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どれくらいの時間が流れていったのだろうか?
まだ数分くらいのような気もするし、数十分以上経ったような気もする。
ここに監禁されてからの約一週間は、時間の感覚までも瑠衣から奪ったようだ。
拓人が瑠衣を待たせてから約一時間後、ドアがカチャリと音を立て彼が脱衣所へ戻ってきた。
「ごめん、アイツらの話に付き合わされて予想以上に時間が掛かっちゃった。でも瑠衣ちゃんの荷物、こっそりと持ち出せたよ」
いたずらっぽい笑みを覗かせながら、拓人は瑠衣の小型バッグを見せて中身を確認させる。
本来なら、拉致された当日に投函するはずだった六月のコンクールの封書も入ったままだ。
「良かった……。持ち物全部入ってます……」
悲しげな面差しを覗かせつつ安堵したのか、瑠衣は唇を緩めながら拓人に拙く微笑むと、彼は表情を引き締めながら彼女を見やった。
「じゃあ瑠衣ちゃん…………今からここを抜け出すよ。いいな?」
拓人の真剣な眼差しに、瑠衣は息を呑む。
いよいよ脱出。失敗したら、あの送迎役の男らに命を奪われるかもしれない。
「…………はい」
ピンと張り詰めた空気の中、身の引き締まる思いで答えた。
拓人がそっと扉を開け、周囲を確認すると、幸い廊下には誰もいない。
彼が瑠衣の手を引きながら、足音を立てないように玄関へ向かっていく。
周囲を見回し、誰もいないか確認したところで玄関ドアをゆっくりと開けた瞬間。
送迎役のうちの一人が、ちょうど廊下に出てきて、拓人と瑠衣が逃げようとするのを見られてしまった。
「逃げたぞ!!」
その声に弾かれるように、拓人は瑠衣に『走るよ!!』と言い、二人は一目散に駆け出した。
***
「乗って!」
山小屋風の別荘らしき建物の裏手に、拓人の黒いセダンが駐車してあり、二人はすぐに車へ駆け込み慌ててシートベルトを締めると、急発進させた。
建物から出てきた送迎役の男たち数人の前を猛スピードで疾走し、男らも慌てて黒のバンへ向かう。
大きく揺れ動く車内で、瑠衣の心臓がバクバクと打ち鳴らしている。
「瑠衣ちゃん、悪いんだけど、ダッシュボードの上にあるスマホの電源切ってくれるかな。あの闇バイトに採用してもらった際、変なアプリを入れられてさ、俺の居場所が特定されて自動送信させられちゃうんだよ」
「わかりました」
瑠衣は拓人のスマホを手にして電源を切り、元の位置に戻した。