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拓人の運転する車は山道を抜け、一般道に入ると『どこから高速に乗るかな……』とカーナビの画面に視線を落とし、独りごちながら思案しているようだ。
「恐らく、アイツらは俺らが一番近い高速のインターから乗っていると思っているかもな。このまま下から東京へ向かうっていうのも一つの手だけど、相当時間が掛かるし……。まぁ、途中で適当に高速に乗ればいいか」
ステアリングを握りながら、拓人は薄く笑う。
しばしの間、車内に沈黙が二人が包み込み、車のモーター音だけが静かに響いている。
「瑠衣ちゃん」
不意に、拓人が呼んだ。
「なぜ俺が見張り役をやってたか、まだ理由を言ってなかったよな?」
「はい」
前方に視線を向けたまま運転する拓人を、瑠衣はチラリと横目で見やる。
「かなり前に、凛華さんと三人で会った時、何者かに尾行されている、って言ってた事、覚えてる?」
「そういえば…………そんな事もありましたね……」
半年近く前の事を言われて、瑠衣は虚を突かれた。
凛華と瑠衣が偶然拓人と会ったのは、昨年の十一月だったか。
確か、瑠衣の検査結果を聞きに、お世話になっている産婦人科に行った時だ。
誰かに後を付けられている事を凛華が拓人に言い、その後に時間潰しで新宿の電鉄系ホテルのラウンジでコーヒーを飲んだのだ。
「実はさ、あれ以来ちょっと気になってたんだ。秘密厳守の娼館の人間が、素人のヤツに後を付けられていた事……」
拓人は、もしかして闇バイトか何かで、凛華と瑠衣を尾行する人員を募集していたのでは、と思い、SNSを通して探したという。
「凛華さんには、すごくお世話になってたし…………俺としては、やっぱり引っ掛かっていたんだよなぁ」
声のトーンを落としながら神妙な面持ちで答える拓人。
尾行に関する闇バイトの募集は膨大にあり、諦めずに探してみたものの、これといった内容の募集は出てこなかった。
その後も彼は闇バイトの募集を毎日チェックしていたらしい。
「尾行に関する募集は、もう見つからないって諦め掛けた時…………見つけてしまったんだよ……」
悔しさを滲ませながら、拓人がポツリと漏らした。
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