待ってください仁さん……言ってた情報屋ってあの、あの人ですか?金髪の」
そう聞くと仁さんはそうそうと頷いて「おーい」と手を挙げて近づく。
「待ってたよじん〜!…..お、もしや隣の子が例のΩくん?やっほー、可愛い顔してるね」
ゆったりとしたシルエットの黒いパンツに、白いプリントTシャツを合わせた
ラフでカジュアルな軽装とは裏腹に長い前髪から覗く切り目は鋭く
目が合った瞬間
ビクッとして、つい仁さんの背中に身を隠してしまった。
「あれれ……俺ってば会って早々嫌われちゃった感
じ?」
「お前がズカズカ聞くからだよ。ったく…」
仁さんはため息を吐いたあとのような声でそう言ったかと思えば
俺の方を見て、少しだけ目線を落としながら、優しく言った。
「大丈夫、楓くん」
「こいつ、こう見えて番いるし、悪い奴じゃないから。ちょっとだけ顔、見せたげて」
その言葉に、少しだけ胸が緩んだ気がした。
仁さんの声には、安心できるあたたかさがある。
だから、俺は恐る恐る顔を出して、将輝さんをもう一度見た。
「は…っ、はじめまして……花宮楓って言います」
「うんうん、じんから聞いてるよ。」
軽い調子な言葉の後に「さ、座って座って」と席に促された。
「俺は|恵比須 将輝《えびす まさき》。情報屋の恵比寿って呼ばれてる。気軽にマサちゃんって呼んでいーよ」
そう言うとニコッと笑って手を差し出してきた。
俺はしどろもどろに握り返した。
「は、はい、よろしくお願いします……!」
「ん。じゃ、早速だけど本題に行こう」
図書館と呼べるほどに本棚がズラリと壁際に設置されている部屋に移動すると
ローテーブルを挟むように置かれた、成功者しか座らないようなソファに腰掛け
俺と仁さんが横並びに座り
向かいに将輝さんが座ると、仁さんは将輝さんに今回の要件について大まかに説明をしてくれた。
仁さんの説明に合わせて例の紙切れを将輝さんに向けて差し出す。
すると彼は「あー……なるほど」
と頷きながら紙切れの暗号をじっくり見始めて、言った。
「…これさ、多分〝単語帳暗号〟だよ」
「単語帳……ってことはやっぱり辞典とかですか?」
「その通り。よく昔のネット掲示板とかで使われてたんだけど、ページと単語の番号を指定して、文章を隠す手法。」
「ほら、ここ。pってページ、Wってワード=単語って意味。」
そう言って紙切れを俺に見せながら説明してくれて、ここに来てようやくひとつの謎が解けた。
「つまり辞書をひいて、各ページの見出し語を割り出して、それを解読すればいいってこと」
「な、なるほど…!」
「でも辞書つったって色々ある、英和辞典だけでも何冊もあるわけで」
仁さんがそう返すと
「そう。だから問題ば”どの辞書が”ってことだけど、かなり絞れたよ」
とサラッといってのけた。
「え?!今ので、分かったんですか…?」
驚きのあまり聞き返すと、将輝さんは頷いて
「多分これ、ジーニアス英和辞典の、第5版だと思うな」
と、簡単に断定づけてしまった。
「なんでそう思うんですか?」とさらに訊く。
「初対面だもんねえ、楓ちゃんは知らないか~、俺のこと」
意気揚々とちゃん付けしてくる将輝さんに
「え?は、はい」とぽかんとしながら言うと
彼は自信満々と言った顔で武勇伝の如く語り始め
る。
「俺ね、情報屋になる前の仕事で英和辞典とか親の顔より見てたからさ」
「ほとんど単語の意味とか何ページ目だったとか頭に入っちゃってんだよね」
「もちろんそれだけじゃない、最大のヒントはp.2198」
「2,000ページ以上ある英和辞典は限られている。
しかも、英和の中でも日常語からアカデミックな専門語まで広くカバーしてる辞書じゃないと、この語数は出ない」
「そんなことまで…」
「そして、単語の分布が安定している辞書は何かって考えたら、大修館のジーニアス英和辞典 第5版がまさにそうなんだよ」
将輝さんは後ろの棚から辞典を取り出して、ページを捲る。
「ほら、ここ。……1068ページの上から16番目を見れば…」
それから数分の間に将輝さんは単語を抜き出し
「んで、これを繋げると【𝐈’𝐦 𝐠𝐨𝐢𝐧𝐠 𝐭𝐨 𝐜𝐫𝐮𝐬𝐡 𝐭𝐡𝐞 𝐬𝐮𝐧𝐟𝐥𝐨𝐰𝐞𝐫 𝐢𝐧 𝐭𝐡𝐞 𝐧𝐞𝐚𝐫 𝐟𝐮𝐭𝐮𝐫𝐞.】ってなるね」
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