テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「パイセンの隣」のその後…みたいなものです。
暖かい風で目が覚める。
目の前に広がっているのはただ白く、そして明るい世界だった。
空は綺麗な青で、雨が降った後じゃないのに虹がかかっていた。
それで、これは夢だとわかった。
けれど現実には戻らなかった。
いつもなら夢だと分かったら、すぐ現実に戻るのに……。
でも、それでいいと思ってしまう。
戻りたくない。
パイセンのいない世界で、生きたいとはどうしても思えなかった。
ずっとここで…夢の中で……。
「……十二村?」
後ろから声がした。
懐かしい声。
おれが、ずっと聞きたかった。
生きている声。
声が聞こえた方に向く。
「パイ……セン?」
「十二村…なんで……」
パイセンだ。
おれがずっと隣にいるって決めた人。
灰色の髪、隈のある目、俺より低い背……。
会いたくて仕方なかった人。
夢にしては本当に都合が良すぎる。
おれは走ってパイセンのところへ行き、そのまま抱きついた。
そして、2人揃って倒れる。
「お、おい、十二村……危ないだろ」
いつものパイセンで、口元が緩む。
お互い、上半身を起こし、向き合う。
久しぶりのパイセンを見て、 顔から水が流れていく。
止めようとしても止まらなくて、小さくごめんなさいとしか言えない。
それでもパイセンは静かにおれを撫でて、水が止まるのを待ってくれた。
『もう口無先輩はタヒんでいる』
初めから…わかっていたっす。
あの日、あの交差点で、本当ならおれがタヒぬはずだった。
信号無視のトラックに、本当ならおれが轢かれるはずだった。
タヒぬ。
そう悟り、人生ってこんなもんか、そう思った。
でも、パイセンはおれの名前を叫んで、おれを押した。
パイセンよりおれの方が身長は高いはずなのに、簡単に押されて倒れる。
いたたと言う暇なんてなく、おれがいた位置に来たパイセンは、走ってきたトラックに当たった。
赤い花が飛び散った。
少し先に吹っ飛んでしまったパイセンをおれはただ見るしか出来なかった。
倒れたまま、少しだけ上半身を起こして、顔だけをパイセンの方を向けて……。
甲高い悲鳴が聞こえてきて、周りがうるさくなる。
だが、そんなのが気にならないくらいに自分の心臓がうるさかった。
激しく脈打つ心臓が、今にも飛び出しそうで、息が上手く吸えない。
息ってどうやって吸ってたっけ?
頭の中がおかしくなっていく。
当たり前のことが出来なくなっていく。
落ち着くっす自分。
なんとか自分に言い聞かせ続け、よくやく呼吸がしっかり出来るようになってきた。
遠くから赤のサイレンが聞こえる。
立ち上がり、パイセンの方へ駆け寄り、近くにししゃがむ。
時間が経ってしまっていたが、まだ少しだけ息をしていた。
動かさないようにパイセンに触れる。
パイセンの下には水たまりができている。
暖かいパイセンの体温はだんだんと冷たくなっていく。
あぁ……口無パイセン?
そんな…なんで……
置いていかないで……
コメント
2件
初コメ失礼します…!!!! 全ての話が好きすぎて思わず 一気読みしてしまいました…… 絵も物語も上手で尊敬します…! 続き楽しみに待ってます! (急かしてるように感じたら 申し訳ございません…)